114話 調査団一行帰路に就く
意外なところで意外なタウロのファンが現れ、ダンジョンの話はそっちのけでシャーガは喜んでいた。
タウロが有力貴族の誘いを断って消えた事はファンの間では有名らしく、清廉潔白な神童として語られているそうだ。
話がだいぶ誇張されてる気がしたが、放置しておこう。
サトゥーの名を捨てたのは正解だったと今更ながらに思うタウロだった。
ふと目の前のファンにジーロ・シュガーの特別盤をあげようかとも思ったが、上げると自分がジーロ・シュガーだと名乗る様なものなのでそれは止めておいた。
あと、大丈夫だと思うがシャーガには口止めだけはしっかりした。
喜びのあまり誰かに自慢したくなる可能性もあり得ない事ではない。
本人曰く、
「他の人に話す程、友達はいません!」
らしい。
堂々とそれを自慢されても困るのだが、ジョシュナにしても他からは特殊な人と見られていて敬遠されてるので、あんまり話が漏れる事もなさそうだ。
逆に、
「もし、国が管理するダンジョンに入りたい時は私に連絡を下さい。すぐに手配しますので!」
と、特別待遇を約束された。
いや、そんな危険なところ、僕行くつもりないよ…?
とは思ったが、シャーガの最大級の厚意だとわかったのでお礼を言うと、その時はお願いしますと答えるのだった。
そんな約束を一介の少年冒険者に出来るところを考えると、意外にこの人は力を持ってるのかもしれないと思うタウロだったが、自分には関係のない事と割り切る事にした。
ダンジョン跡の調査は順調に進んでいた。
一部、壁や床を剥がして持って帰る事にしたのでシャーガは、マジック収納機能があるバッグに詰め込んだ。
「ふふふ、タウロ殿のマジック収納も凄いでしょうが、予算で買ったこのバッグ型マジック収納はジャン・フェロー作の一点もので、中級の収納力が備わってるんですよ!」
シャーガがバッグに頬ずりした。
「これのおかげで、仕事がはかどるんです。」
と、自慢した。
僕のマジック収納は極だからもっと凄いですよとは、タウロは言わなかった。
自慢話に意味は無い。
「本当は、同じ作者のリュック型の一点物が欲しかったんですが、流石に予算で買うにしても許可が中々下りませんでしたけどね。そうこうしてる間に売れた時はショックだったなぁ。個人が買っていったらしいんですよ。現金で白金貨10枚ですよ、10枚!お金持ちでも二の足を踏む額です、世の中には凄い人がいるものです。」
…その作者の一点物のリュック型マジック収納(大)を買ったの僕です。
と、言おうかと思ったが止めておいた。
買ってすぐ、安くガーフィッシュ商会に売ったと知ったらさらにショックを受けそうだ。
「…この台座ですが、一部貸して貰えませんか?」
シャーガが、タウロにお願いした。
「はい、いいですよ。台座の上の部分が外れるのでそちらを持って行きますか?」
タウロはすんなりOKした。
「助かります!研究がこれではかどりそうです!では、使用貸借契約書を用意しますね。」
シャーガはジョシュナに指示して手際よく契約書を用意させる、お互いサインをするとシャーガはすぐに台座の一部をマジック収納に保存するのだった。
こうして調査団はダンジョンの調査を終えると、何事も無く夕方にはダンサスの村まで戻ってきた。
今日は『憩い亭』で1泊して明朝には出発して王都への帰路に就く予定だ。
タウロ達はここに到着した時点でクエスト完了だったが、シンとルメヤが騎士達と意気投合していたので食堂で飲む事になった。
タウロとエアリスはついでだからと食事を同じく『憩い亭』で済ませる事にした。
「ここの料理はやはり王都でも味わった事が無いが美味しいな!」
「確かに!今日が最後だから沢山味わっておこう!」
「誰か、料理長にお願いして調理方法を教えて貰え!」
騎士達に『憩い亭』の料理は大評判だった。
メニューを考えたタウロは嬉しい限りだったが、そこは言わないでおいた。
そんな事は露知らず、騎士達はダンサスの村最後の夜を思いっきり楽しむのであった。
シャーガとジョシュナは意外にも部屋に戻るとすぐ寝てしまった。
やはり研究以外はあまり興味が無いらしい。
王都に戻るまでは寝だめしておくようだ。
ドンチャン騒ぎの翌日の朝。
タウロ達に見送られてシャーガ達、調査団一行は王都への帰路に就くのであった。




