213話 呪術合戦
呪殺石をタウロが直接手を添えて闇魔法を唱えると、はっきりわかる程黒い靄が噴き出し、体に絡みついてくる。
相手側の呪術師は相当な腕なのかタウロが一度、呪い返しの魔法を唱えても押し返してきた。
「相手は本職の人っぽいから押し返すのも簡単じゃないな…。」
タウロはまた、魔法を唱えた。
すると、タウロに絡みついていた黒い靄が呪殺石に吸い込まれていき一瞬留まると、次の瞬間、一気に噴き出すと今度は天井の隙間に吸い込まれる様におびただしい黒い靄が出て行った。
タウロにかかった呪いはまだ残っていたが、それは気にせず、お店の外にタウロは飛び出した。
黒い靄は暗くなり始めた宵闇に溶け込む様に空に広がりながら呪いの主犯のいると思われる例の屋敷の方向に消えていった。
すると脳内に『世界の声』がする。
「特殊スキル【&%$#】の発動条件の1つ<膨大な魔力を送り返す者>を確認。[魔力操作](極)を取得しました。」
「とりあえず、成功みたいだね…、何か覚えたし…。『浄化』。」
タウロは自分にかかった呪いを解いて魔力回復ポーションを飲むと、ほっと一息つくのであった。
「タウロ!大丈夫!?今、何か禍々しいものがここから移動する気配があったけど!?」
依頼主を送り届けていたエアリス達が丁度、戻ってきた。
「かなりヤバそうな気配だったが大丈夫か?」
アンクも感じたらしく大剣に手をかけたまま、走り寄ってきた。
ラグーネも同様で、すでに剣を抜いている。
「みんなにはあれは見えなかった?」
「何の話?」
「黒い靄的なの…。」
「気配しかわからなかったけど?」
エアリスは首をかしげる。
「そっか、今、呪いを送り主に返したところだよ。」
「「「返した?」」」
エアリス達三人は、タウロの言う意味がわからず、キョトンとするのであった。
戻ってきたエアリス達から依頼主の母親から出来る限り聞いた情報を店内で話して貰った。
「リリョウさんのお母さんの話だと、揉めていた地元の有力者が街外れで見かけない他所の人と会っているところに遭遇したんだけど、自分の気配に気づき慌てて逃げる様にその場を立ち去っていったらしくて、その時、魔石をひとつ落としていったらしいの。それを拾ったお父さんは相手が仲の悪い有力者だから、渡せずに保管してたから、それがトラブルの元かもしれないって。」
「それを近所の人に漏らしたのね。」
「え?そうそう。そのお父さんが常連のお客さんに相談したらしいけど何で知ってるの?」
タウロは、呪いの主の屋敷で聞いた事を話した。
「──という事で、主犯はその有力者で間違いなさそう。あ、この魔石、魔力を込めて魔力による解錠をしないと中の情報が確認できない仕組みっぽいのだけど、エアリスが解錠できないかな?」
タウロはマジック収納から魔石を取り出してそう言うと、エアリスに渡した。
「わかった、やってみる。」
エアリスは頷くと魔石を受け取り、解錠を試み始めた。
「で、さっきの返したって何の話だ?」
アンクとラグーネが禍々しい気配の元らしい話がまだ気になっていたらしかった。
「それはね?」
タウロが今度は、呪い返しの説明をした。
「…リーダー。無茶をするなよ…。」
アンクは呆れるとため息をついた。
ラグーネも同意見で、
「私達がいないところでそんな事をされては守れないじゃないか。次からは私達がいるところでやってくれ。」
と、恩人であるタウロの身を案じた。
「ごめん…。次からは気を付けるよ。」
真剣なトーンのラグーネに、タウロは素直に反省するのだった。
「…そうなると相手の呪術者は呪い返しで今頃大変な事になってるって事か?」
アンクが、真面目な顔つきで言う。
「そうだね。場合によっては、周囲の者にも害が及んでるかもしれない。」
「そんなに凄い呪い返しをしたのか!?」
ラグーネは素直に驚いた。
「元の呪いが強力だったからね。呪い返しでその倍以上の呪いで返っていくから、あちらの術者は呪い返しの対策をしてなかったら良くて再起不能、悪くて即死。周囲もかなりきつい呪いにかかってると思う。」
「…それほどの呪術者なら、暗殺ギルド絡みかもしれんな。」
アンクが、可能性を口にした。
「対策されてたらどうなるんだ?」
「うーん。あの靄の濃さだと焼け石に水な気もするけど、重篤な呪いに悶絶する様な苦しみに晒されているかもしれない。」
「…どちらにせよ、ただでは済まないという事だな。」
ラグーネはゾッとして首を竦めるのであった。
そこへ、
「解錠出来たわよ。それでは情報を開くわね。」
とエアリスが魔石を壁に向けて掲げた。
すると、文字が投影される。
「…これは、かなりやばい内容じゃねぇか?」
表示された内容にアンクは息を飲む。
タウロ達もその内容に唖然とするのであった。




