113話 ファン出現
調査団はそのまま、ダンジョン跡に残ると洞窟前で野営して一泊した。
シャーガはずっとダンジョン跡に入ったままだ。
何をする事があるのかと思ったが、それこそ天井の高さから部屋の広さ、床のちょっとした窪みに至るまで測ったりして、細かく手帖に記しているようだ。
まあ、相手は学者様だ、何か彼らにしかわからない事があるのかもしれない。
朝になりタウロは様子を見に洞窟内に入ってみた。
シャーガは寝てないのかまだ、手帖を広げて何か記入しながら周囲を見ていた。
シャーガの光魔法の『照明』が消えかかっていたので、タウロが代わりの『照明』を点けた。
その灯りにシャーガが気づいて振り返るとタウロの存在にも気づいた。
「ああ、タウロさん。どうかしましたか?」
「あれ?護衛の騎士の方々は?」
「みなさんは、この内部の安全が確認できたとかで、外に出られましたよ。」
「そうでしたか。ところで、もう、朝ですよ?」
「もう、そんな時間ですか!どうりでジョシュナさんがさっき寝始めるわけだ。」
ジョシュナは夜型人間らしく、朝になると自然と寝るらしい。
外がわからないダンジョン跡内でも、その体内時計は正確だったようだ。
「シャーガさんも休憩しますか?」
「そうですね…、少し休みますか。」
シャーガは1つため息をつくと座り込んだ。
「頭が働く様に甘いものでもどうぞ。」
タウロはそういうとマジック収納からあんこの饅頭を取り出すとシャーガに渡した。
「これは初めてみる食べ物ですね。」
手渡された饅頭を不思議そうに見ると、タウロが食べるのを確認すると続いて口に入れた。
「うまい!…これは、甘さが疲れた体に染み渡る様だ…。」
シャーガは、感動すると残りも味わう様にゆっくりと食べた。
「それは良かったです。じゃあ、これもどうぞ。」
そういうと、マジック収納から今度はクッキーを取り出してシャーガに渡した。
シャーガはそれも頂くと今度はすぐに食べ終えた。
「食べる事に興味がなかったのですが、これは美味しいですね。」
「頭を使うと甘い物を脳が欲するものですから。食べる事にも少しは気を遣うと結果的に仕事がはかどると思いますよ。」
タウロがアドバイスした。
「なるほど、それは考えなかったです。あなたは利口ですね。これからは食べる事にも気を遣いましょう。」
シャーガは目からウロコという様に感心すると頷いた。
「…このダンジョンですが、どうやら2層目を作ろうとしていたようです。」
シャーガは気を取り直すと、そう口にした。
「そうなんですか!?」
タウロが驚く。
「左の奥の床が少しだけ凹んで、石壁との間の内部にほんの少し空間が出来ていました。ダンジョンが成長する事は昔から言われてましたが、それを確認できただけでも大発見です。現在、国が管理してる数百年規模のダンジョンでさえ深層まで行けた者はいないので、確認できた人はいませんからね!」
シャーガは、楽しそうにタウロに話した。
「ところで、タウロさんはリバーシと言うゲームをご存知ですか?」
唐突にシャーガは質問してきた。それもリバーシと来た。
「…はい、知ってますよ。王都で流行ってますよね。」
タウロは慎重に答えた。
「貴族の間で話題になって、私も夢中なんですよ。そこで名前がよく出てきたのが貴族の間で語られる神童、タウロ・サトゥーという少年の話なんですが、もしかしてタウロさんの事ですか?」
シャーガは核心を突いてきた。
「…なぜそう思うんですか?」
「噂の容姿、年齢、そして、頭がキレて冒険者であるという事、そして、タウロという名前なのでこれだけ条件が合ったら本人かなと思いまして。」
さすが、学者、頭がキレる。
まさかここで、リバーシの話を思い出して、どこにでもいる子供の容姿と名前なのに結び付けてきた。
とぼける事も可能だったが、ここで否定して、疑惑だけを残せば要らぬ噂が立つかもしれない。
タウロは認める事にした。
「正解です。驚きました、気づかれるとは思ってなかったです。」
「おお!やっぱり!私、タウロさん、いや、タウロ殿のファンなんですよ!あの宰相閣下との伝説の3局が、また痺れるんですよね!あ、もちろん、この事は誰にも話しません。秘密なんですよね?」
まさかのタウロのファンとの遭遇であった。




