116話 護衛クエスト
「すみません、タウロ君…。また、お願いがありまして…。」
マーチェスが申し訳なさそうにして朝から家にやって来た。
「?どうしたんですか?外でもなんですから、どうぞお入りください。」
タウロはマーチェスをうちへと招き入れた。
「…実は、また、新たな仕事が入りそうなんです。」
マーチェスが言いづらそうにタウロに伝えた。
「オサーカスの件以外でですか?」
「…はい。」
「それは良かったじゃないですか。」
タウロは、普通に喜んだ。
だが、なぜマーチェスが申し訳なさそうにしてるのかわからない。
「そうなんですが、そうなるとダンサスの村を2週間も空けるわけにはいかなくなりまして…。」
「…あ、つまり、オサーカスに行く件は無しという事ですか?」
「いえ違います!…そうではなく私の代理人としてタウロ君に行って貰えないかと思いまして!」
マーチェスが思い切った提案をしてきた。
タウロは冷蔵庫の開発者ではあるが、販売の委託はマーチェス商会に任せているのだから、それをお願いされるのは本末転倒な話だ。
マーチェスとしては苦肉の策であろう。
「マーチェスさん、おたくで雇っている従業員はいますよね?」
「ええ?いますが何か?」
「それでは、その人を代理人にして下さい。」
「え!?まだ雇ったばかりの新人ばかりですよ!とても任されるようなものじゃないです!」
「交渉は、僕がやりますけど、子供の僕が代理人はまずいかと思いますよ?代理人ぽい演技が出来ればいいんです。うちのシンとルメヤはそういうの向いてないので駄目ですし。」
「うーん…。わかりました。ではうちの…商人スキル持ちがいいか…?となるとリーダかな…よし、リーダという従業員がいるのでそれに言って準備させます!」
マーチェスが頭の中で代理人を任せる従業員を思い描くと絞り出してタウロに告げた。
「では、僕達はそのリーダさんの護衛任務と商品の運搬、交渉の代理が主な仕事でいいですね?」
タウロが仕事内容を確認した。
「はい!今度こそ、それでお願いします!では、リーダにもその様に伝えて準備させないといけないので失礼しますね。」
マーチェスは何度も頭を下げてお礼を言うと商会に戻っていった。
「大丈夫?ほとんど、タウロの負担ばかりだけど?」
エアリスが、隣の部屋から一部始終を聞いてたので出てきながら言った。
「うーん。大変だけど、マーチェスさんも今が勝負どころだし、僕も開発者としては売れないと困るからね。今回は仕方が無いかなぁ。」
「タウロが良いならいいけど。私達がやる事は変わらないものね、護衛するだけ。」
エアリスは納得すると、準備に取り掛かるのだった。
出発は数日後とした。片道1週間、往復2週間の「オサーカス往復の商人護衛任務」長期クエストがチーム『黒金の翼』指定依頼として支部から通知された。
もちろん、タウロ達はこのクエストを受けた。
そこで打ち合わせでマーチェスから紹介されたリーダとの顔合わせも行われた。
「今回、あなたの護衛、商品の運搬などをやる事になった『黒金の翼』のリーダーのタウロです。」
初対面のリーダに挨拶した。
リーダは、赤い長髪のポニーテールで黒い瞳の商人らしいゆったりした格好をしたスタイルのいい女性だった。
眼鏡をかけていて自信が無さそうにしているのが印象的で、話ではマーチェスの右腕候補らしい。
マーチェス的には今回のオサーカス行きでリーダが自信をつけてくれると助かるとタウロに漏らしていた。
なるほど、マーチェス的には育成も兼ねての派遣らしい。
タウロの仕事がまた増えた気がしたが、それはリーダ次第なので聞かなかった事にした。
「交渉はタウロ君に一任しますが、リーダの知識も使えると思うので、もし、わからない事があったらリーダにも聞いてみて下さい。」
マーチェスがタウロに言った。
「わかりました。行きながら話をして色々と聞いておきます。」
タウロは頷くと、リーダに改めて挨拶すると握手をして顔合わせは終わった。
数日後、準備を終えたリーダとタウロ一行はマーチェス商会が用意した馬車に乗り込むと、国内第2の大都市オサーカスの街に向けて出発するのだった。




