21話 あぶく銭は身につかない
新たな能力「精密」は、正直なところ、よくわからない能力だった。
精密というからには、細かい作業に力を発揮すると思うのだが、普段細かい作業をほとんどしてないので何をすればいいか思いつかず、数日が経っていた。
そんな中、弓矢の訓練をギルドの中庭で普段通りやってみると、いつもの距離なら的に百発百中になり、一気に上達していた。
「こういう事に、精密は関わってくるのか…!そう言えば、精密射撃という言葉があった気がするなぁ。」
前世の記憶を振り返りながら思い当たったが、まだまだ非力なタウロである、威力の方は文字通り子供並だった。
「『精密』は何となくわかったけど、それよりミスリル鉱石がなぁ。」
タウロは”偶然”ミスリル鉱石を発見した少年として騒がれるかもと懸念してたが、その程度の心配は無用だった。
サイーシの街が所有する採石場から結構な大きさのミスリル鉱石が発見された事自体が大事になっていたのだ。
サイーシの街の財政が一気に変わる可能性がある、ただ事ではない。
さらには、このミスリル採掘の事実が全国に広まれば、一攫千金を夢見るよそ者が沢山押し寄せる可能性が大だった。
人が増えれば街は混乱するだろう、治安にも影響する。
タウロは、そんな騒ぎの中心になりたくなかったので、ミスリルは早々にギルドを通して売り払う事を考え、手続きを進めた。
タウロにしてみれば大金が入ると狙われる可能性もある。
本当は採石場側がその場で買い取るシステムだったが、物が物である。
なので、ギルドに間に入って貰い、買い手を探す事にしたのだ。
そして、売れたら直ちに、ギルドが運営するお店を貸し切って、サイーシ支部の職員、関係者、お世話になってる街の人達、冒険者全員を招いて大盤振る舞いするつもりでいた。
それでも、使いきれない可能性は大いにあるが、その場合、残りは全部、孤児院に寄付するつもりでいる。
前世の佐藤太郎のコツコツやってきた経験曰く
「あぶく銭は身につかない」
が持論だった。
良い事に使い切ってしまうのが吉だろう。
それが身の安全にも繋がるはずだ。
翌日、ミスリル鉱石は領主であるサイーシ子爵が買い取る事になった。
自分の領地で採石された第1号のミスリルだ、手元に置いておくのが縁起が良いと思ったらしかった。
買い取り額もそういう意味で、色を付けてくれた。
「…で、ギルドの仲介料を差し引いても金貨105枚…。」
タウロの予想を遥かに超える額である。
「ミスリルってそんなに希少なのね…。」
ただただ、びっくりである。
真眼でもっと確認しとくんだった、と思うタウロだった。
ミスリルの売却額は、日本円で1050万円、10歳の子供には荷が重すぎる額だ。
支部長室でタウロはその大金である金貨の入った袋を渡されたのだが、支部長のレオがどうするのか聞いてきたので、タウロの考えを述べた。
「うむ。全部使い切るか…。その歳でその決断か。まぁ、いい。派手にやるか!」
支部長レオは豪快に笑うと、タウロを連れてギルド1階の受付前ロビーに行くと
「みんな聞け!タウロ・サトゥーがミスリルをみつけたのは、みんな知っての通りだが、売ったお金でみんなに奢りたいらしい。数日後、隣を貸し切ってパーティーするぞ!」
と、宣言した。
おおー!!!
その言葉に、その場にいた、職員、冒険者、関係者らがどよめき、次の瞬間にはギルド内はお祭り騒ぎになった。
「やったー!ハンバーガーが沢山食べられるぞ!」
「馬鹿野郎、こんな時は酒をしこたま飲むに決まってるだろう!」
「どっちも飲み食いすりゃいいんだよ!」
「ありがとうな、サトゥー!」
感謝の言葉と共に揉みくちゃにされるタウロであった。




