112話 隊長と騎士達
翌日。
タウロ達、チーム『黒金の翼』は、ダンジョン跡まで調査団一行を案内した。
途中、魔物にも遭遇したがタウロ達の出番も無く騎士達があっさりと片付けた。
確かにこれは、道案内だけで済むクエストだった。
到着するとタウロの案内ですぐシャーガとジョシュナは洞窟に入っていくと、
「これは確かに、複数のダンジョンに見られる作りですね。ですが、発光していない。タウロさんが昨日説明してくれた通り、このダンジョンが死んでいるのがわかります。ダンジョンに入った時の”違和感”も全くないですから。」
シャーガはそう言いながら奥に入っていくとその後はおもちゃを与えられた子供の様に夢中になってダンジョン跡を隅々までジョシュナと二人で見て回った。
二人の騎士が護衛の為に後ろからぴったり付いているが、気にも留めなかった。
タウロは一応、台座のあった場所を、教えてマジック収納からその台座を取り出すとその場に置いてみせた。
「なるほど、やはり奥まった位置にあったんですね。これは興味深い…。」
これまた台座を隅々まで見て回る。
ジョシュナと仮説を立てては話し込むシーンが多くなったので、タウロは外で待つエアリス達の元に戻る事にした。
表がやけに賑やかになっていた。
騎士達が何か囃し立てている様だ。
タウロが外に出てみると、そこにはシンとルメヤが騎士二人と対峙して剣を構えていた。
最初、トラブルかと慌てたが、シンとルメヤの表情には笑顔が見えていてた。
どうやら、騎士相手に腕試しをしてる最中の様だ。
そんな中、エアリスが二人の後ろで、セコンドを始めた。
「いい二人共?相手は格上なんだから胸を借りるつもりで思いっきりぶつかりなさい!」
エアリス…、君が止めなくてどうする…。
タウロはこの光景に呆れたが、騎士達もこの暇潰しを楽しんでいるようだ。
隊長もこれを問題にしなかった。
ちゃんと見張り番の騎士も職務を果たしているし、休憩中の者の娯楽として黙認している様だった。
観戦する騎士達は、すぐに勝負がつくと思っていたが、シンとルメヤのコンビネーションに相手の騎士達は翻弄されていた。
ルメヤを文字通り盾にして、シンの体術を組み合わせた変幻自在な剣技に騎士二人は押されていた。
「最近のEランク帯冒険者はこんなに強いのか!?」
観戦してる騎士達もただの暇潰しの笑いから驚きに変わり、熱を帯びてきた。
「タウロ君だったね。君があの二人を指導したと聞いたんだが、本当かい?」
隊長がタウロに気づくと近づいてきて聞いてきた。
「基本と立ち回りについて少しだけ。あとは、本人達の努力の積み重ねです。」
タウロは質問に正直に答えた。
「驚いた。その歳で複数の武芸を学んで人に伝えるところまで昇華してるのだな。君自身は何を得手にしてるんだい?」
隊長はタウロに興味が沸いたのかさらに質問してきた。
「今は弓が中心です。このチームではその役割が必要だったので。」
「今は…?なるほど、君は自在派か。私も実は自在派でね。スキルに『武人』を持っているのだよ。」
タウロは驚いた、『武人』スキルは上位スキルでも珍しい部類だ。
さすが、隊長を務める程の人だ。
「僕は残念ながら文字化けスキル一つです。」
「そうなのか!?それでその歳で、自在派を選ぶとは…。余程の努力をしてきたのだろう…な。」
隊長は涙もろい人の様だ。
タウロの苦労したであろう背景を想像しただけで涙目になる優しい人だった。
わー!
ひと際大きい歓声が上がった。
どうやら、シンとルメヤが勝利した様だ。
騎士達から惜しみない賛辞が贈られた。
負けた騎士二人も、二人に握手を求めると賛辞を贈っている。
これは珍しい光景だ。
王都の騎士は貴族出身者も多くいるはずだ、お遊びとはいえ平民に負けたとあっては殺気立ってもおかしくない。
「びっくりしたかね?実は、私の隊には貴族出身者がいないのだよ。私が平民出身という事もあって、上司には部下に平民出身者を配属して貰ったんだ。」
「納得しました。道理で雰囲気が良いわけです。」
「ははは!貴族出身者の騎士でもいい奴はいっぱいいるぞ?まあ、居たらやはり気を使う事にはなりそうだがな。」
隊長は笑いながら言うと、思い出した様に、
「自分は、タイチという、名乗るのを忘れていたよ、すまない!」
タウロの背中を荒っぽく叩いて詫びるのだった。




