108話 理想と現実
クエストの最中、ゴブリンを討伐しながらエアリスが、
「手っ取り早くボコボコにすればいいのに。」
と、言い出した。
「?今、ボコボコにしてるじゃん。」
タウロが巨木越しにアルテミスの弓の『光の矢』を使って木を貫通し、逃げるゴブリンの背中を矢で正確に射抜いた。
「違う!なんとかの剣とか言う勘違い冒険者達をよ!」
エアリスが、ゴブリンを水魔法で粉砕しながら言った。
どこかストレスをゴブリンにぶつけている気がする。
災難だったな、ゴブリン達…。
タウロは魔物に同情しながらも、自分でも次々に弓でゴブリン達を射抜いていった。
シンとルメヤも大暴れし、『黒金の翼』は25匹ものゴブリンの群れを、2チームで請け負う様な数にも関わらず、瞬く間に全滅させたのであった。
「よし!討伐完了だね。」
タウロが『気配察知』に何もかからないのを確認すると頷いた。
「このまま放っておくの?」
エアリスが、改めてタウロに聞いた。
多少ストレスが発散できたのか不貞腐れてはいない。
「相手も一応冒険者だからね。それに何か言って回っても、朝の出来事は他の冒険者さん達も知ってるから、みんな状況を察して問題にはしないと思う。あと格下だから、相手にしても弱い者虐めにしかならないよ。」
「え?でも、あいつらみんな上位スキル持ちよ?」
「みたいだけど、上位スキルも努力しなければただの宝の持ち腐れだからね。確かに一般スキルと比べたら能力が優遇されてるから火力も出やすいし凄いんだけど…。使ってる本人達が頭悪すぎて相殺されてる気がするなぁ。」
タウロの言葉にシンが、
「何気に毒吐くね。」
と、指摘すると笑ってみせた。
「事実を言ってるだけだよ?それにシンやルメヤは一般スキルだけど才能はかなりあると思うから彼らにも全然引けを取らないと僕は思ってるよ。」
「そうなのか?へへへ。そう言われると調子に乗っちゃうぞ。」
ルメヤが、普段手にしてる戦斧を『剛力』にものをいわせて振り回した。
照れて喜んでる様だが危ないのですぐに止めさせた。
「そう言えばあの連中、最初、エアリスを引き抜くような事言ってたよね?」
シンが思い出した様に大事な事を口にした。
「そうそう。血筋と才能とか言ってたな。エアリス、引き抜かれるなよ?」
ルメヤがエアリスに冗談めかして話を振った。
「当然じゃない!血筋はともかく…、私、才能の塊だからスカウトしたがるのはわかるわよ?でも、あんなのに引き抜かれる程、馬鹿じゃ無いわ。」
エアリスがフンと鼻を鳴らすとタウロを見つめてきた。
「?じゃあ、相手にしない、という事でいいかな?」
みんなが返事するのを確認すると、ゴブリン討伐証明の為の魔石と右耳の回収を始めるのだった。
タウロ達がギルドに戻ると、ギルドの表で「漆黒の剣」が待ち構えていた。
「…もう、用件だけ言うよ。エアリス君、君はうちに来るべきだ。」
意外に朝の出来事に文句を言わず、リーダーのナシルスが本題を口にした。
もしかしたら、他の冒険者達に釘を刺されたのかもしれない。
「…嫌に決まってるでしょ。どう考えたらそんな答えになるのよ。」
エアリスが呆れたように答えた。
「ダレーダー支部で聞いた噂だが君は貴族の令嬢らしいじゃないか?その才能と血筋ならうちに相応しい。そんな平民の将来性も無いチームに居たって宝の持ち腐れだよ。」
ナシルスが自信満々に確信したように言った。
「本当にあなた馬鹿ね。冒険者に血筋は関係ないのよ。求められるのは実力。私達はこれでも実力はある方なの。あなた達みたいに才能の上に胡坐をかかず、努力して実力を伸ばして実績もある。あなた達がゴブリン1匹を倒して誇ってる間に私達は今日だけでゴブリン25匹を討伐したわよ?」
「25匹!?…ははは!誇張するにしても25匹はないな。がっかりだ、君はどうやら虚言癖がある様だね。」
ナシルスが大袈裟に肩を竦めて笑い飛ばした。
するとタウロが黙ってマジック収納から革袋を取り出すと、その中に入っていたゴブリンの耳を広げて見せた。
「!」
『漆黒の剣』の面々は事実を眼前にして驚愕した。
「これが、現実よ。あなた達の言う血筋や上位スキルが、いつ沢山のゴブリンを倒して困ってる人達を助けたの?それが出来ないあなた達は半人前よ。未熟な自分を恥じなさい。」
エアリスの言葉はこの貴族の子弟達のプライドをズタズタにし、反論させないだけの現実を突きつけたのであった。




