105話 新生活
タウロとエアリスの家は、ルメヤが移動した直後に増築によって家の形が変わったのだが、二人の様子を見にやってきたシンやルメヤはこれを見て驚いた。
「うちにも作ってくれよ。トイレと井戸のやつ!」
部屋の中を見て回ったシンとルメヤが早速おねだりしてきた。
なので、エアリスに相談後、作る事にした。
エアリスに相談したのは、もちろん壁作りに土魔法が必要な事があったが、それと同時にタウロが無理し過ぎる事に賛成しなかったからだ。
同じチームの仲間の事だからまだいいけど、あんまり無理はしないでとエアリスには釘を刺されたタウロだった。
エアリスとのシェアハウス生活が始まった。
タウロは何か変化があるかと思ったが、よくよく考えると宿屋『小人の宿屋』で同じ屋根の下で一緒だったのでさほど変わりがなかった。
強いて言うなら宿屋特有の朝の喧騒が無く、穏やかに朝を迎える事ができるので目覚めが良い事だろうか?
「おはよう、エアリス。」
起きてきたエアリスに、先に起きていたタウロが挨拶をした。
「おはよう、タウロ。」
エアリスはパジャマ姿だった。
ワンピース姿のエアリスは、宿屋でも見慣れていた光景だが、パジャマ姿は初めてだった。
「珍しいね、エアリスのパジャマ姿。」
タウロが素直に驚くと、
「タウロしかいないからわざわざ着替える必要ないじゃない。」
指摘されたエアリスは急に恥ずかしくなったのかちょっと赤面した。
確かに仲間しかいないのに気を遣うと疲れるかとタウロは解釈した。
「ご飯食べるよね?」
気を取り直してタウロがエアリスに聞いた。
「うん、食べるけど、どこに食べに行くの?」
宿屋じゃないので、用意してくれる人はいない。
エアリスは村の食事処を数件、頭に浮かべた。
「ううん。僕が今から作るからちょっと待ってて。苦手なものある?」
タウロが当り前の様に聞いてきた。
「え?作れるの!?」
エアリスが驚く。
エアリスは、タウロがこの村の名物料理の数々の発案者である事を知らなかった。
普段、マジック収納から出す物は買ってきた物を保存していると思っていたのだ。
「作れるよ。というか料理は得意分野だから。」
タウロはマジック収納からお皿、コップ、などを次々にテーブルに取り出して並べ始めた。
次に、釜の側に行くと、火の精霊魔法で火を付け、マジック収納からフライパンを出してその上に置き、横にまな板を出すと野菜やお肉を出して切り始めた。
その一連の手際の良さにエアリスが驚いていると、フライパンでタウロが音を立てて薄くスライスした肉を焼き始めた。
調味料を加えるといい匂いがしてくる。
あっという間に焼き上がるとタウロは大皿にそれを乗せ、テーブルに並べた。
「朝だから、簡単だけどどうぞ。パンに好きな物を挟んで食べると美味しいよ。」
タウロが立ったままのエアリスを座るように椅子を引いて促した。
エアリスは慌てて座る。
タウロも席に着くと、
「頂きます。」
と、手を合わせるとまたどうぞとエアリスに促す。
「イタダキマスって、何?」
「うーん…、意味は色々あるみたいだけど…、僕の場合は、今から頂く食材を、作ってくれた人に感謝するという意味での挨拶かな。」
「ふーん、わかった。…じゃあ、イタダキマス。」
エアリスもタウロを真似すると手を合わせるのだった。
食後の皿洗いは、エアリスが担当する事にした。
タウロが『浄化』を使おうとしたのだが、エアリスが自分でやると言い出したのだ。
エアリスは『清潔』魔法が使える。
『浄化』と違って、表面を綺麗にするだけなので雑菌は駆除できないが、増殖する前に綺麗にして元を絶てばよい、なので『清潔』魔法で十分だった。
タウロの『浄化』は、掃除に使うにはやり過ぎな魔法なのだ。
だが予想に反してエアリスは魔法を使わなかった。
自分で洗う様だ。
タウロはエアリスがそれを選ぶのならと温かい目で見守る事にした。
エアリスは奮闘していたが時折、手を滑らせて皿を落としそうになる。
タウロはその度にドキドキしながらその後ろ姿を眺めていたが、無事皿洗いが終了する頃にはタウロはドキドキし過ぎて精神をごっそり削られているのだった。




