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転生!…………………………でも、死んでないよ?

二作目です。

まだまだ続きます。

わたしは齋藤咲良。十三歳。いたって普通の中学一年生。



「おはよ、咲良。今日の体育マラソンらしーよ……………………」



絶望した声と顔でうなだれているのは親友の悠。悠は勉強はめちゃくちゃできるけどスポーツが大の苦手。体力を限界まで使うマラソンは特に嫌いなんだとか。



「おぉマジか。咲良の鬼マラソンが見れんじゃん。」



ウキウキした声と顔でこちらに寄って来たのは幼なじみの勇樹。本名は佐々木勇樹。こいつは運動もできて勉強もできる、しかも見た目も悪くない。いわゆる男性版の才色兼備と言うやつだ。

『鬼マラソン』というのはわたしがマラソンの時、鬼の形相で走るからなのと、鬼のように早いからついた、わたしのマラソンのときのあだ名。



「よっしゃ齋藤!今日こそ勝ぁつ!」



このうるさくて暑苦しいのは吉田健太。以前、うっかりこいつが走ってるのを抜かしてしまった時に変な闘争心に火をつけてしまったようで、その時から何かと勝負を申し込まれているのだ。でもそろそろ本気でウザイし、最近は体つきとかに差が出てきているから、もう勝てなくなりそう。



「いい加減にしなよ、吉田。あんたと咲良じゃもう体つきが違うんだから、咲良があんたに勝てるわけないでしょ?」



悠が庇ってくれるが、それでも吉田は不服そうだ。そんな吉田に追い打ちをかけるように勇樹が口を開いた。



「そーだそーだ。言っとくがな、俺も小五の頃はどんなに頑張ってもこいつに勝てなかったんだ。それが今の俺らを見てみ?二キロ走ったらタイム、何秒違うと思う?二十ぐっ」


「はいそこまでにしようか勇樹。一言余計っ。」



わたしのタイムがバレそうで、思わず勇樹の襟を引っ張ってしまった。でも、人のタイムべらべら喋る勇樹が悪いと思う。



「でもまぁ咲良に勝てる女子はいないんだし、男子でも陸部で『洗礼』受けた人しか勝てないんだから、十分すごいよ。」



『洗礼』とは、陸上部の長距離選手が毎日馬鹿みたいな距離走って、まるで、心も体も入れ替わったように変わるから、洗礼と呼ばれている。



「だって咲良は人間離れしてるもん。咲良は動物っていうか………………サル?」


「それを言うなら勇樹はどうなるのよ。わたしより足速いし頭もいいし………………」


「や、佐々木はもう動物どころじゃないから。咲良がサルなら佐々木は宇宙人って感じ。」


「おい今うなずいたやつ顔覚えたからな。覚えとけよ。」


「おー、楽しそうなのは結構だがそろそろチャイム鳴るぞ。はやく着席してくれないと先生困る。」


「あ、先生おはようございます。来てたんですね。…………みんな〜はやく座って〜先生困るって〜」


「………………あぁ、来てた。吉田が齋藤に絡んでる時くらいからいたぞ。そんなに俺存在感ないか……………………」



ぽんぽんと交わされる言葉。このクラスではみんながこんな感じだ。


……………………自分で言うのもなんだけど、このクラスが、一番優秀で、一番楽しいクラスだと思うんだよね。


いつも通り授業を受けて、いつも通り部活して。


 

「ただいま〜」


「おう、おかえり、咲良。部活長かったな。」


「おねーちゃんおかえりなさい。」



家に帰ると、いつも通り家族がいて。



「楓、咲良、菜乃花、ご飯だから手伝って。」



いつも通り、お母さんの作ってくれたおいしいごはんを食べて。


こんな日々が、これからもずっと続くと、当たり前のように思っていた。



でも、わたしはまだ知らなかった。



こんなふうに、当たり前のようにおいしいごはんが食べられて、自分のやりたいことができるのが、どんなに恵まれているのか。

ありのままの自分でいられる場所があるのが、人がいるのが、どんなに幸せか。

その人たちと、そうやって笑っていられる明日があるのがどんなに安心できることなのか。


わたしがそれを、身をもって知ることになることも。





 *





「…………………」



眩しい光で目が覚めた。


……………………ああ、今日、英語の単語テストがある。やりたくないよぉ。


絶望を感じながら寝返りを打つと、ふと違和感を感じた。



「あれ………………?」



ここ、ウチじゃない。どこだろう。しかもわたしの手ってこんなに小さかったっけ。あれ?


