160話 新商品の秘密
ガーフィッシュ商会本部の貴賓室で、その商会代表マーダイとの話は続いていた。
「それでは、先日『ランタン』と共に説明を受けた『濡れない布』なんですが…。」
「はい。エアリスの説明した通りにして試作品がうまくできなかったんですね?」
「そうなんです!なぜわかったんですか!?」
マーダイは机を挟んでタウロに迫る勢いで前屈みになった。
「想像通りなら、スライムの体液が布に定着しなかった。」
「そうです!タウロ殿が見せてくれた布の様に表面がツルツルにならなかったんです!」
マーダイが原因を知りたがった。
タウロは広い貴賓室を見渡すと、
「ここは広いから大丈夫ですね。」
というと、マジック収納からひとつの大きい作業台を出して貴賓室の一角に置いてみせた。
「これは…、作業台ですよね?」
マーダイは立ち上がると、机をまじまじと見ながら確かめる様にタウロに聞いた。
「はい。これはただの作業台ではなく魔法仕様の作業台です。」
「魔法仕様?」
「スライムから魔石が出ないのは知ってますよね?」
「はい、それはもちろん。なので、討伐対象にもならない最弱魔物です。でも、放っておいたら色んなものを溶かすので厄介者ではありますが…。」
「溶かす…、あ、思いついた!いえ、…すみません、今は布のお話でしたね。そのスライムですが、体液に微弱な魔力を帯びてるんです。」
「体液にですか!?」
「はい。なのでこの机にはそのスライムの微弱な魔力を利用して布に定着する様に魔法陣を組んであるんです。」
「…という事は…。」
「この机上で作業しないと、いくら他で何度作業してもスライムの体液が布に定着する事はありません。エアリスは家で僕が作業してるのを見てただけなので、それには気づかなかったんです。」
「なるほど…。そういう事でしたか!これはいいですね。この作業台がない限り、他では真似しようがないですから。」
「一応数台この作業台は用意がありますが、天板があれば魔法陣を組んで作業台の表面に重ねて接着させるだけなのですぐできますよ。剥がすと技術盗難防止が働いて魔法陣が解けるのでちゃんと接着しないと駄目ですが。」
「それではうちと契約した布屋にその作業台を卸して貰っていいですか?作業を開始しないと原料のスライムばかり集めてるので、布屋がスライムの養殖場になってしまいます…。」
「それは困りますね。早速、今から向かいましょう。」
『濡れない布』の生産の為にあらかじめ大量にスライムをマーダイは集めさせていたのだろう。
なので集まったスライムを消費できない布屋から苦情が来ていたに違いない。
布屋はガーフィッシュ商会から離れた場所にあったので馬車で向かう事になった。
結構な時間馬車に揺られていくと、布屋は城壁のそばで立地はよくないが、広い土地にあった。
「この布屋は、布の生産、卸しをしてましたが、競争相手に負けて店を畳む寸前だったのでうちがここを用意したんです。中心街から離れてますが、広い敷地を確保できたので生産、卸しに加えて裁縫屋も呼んで商品作成までの一連の作業効率化を図りました。場所が場所なので、スライムの事で苦情は来ません。」
マーダイが馬車から降りると、説明した。
「この一帯は全てガーフィッシュ商会のものなんですか?」
「はい。中心街の工房通りや、裁縫通りなどに土地を持つ事も考えましたが土地が高い上に敷地も狭いので中心街から離れてるここなら安く広く手に入るので。かかるのは運搬費用と時間くらいですね。」
マーダイはやはり商人だ。
以前、タウロが少し効率化について話したらすぐに理解して実行に移してこんな土地を購入していた。
元々何か計画があってこの布屋を囲い込んだのだろうが、そこに自分が今回の『濡れない布』の話をするとすぐ方向転換し、いち早くスライムを集め、試作品も作ろうとしているのだからその実行力には頭が下がる。
でも、本人に相談なく実行するのは止めて欲しい…。
マーダイの案内の元、離れの大きい倉庫を見せて貰うと樽が沢山積まれていた。
「この倉庫の樽の中身は全てスライムです。」
「え…。全部ですか!?」
「ええ、全部です。」
「…まだ、売れるかわからないのに、これはやり過ぎでは…。」
「大丈夫ですよ。これはランタンと同じく、絶対売れますから!」
マーダイが自信満々に言い放った。
「いや、ランタンもまだ売れたわけじゃないですよ?」
「タウロ殿、自信を持って!リバーシ以来の売れ行きを保証しますから!」
わははは!
マーダイの豪快な笑い声が倉庫に響き渡る。
あとは、このやり手の商人に任せよう、と思うタウロであった。
続き読んでもいいかなと思えましたら、
もの凄く励みになりますので、評価、ブックマーク登録の程、よろしくお願いします。<(*_ _)>




