201話 元傭兵
憩い亭の食堂の一角。
タウロ達三人は1人の男性を前に座っていた。
その希望者はぼさぼさの赤い髪に、上から下まで黒一色で鉄鎧を着ており、大剣を背負っていて顔にはこめかみに傷がある。
その装備の年季の入りようから、もしかしたら冒険者の前は傭兵などで戦場に居たのかもしれない。
どうやら、本当に実力で短期間の内にE-まで上がってきた様だ。
「それで、アンクさん?は、なぜ僕達の様な一見すると誰もが避けそうな若いチームに入りたいと思ったんですか?」
「うん?前衛職で募集してたチームで目に入ったのがお宅だったからなんだが…、これは、驚いたな…。」
「「「…?」」」
「いや、すまん。そっちのねえちゃん、珍しい種族だな。口にはしないが久しぶりに会ったよお宅の種族には。」
アンクが、ラグーネを見て驚いてみせた。
「…よく私の種族が分かったな。」
ラグーネは視覚阻害系魔法で種族がわからない様に隠している。
普通に見てわかるはずがない。
「俺は、目がよくてな。多少の阻害系は通じない。それと低級人物鑑定持ちでもあるんだが…。そっちの嬢ちゃんの阻害系スキル凄いな、名前が全くわからん。」
アンクは、エアリスを指すと首を振って大袈裟に身を竦めてみせた。
阻害系を見破るスキル持ちだろうか、鑑定も持っていて、腕も立ちそうだ。
「僕がリーダーなので、子供に仕切られる事になりますが、大丈夫ですか?」
「傭兵ってのは、戦場では子供も大人も関係なくてな。長く生き残った奴が偉いんだ。見たところ、子供とは言うが、冒険者歴はそれなりに長そうだ。ましてや俺は一か月そこそこの駆け出しだ。古参の話は素直に聞いて吸収するのが長生きの秘訣だわな。」
どうやら、リーダーが子供という事は気にしないという事らしい。
エアリスは胡散臭そうにそんなアンクを見ている。
「では実力を見たいので、Eランクのクエストを一緒にやって貰ってもいいですか?」
タウロは早速、提案した。
「お?話が早いな。いいのかい?俺みたいな26のおっさんが入ったら平均年齢上げちまうが?」
どうやら、実技試験は合格できる自信がありありの様だ。
「見た目の割に…、あ、失礼、悪い意味ではなくです。思ったより固定観念に囚われず、理解がありそうなので…。あと、質問に対して正直にお答えして頂けてるみたいですし、自分から手の内を見せてくれているので、僕もそれには答えたいと思います。」
タウロはアンクの目をじっと見て答えた。
「…末恐ろしいな少年。」
タウロの目を見てアンクは呆れるのだった。
アンクの合否判断の為のクエストはいつものゴブリン討伐と、そして、お約束の薬草採取クエストだった。
「…ゴブリン討伐はわかるが、薬草採取とは、また、意外なチョイスだな。」
アンクは、この読めないタウロのクエスト選びに困惑した。
「基本、うちのチームはこれなので。じゃあ、みんなで始めましょう。」
エアリスとラグーネは当然の如く、薬草を当り前の様にすぐに見つけては採取していく。
タウロは、見つけづらい筈の高価な薬草をその場からちょっと離れたと思ったらみつけてすぐ戻ってきた。
その姿を見てアンクも慌てて、薬草採取を始めるのだった。
意外にアンクは薬草採取を心得ていた。
王都のギルドでちゃんとクエストをこなしたのか、それとも、傭兵時代にやっていたのか、見かけによらず、見分け方もちゃんとわかっている様だ。
「──いつから、傭兵をやってたんですか?」
タウロはエアリスに薬草の位置を教えながらアンクに質問した。
「…10歳の頃に雇い主の脇について槍を持ってからかな。その時に初めて一人殺ってから、ずっと傭兵稼業だったな。」
今は、26歳らしいから15年以上の経験を持っている事になる。
歴戦の戦士だ。
「何でまた冒険者に?」
「理由は簡単だ。人を殺すのに飽きた。かと言って戦場に長い事いたからな。他の事は大してできない。冒険者ならまだ、全く畑違いでもないと思ってな。」
アンクの答えは明快だった。
言ってる事は本音だと思うが、何かひっかかる部分はある。
だが、嫌なものではなかった。
タウロは、アンクが小細工するタイプの人ではないと思った。
「じゃあ、そろそろゴブリン討伐といきましょう。近くにゴブリンの群れがいるみたいですし。」
タウロは『気配察知』でゴブリンを確認し、『真眼』でシルエットを捉えた。
「お!やっと俺の本業の腕を見せられるな。」
アンクは背中に背負っている大剣の柄を軽く叩いてみせるのだった。




