144話 久しぶりの王都
タウロにとっても、エアリスにとっても、久しぶりの王都だった。
「じゃあ、ここまでありがとうございました。」
タウロは約十日間お世話になった乗り合い馬車の御者に、残りの報酬に色を付けて支払うとお礼を言った。
「二人とも、気をつけてな。お!こりゃどうも!じゃあ、あっしはここで帰りに乗せるお客を探すよ。…ダレーダー伯爵領経由ダンサス村行きだよ!出発は明日の朝!同じ方向の人、希望者いるかい!?」
御者の男はホクホク顔で、報酬を懐に入れると、木の板に目的地を書き、周囲に見える様に掲げながら乗り合い所に集まる群衆に声をかけ始めるのだった。
「これからどうするの?」
エアリスが、タウロに確認する。
「とりあえず、貴族との間を取り持ってくれる予定のガーフィッシュ商会に行こうか。」
「タウロ、ここ王都よ?ガーフィッシュ商会と言えば、地方の支部でも相手してくれるかわからないレベルの大商会なのに、直接行って貴族を紹介しろとか無茶が過ぎるわよ!」
ガーフィッシュ商会貴賓室。
「タウロ殿!お久しぶりです!」
「お久しぶりです、マーダイさん。」
ガーフィッシュ商会代表マーダイが直々に表でタウロの来訪を待っていたので、直ぐに面会が行われ、二人は握手を交わすのだった。
「…え…。」
エアリスは、この急展開に状況が飲み込めずにいた。
最初、すぐに貴賓室に通された時は、ヴァンダイン侯爵家の威光がこの大商会まで轟いているのかと父親に感謝したのだが、どうやら、タウロとここの代表は顔見知りらしい。
「こちらが、手紙に書いたヴァンダイン侯爵家令嬢のエアリスです。」
タウロが、エアリスをマーダイ代表に紹介した。
紹介されたエアリスは慌てて立つとお辞儀をした。
「エアリスです!」
「この商会で代表を務めているマーダイ・ガーフィッシュです。お見知りおきを。」
マーダイは丁寧にお辞儀をする。
「…それでですが、…どうですか?」
タウロが、話を早速切り出した。
「今、各方面に面会出来る様にお伺いを立ててますが、相手は有力貴族なので会うだけでお金が大分かかりそうです。」
「それは仕方ないです。支払いはいつもの通りでお願いします。」
「わかりました。ところでまだ、宿屋が決まってなければうちで用意しますが?」
「それは助かります。」
エアリスは二人のやり取りに、ただただ呆然と聞き耳を立てるしかなかった。
「そう言えば、手紙にあったシャーガなる学者にも使者を出しましたら、協力すると真っ先にお返事を頂いています。近衛騎士団の団長を務める伯爵様を紹介してくれて先程その伯爵自身からも手紙を頂いています。」
「近衛騎士団団長!?」
シャーガは、ダンサスの村でダンジョンの調査団の責任者だったタウロのファンを自称する学者だ。
タウロは同じ学者畑の貴族でも紹介して貰えれば助かると思っていたのだが、意外なチョイスで驚くのだった。
「この国の軍部では知る人ぞ知る人物ですので、ここと人脈が出来ればそっちの関係者を紹介して貰えると思いますよ。」
マーダイがタウロとエアリスに視線を送りながら助言した。
「わかりました。早速、会える日をセッティングして貰えますか?」
「もちろんです。あちらはいつでも時間を作るとなぜか積極的な申し出があったので、明日にも会いに行ける様に返答しておきましょう。おい、誰か!すぐに近衛騎士団本部のところまで使いを出すから誰か用意してくれ!」
マーダイは席を立つと離れの机から紙とペンを取るとすらすらと何か記し封筒に蝋で封をして準備した。
そこにノックして入ってきた小間使いに手紙を渡すと小間使いはすぐに退出した。
「これで、1人ですな。ところでタウロ殿。支部から報告がありましたが、ジーロ・シュガーの名義で登録された製品を地元の商会と契約されましたよね。うちも間接的に噛ませて貰ってはいますが…、何でうちじゃないんですか!」
『冷蔵庫』と『クーラー』の事だろう。
「…あ、すみません。確かにガーフィッシュ商会にはお世話になってますもんね。じゃあ、最近登録したばかりのものをうちの地元のマーチェス商会とガーフィッシュ商会の二商会で独占契約するというのはどうですか?」
タウロは苦笑いすると提案した。
エアリスは、先程とは一転、和やかな雰囲気になったので、横でホッとした顔をしている。
「それは、どういったものですか?」
マーダイは早速、商人の顔になる。
「魔道具のランタンと、濡れない布を使ったテントや雨具なのですが…。」
「ほうほう…。魔道具のランタンから詳しく聞きましょうか。あ、エアリス嬢すみません。すぐ宿屋に案内しましょうか?」
マーダイはつい、エアリスの事をそっちのけにしたので謝罪した。
「いえ、私の事は気にしないで。こういう話はタウロの傍にいて慣れてるから。それよりも…。」
そう言うと目を輝かせ、タウロに代わってエアリスがマーダイ相手にランタンの素晴らしさの説明を喜々としてし始めると、マーダイもその説明に大いに興味をそそられ二人は顔を突き合わせてやり取りを始めた。
「…僕が作った商品なんだけど…。」
呆れるタウロだったが、ここのところ塞ぎ込んでいたエアリスが少し元気になった様なので内心は喜ぶのだった。




