212話 呪いの主犯
一行を見送り、ダレーダーの街に残ったタウロは『気配察知』と、『気配遮断』を使って店内で一日じっとする事にした。
ダレーダーの街とはいえ、このお店の場所は少し外れにあるので人通りは多いとは言えない。
だが、それでも人は通る。
昼にもなるとやはり通りには人が溢れ始めた。
だが、このお店は素通りだ。
依頼主の母親の感じだと、ここ数日はお店を開いてなかったのだろうから、この日も閉じていても不審に思う者はいなさそうだ。
そこへ、1人の気配を感じた。
明らかにお店の扉の外から室内を伺う雰囲気だ。
それもあんまり、いい感じではない。
タウロは裏からその気配を伺いながら表に回ると、通行人のフリをして店内を伺う人物を確認した。
それは小柄な鼻の大きい男だった。
一時、扉の隙間から室内を探っていたが、これ以上は無駄と思ったのか、お店から小走りで離れていった。
タウロはそれを尾行する事にした。
タウロの『気配遮断』で、小男は全く気付かず、堂々と大きな屋敷に入って行く。
今度はタウロが屋敷の裏に回り室内を伺う事にした。
「──で、どうだ?もう、妻の方もくたばったか?」
室内の主と思われる男は地声が大きいのか耳をすませば、外からでも声が聞こえてきた。
「室内からは気配は感じなか──、──です。」
「感じなかった?馬鹿野郎!それなら店内に入り、近所の奴から聞き出した情報通りなら、店主が拾ったらしいワシが落とした魔石の指令書を回収できただろうが!」
「ですが、まだ、中には呪殺石があるじゃないですか!俺は、呪いにかかりたくないですよ!」
どちらもヒートアップして声が響いてくる。
魔石の指令書?
タウロは、そう言えばマジック収納に回収した店内の荷物の中に加工された魔石が入っていた事を思い出した。
「呪殺石に触れたり長くいなければ、呪いはそんなに影響はないんだよ!」
「そんなにってあるんじゃないですか!勘弁して下さいよ!」
「何の為に探りを入れに行かせたと思ってやがる!呪術師が呪殺石との繋がりが途絶えたと言うからだぞ!?…はぁ。──明日ま──こい。」
「…わか──ます。」
どうやら呪殺石の事は、ここの主人が主犯の様だ。
だが、魔石の指令書というキーワードが気になる。
タウロは、この屋敷の主人が誰なのか通行人に確認するとお店に戻るのであった。
その日の夜は、何事も無く過ぎ去った。
そして、日が明けた。
予想通りなら、また、小男が店内を探りにやって来るはずだ。
ちょっと驚かせて相手の出方を窺おう。
タウロはそう考え、マジック収納に入れて置いた商品を店内に戻すと、朝からお店を開く事にした。
もちろん、店番は自分だ。
一時すると、お客が数人来て幾つか日用品を買っていった。
昼前になると、例の小男がやってきた。
タウロの姿を見て驚いている。
「君は見かけない子だね?」
タウロに小男は話しかけてきた。
「いらっしゃいませ。僕ですか?今日からここで手伝ってます。」
「手伝い?」
「はい、おばさんが数日体調を崩してお店を閉めてたんだけど、これ以上は閉めるわけにはいかないからと親戚の僕が手伝う事にしたんだ。おばさんも昨日から体調良さそうだし僕が手伝うのは数日の間だけかもしれないなぁ。あ、おじさん、何か買いませんか?」
「あ、いや、珍しく開いてるから覗いてみただけだから。それで、そのおばさんは今、奥にいるのかい?」
「うん、まだ、全快はしてないから寝て貰ってるよ。あ、おばさんに用なら数日後にしておくれよ。」
「そ、そうか、回復するといいな。じゃあ、また、数日後にでも来るよ。」
小男はそう言うと、慌てて帰って行った。
あの屋敷の主人に報告にいったのだろう。
あちらから動いてくれれば、こちらにもつけ入る隙が生まれるだろう。
タウロの予想通りなら、あちらを無力化できる方法もある。
相手の反応を後は待ってみよう。
夕方になると、タウロの身に嫌な気配がまとわりついてきた。
どうやら、エアリスの結界魔法が自然に解けた事で、呪殺石にまた、あちらが呪いを送ってきた様だ。
今度は室内にいた自分に呪いがかかり始めている。
これはタウロの狙い通りだった。
タウロの狙いとは、闇魔法による呪術返しだった。
呪術は遠隔で呪う事が出来る反面、リスクもある。
それが、呪い返しによる反撃の可能性だ。
一旦、その呪いを返されると文字通り倍返しになる。
タウロは、闇魔法に関して、闇の精霊から加護を貰ってるほどだから、呪い返しも出来る。
「よし、反撃開始だ。」
タウロは、呪殺石に両手を添えると、呪文を唱えるのだった。




