11話 珍騒動
曲がりなりにも冒険者になってから二か月近く経ち、タウロがギルド内を歩いていても、冒険者の間ではその存在に違和感が無くなりつつあった。
とはいえ、まだ8歳の子供だ。
冒険者達の多くはタウロの事を、ギルドのお手伝い兼雑用係で、時折、初級者&ルール違反者用の罰的なお使いクエストをこなしているもの好きな子供で、冒険者という認識は薄い。
ギルド側もタウロにはお使いクエストしか斡旋していない。
ランクもG+で止めている。
F̠-に上げてしまうと街の外へ出るクエストがあるからだ。
読み書きや計算が出来てしっかりしてるとはいえ、まだ、体力的に実力不足というギルド側の評価だった。
「タウロ・サトゥー、中庭に来い。」
ギルドの武芸教官のダズが、張り出されたクエストを見ていたタウロに声をかけた。
「?」
これまで自分が相手にされてなかった人だけに、タウロは少し驚いた。
中庭に行くと
「上着を脱いでくるっと回ってみろ。」
ダズに言われるまま上着を脱ぐと回ってみせた。
「…まだ、線は細いが二か月前に比べたら大分肉は付いたな。よし、訓練に参加してもいいぞ。」
この二か月間、初級冒険者の為の武術の訓練に参加させて貰えなかったので嫌われていると思っていたのだが、体力が付くのを待ってくれていた様だ。
「はい!お願いします!」
タウロは嬉しさに笑顔で答えた。
それからは、タウロは一層忙しくなった。
ギルドのお掃除、手伝い、お使いクエスト、そして、武術訓練。
「楽しいけど流石にどこか短縮できないかな…。」
それで、ふと思った。
毎日寝る前に一度、自分に浄化を使って綺麗にしているのだが、ギルド内のお掃除も浄化で出来るんじゃないかと。
そして、他の疑問も浮かんだ。
自分の魔力はどのくらいなんだろうかと。
普段、浄化を一度使うだけなので限界を知らない。
「まずは範囲を広げて自分の部屋を浄化…っと。」
部屋の大きさをイメージして浄化を使ってみた。
普段、掃除をして綺麗なつもりだった自室のくすんだ灰色の天井と壁が真っ白になった。
「おお!成功だ!というか、ここの壁、元は白だったんだ…。」
苦笑いしつつ、魔力は全然大丈夫な気がする。
「じゃあ、もっと範囲を広げてみよう。今度はギルドの建物全体を覆うイメージをして…」
「浄化!」
シーン
「…あ、見て回らないと確認のしようがなかった。」
ドアを開けようとすると足が覚束なくなりよろけた。
「あ、足にきてる…、これが魔力の枯渇なのかな?」
立ち上がろうとしてるとドスドスと廊下を早歩きしてくる足音が近づいてきた。
「タウロ!やったのはお前か!?」
部屋に飛び込んで聞いてきたのは支部長のレオだった。
「…すみません。多分ぼくです。」
ギルド内はちょっとした騒ぎになっていた。
突然、冒険者ギルドのくすんだ壁という壁、天井、そして外壁、屋根に至るまで長年の汚れが落ち綺麗になったのだ、それにギルド内に居た冒険者達の体の汚れも汗臭さも取れてすっきりした。
はっきりわかる変化に、気づかない者の方が少ないくらいだ。
支部長レオは、タウロが地べたに座り込んでいるのを見ると、
「…魔力切れか。馬鹿野郎、しょうも無い事に浄化を使うな。その魔法は普通、対アンデッド系や、呪物の呪いを解くのに使うものだぞ。掃除は、魔法『清潔』で済む事だ。」
そう言うとタウロを抱き上げベッドに寝かせる。
「今日はもう寝てろ。魔力は寝てれば回復する。」
そう言うと支部長レオは部屋から出ていった。
騒ぎは職員の1人が清潔魔法を大規模に使った結果と支部長が説明する事で収まったそうだ。
自分以外に使用するのは止めておこうと思ったタウロであった。