155話 暗殺者との対決
タウロ暗殺未遂の翌日から、タウロは個人行動をとるようになった。
暗殺者に対する挑発と言っていい。
タウロは警戒する暗殺者を誘う様に王都の観光名所のひとつである王都を眺める事が出来る『空木の塔』の頂上を数日貸し切って、ひとり頂上で午前中はずっと待っていた。
暗殺者は初日、二日目と警戒して近づいて来なかったが、三日目、タウロが塔の屋上の縁に座って王都を眺めていると背後から声がした。
「…貴様の希望通り、姿を見せてやる。」
タウロが振り返ると、フードを目深にかぶった男が立っていた。
印象がぼんやりするのは『気配遮断』を使っているからだろう。
「まだ、僕を殺す様に依頼を受けてるんですね?」
タウロは、ついに現れた暗殺者に質問した。
「…殺ったと思って報告したら生きていたから、こちらの信用はがた落ちだ。今日はちゃんと止めを刺して汚名を返上する。」
暗殺者が素早く細い筒を口元にやるとこちらに向けて針を吹いた。
さすがにこれは読めていたのでタウロは小剣を構えてこれを弾いた。
カチン
という音ともに針は弾かれて床に落ちる。
だが、小剣を握る手に針が刺さっていた。
立て続けに二本放っていた様だ。
「前回と違って、秘伝の毒を用意した。偶然で助かる事は二度とない。こちらの勝ちだ。」
勝利を確信した暗殺者が宣言した。
…
…
…
「…えっと、ギャーって叫びましょうか?」
暗殺者がこちらの反応を待っている様なので、タウロは気を遣うべきか聞いた。
「…なぜ、毒が効かない!?」
暗殺者は、愕然とした。
毒の回りが遅いのではなくこの子供には全く効いてないのだ。
暗殺者ギルドの秘伝の毒を恥を忍んで頼み込み、針に仕込んできたというのに目の前の子供はピンピンしているのだ、驚かずにはいられない。
タウロは手に刺さった針を抜くと、
「毒に耐性持ってるので、効きませんよ。」
と、事もなげに答えた。
「そんな馬鹿な!?耐性ごときでは堪えれない程、致死率が高いギルド秘伝の猛毒が効かないなど、暗殺ギルドの歴史の中でも聞いた事が無い!」
「そう言われても、効かないので…。前回、殺せなかった時点で、あなたの負けです。」
「くそっ!ならば他の手で殺すのみ。人を巻き込まない様にこの場所を選んだのだろうが昼までは時間がある、それまで人払いしたのは失敗だったな!」
暗殺者はそう言うと短剣を抜いた。
「普通に戦ったら、僕の負けでしょうね。あなたが強いのはわかります。でも、地上には近衛兵のみなさんに固めて貰ってるので合図を送れば、あなたは袋のネズミですよ。」
「ギルドの一員として、貴様を殺せれば本望。今、合図を地上に送っても、上がってくる前に殺せればよい。ここの頂上の出入り口は背後のこのドアだけだとわかっている、逃げられんぞ。」
今度こそ、目的を完遂できると暗殺者は勝利を確信した。
「じゃあ、合図を送りますね。光の精霊魔法『照明』。」
タウロは、塔の縁に立つと地上に向けて、『照明』の光で合図を送った。
地上は慌ただしくなって、近衛兵達が出入り口に殺到しているのが上から見てわかった。
「時間も無い様だ、死ね!」
暗殺者は短剣を構え直すとタウロに肉薄した。
「それでは、僕の勝ちです、さようなら。」
タウロは、そう言うと、塔の縁から後ろに飛び退った。
それはつまり塔から飛び降りるという事だ。
「な!?馬鹿な!」
暗殺者は勝利を宣言して塔から飛び降りた子供にまた愕然とした。
「こちらに殺されなければ勝ちだと思ったのか…。飛び降りたら死ぬのだから一緒だというのに…!」
そうつぶやくと、少しの間、茫然としたが、慌てて死を確認する為に縁に駆け寄り、下を見て地上を確認した。
すると、地上から標的であった子供がこちらに向かって手を振っている。
「もう一度言いますが、あなたの負けです!残念でした!」
タウロは大声で頂上の暗殺者に声をかけると手を振った。
タウロは『浮遊』魔法で無傷で地上に降りていた。
要は紐無しバンジーだったのだが、タウロは内心、飛び降りるのはかなりビビっていた。
でも、うまくいって良かった、と安堵していた。
「この手は、精神的に二度とやりたくないな…。」
バンジーをする人の気が知れないと思いながら、タウロは暗殺者の自尊心をズタズタにする事で倍返ししたのだった。




