181話 怪しい雲行き
新旧?『黒金の翼』の揉め合いは収まりそうになかった。
タウロ的にはエアリスが言う通り、シンとルメヤがそんな勝手な事はしないと思う反面、お人好しなので女性陣に押されて認めてしまった事もあり得ると思った。
「とりあえず、エアリス。シンとルメヤの言い分を聞くまでは落ち着いて。」
あちらの女性陣は自信満々で、
「確認しても私達が『黒金の翼』である事に変わりはないわよ?ふん!」
とレンという盗賊職の女が捨て台詞を吐くとタウロ達から離れて行った。
エアリスはその捨て台詞にも憤慨したが、ある事に気づいて顔色が悪くなった。
「…タウロ。あの二人が向かってるのって、私達の家の方向じゃない?」
タウロもそう言われる前からまさかとは思っていた。
家の管理は、シンとルメヤに任せている。
多分、二人の性格から、自分達が帰って来るまでは貸してもいいかと思ったのではないかという想像が頭をよぎった。
私物はマジック収納に全て入れているので、誰にでも貸せる状態にはなっていたのだが、シンとルメヤはそれを確認して貸したのかもしれない。
「…もしかしたら、シンとルメヤがあの二人に貸してる可能性はあるね…。」
「…タウロ。これは戦争よ…!『黒金の翼』が、誰のものかハッキリさせましょう!」
いやいや、エアリスさん。戦争って大袈裟な…。
タウロはそう言おうとしたが、エアリスの目はマジだった。
「敵を知れば、百戦危うからずよ!冒険者ギルドに行って、あの女狐二人の情報を入手しましょう!」
エアリスは鼻息荒く、ギルドに方向を変えるのであった。
「タウロ、エアリス、帰ってきたのね!お帰りなさい!」
ギルドに行くと、冒険者ギルドダンサス支部のギルド長である冷静なクロエが珍しく声を上擦らせながら出迎えてくれた。
「「クロエさんただいま!」」
タウロとエアリスは元気よく答えると早速本題に入った。
「クロエさん。『黒金の翼』の現状について聞きたいんだけど、あの二人何?」
エアリスが、努めて冷静にクロエに質問した。
「…あ。二人とも、もしかしてあったの?あの子達、君達と入れ替わりに他所から移ってきたんだけど…。丁度、タウロ君とエアリスちゃんが抜けて、シン君とルメヤ君の二人が後衛を欲しがってたから、酒場で意気投合しちゃったみたいね。」
「…という事はシンとルメヤが先に声をかけたという事ですか?」
タウロが、ため息交じりに聞いた。
「それはどうだろう?彼女達も強い前衛を欲しがってて、受付で紹介して欲しいって、聞いてきてたから。候補の1つとして二人の名前は教えてたから、知ってはいたはずよ。」
「じゃあ、シンとルメヤからじゃないかもしれないのね!?」
エアリスが、そこに食いついた。
「彼女達、積極的な性格してるから…。シン君とルメヤ君は二人で頑張って活躍してたから目立ってたし。…そうそう!二人はE+にランクが上がったのよ?最近も4人で活躍してるから、D-への昇格も検討して…、あ、これは秘密ね?」
これは、自分とエアリスの戻る場所が無くなったかもしれないとタウロは予感した。
エアリスはみるみる不機嫌になっていく。
「…えっと、エアリス。まだ、シンとルメヤの当人から聞いてないから悲観しちゃ駄目だよ?」
「でも、私達抜きで、新しいメンバーと結果残してるじゃん!」
そう言うと、エアリスの目に涙が浮かんできた。
確かに、その通りだった。
新しいメンバー?と組んで、スピード昇格してるのは確かな様なので、エアリスに何と声をかけていいか迷うのだった。
「あ、二人とも。シン君とルメヤ君は、二人を驚かせる為に頑張っていたみたいだから、誤解しないようにね。それに、ギルドでは彼女達が『黒金の翼』に入ったという手続きはしてないから、正式なものではないと思うわよ?まあ、登録しない人もいるから何とも言えないけど…。」
状況を何となく把握したクロエは、フォローしようとしたが、話していくうちに最後は尻すぼみになるのだった。
「そうだよ、エアリス!クロエさんの言う通り、正式なものではないのだから、ちゃんと二人と話そう。それに、家の家賃は僕らがちゃんと払ってるんだから堂々と帰ろう!」
タウロはエアリスを励ますと、クロエにお礼を言い、わが家へと帰宅するべく歩き出すのであった。




