209話 部屋でのひと時
アンクとハウスシェアを始めて二週間が経っていた。
最初の数日はエアリスもちょくちょく顔を出してきていたのでラグーネも自然とこっちに来て4人でいる時間が増えたが、エアリスも同じ女性のラグーネと二人で話す時間が増えたので自ずと男女別に分かれる様になってきた。
4人一緒の時は、タウロとエアリス、アンクとラグーネと分かれる事は多かったが、やはり同性同士で話す事は多い。
アンクは、傭兵稼業が長く一か所に長く留まる事が多くなかったのか、ゆっくりした時間が苦手の様子だったが、部屋を覗くと最近やっと荷物を解いて、ある程度広げて置く様になった。
それまでは、一か所にまとめて置いていたのだ。
「リーダーはダンサスの村は長いのかい?」
ある日の夕方、食後にお酒を飲みながらアンクが聞いて来た。
「そうでもないよ。以前は別の街にいたし。」
「その割にはこの村の村民達はリーダーを知ってる人が多いな。」
「ああ、それは…」
タウロはこの村が一時、呪いで大変だった事、それを同じ冒険者のボブと一緒に呪いを解いて恩人扱いされた事を説明した。
「そりゃすげぇな。」
アンクは感心してみせた。
「それよりも、アンク。なぜ僕達をいつも見張ってるの?」
タウロが不意に不可解な質問をした。
「…いきなりなんだい?俺は別に見張ってるつもりはないぜ?」
アンクはお酒を飲む手をピタリと止めると答えた。
「エアリスと僕の事がやけに気になっていると思ってね。」
「…はぁ。…そりゃまあ、いくら冒険者の先輩とはいえ、子供だからな。多少は気も使うさ。」
アンクがもっともらしい事を答えた。
「それだけじゃないのはわかったけど…、追及はされたくない?」
タウロが、含む言い方をする。
「…そりゃな。大人の事情も察してくれ。」
アンクが苦笑いをすると本音を少し漏らした。
「…わかりました。信じます。今後とも《《みんな》》をよろしくです。」
タウロは、アンクの精一杯の答えに察すると頭を下げてお願いした。
「ラグーネも入れるのかよ?まあ、あいつは鍛えがいがあるけどな。わはは!」
アンクは緊張感を解くと全てを吹き飛ばす様に大笑いするのであった。
タウロの想像通りなら、アンクは敵ではない。
それどころか邪魔をしてはいけないだろう。
それは、エアリスに危害をもたらす事とイコールになるはずだ。
つまり、アンクはヴァンダイン侯爵が雇ったエアリスの為の護衛の可能性が高い。
さらに言うと、エアリスの近況を報告する事も仕事のうちなのかもしれない。
元々腕利きの傭兵だったアンクに依頼し、冒険者に急遽なって貰い、お金と実力で短期間にEランク帯まで上げてこっちに来たのだろう。
もしかしたら、自分の事も護衛対象、もしくは素性を調べて報告する様に言われている可能性もある。
…僕の素性を調べる…。うん?となると、雇い主は他にもいるのかな?
タウロの想像外の雇い主の可能性が不意に見えて考え込んだ。
アンクにもう少し詳しく聞きたくなったが、これ以上は答えてくれないだろう。
まあ、一緒に居れば見えてくるものもあるかもしれない。
それに、チームを組んでみて、アンクはとても信用できる。
依頼以上の仕事をしてくれる人物だと思えるので、このまま一緒にチームの仲間としていた方が良い結果をもたらすだろう。
タウロは一つの疑念を晴らすとすっきりするのだった。
翌日。
「アンクおはよう。」
「…おはよう。」
どうやら、アンクはあの後、安心したのか、逆にバレた事を恥じたのかお酒を普段より多く飲み過ぎた様だ。
二日酔いで苦しそうだったので、タウロは状態異常回復魔法をアンクに唱えて二日酔いを解消して上げるのだった。
「…おお?二日酔いが治った!リーダー、これからはその魔法、毎回頼む!」
いやいや、沢山飲む気満々なのね?それじゃ、エアリスの護衛として失格だから!
呆れるタウロであったが、楽しく飲んでる途中で魔法を使って酔いを醒ます嫌がらせをしようかと考えるのであった。