 

そんなことをぐるぐると考えていると、バサッと天蓋が開いた。



「*$@#+∀¥$〆※」



え?今、なんて言ったの?

天蓋から顔を出したのは金髪に青い目の男の人で、その人はわたしには理解できない言葉を発した。

その言葉を聞いた瞬間、急にわたしのものでは無い、別の誰かの記憶が頭に入ってきた。



「うぁ、ああああああああぁぁぁ!」



自分以外の何かが無理やり入ってくる感覚が気持ち悪くて、でも逃げようがなくて、わたしはそのまま気を失った。



次に目を覚ました時には、とても意識がはっきりしていた。そして、やっと今の状況を理解出来た。(たぶん。)


わたしはアリア。五歳。なぜかは分からないけど、生まれ変わったっぽい。あ、こういうのは憑依って言うんだっけ?でも、死んでないよね?こういうのって死んでからの転生が定番なんじゃないの?とまあ疑問は沢山浮かんで来るが、それは置いといて。

この子、この体の元の持ち主は五歳だけど、大人に負けないほどの大量の知識を持っていた。

まず、ここは【プリグネイシェン】という、地球とは全く別の世界。魔法があるし、魔法や剣を使える者達、【勇者】は【魔王】を倒し、平穏を手に入れるために努力をしている。今のわたしは妖精族の末の姫で、一応勇者の括りに入るが、わたしたち妖精族は魔王とは無関係に暮らしている。


今のわたしの立場は、前とは全く違うものだった。


母は死んでいて、父はあまりわたしと関わろうとしない。その理由は、わたしのこの容姿のせい。この、美しい金髪に輝く青色の瞳。光が当たるとダイヤモンドみたいに輝くこの瞳。【青の宝石眼】と呼ばれていて、この宝石眼は、妖精族の中でもトップクラスの能力の高さを表している。妖精の初代(初代勇者)と同じ目で、その能力をそのまま引き継いでいるからだそうだ。でも、わたしにはその能力がなかった。それどころか、妖精族の中で最も弱いと言っても過言では無いくらいだ。だから、わたしは、周囲に能無し、約立たず、期待はずれ、出来損ない………………そう言われ続けてきた。だから今は形だけの姫。生活に不自由はないけど家族はわたしと関わらないようにしているし、友人もいない。


……………………でも、それも今日で終わりだ。終わりにしてやる。


今のわたしは、前のわたしと性格がほぼ変わってない。変わっているといったら精神年齢が五歳の《アリア》に引っ張られるくらいで、負けん気が強くて諦めが悪いところは全く変わってない。だから、意地と根性でレベルをあげるくらいはできるはずだ。なんせ、《アリア》は泣くばかりで、自分で努力していなかったのだ。今から死ぬ気で努力すれば普通の妖精族くらいにはなれるだろう。

そうと決めたら、まずは今わたしのレベルを確認しなくては。

記憶の《アリア》がやっていたように手のひらを開いて上に向ける。



「わあ!」



すると、シュン、と小さな音がして半透明のモニターが現れた。これはこのファンタジーな世界の自分のステータスで、今の自分のレベルがわかる。



「えっと、今のわたしのレベルは……………………」



今のわたしのレベルは2。


……………………低くない?


他の人は同年代の子でも30くらいはあったはずなのに。しかもこういうのってチート転生とかが定番でしょ?なんなのこのスタートの仕方わたし誰かの恨み買った!?………………まぁ、そんなこと言っていても何も変わらない。レベルなんて、これからあげればいいだけの事だ。


その日からわたしはこっそり家を抜け出してレベルをあげようとした。夜、みんなが寝静まった頃にこっそりと。

そのおかげで体力やスピードはありえないほどついたが、魔法や魔力は全く成果が出なかった。


こっそり練習を始めて半年がたとうとしていたとき。

こんな噂を聞いた。



「あのルーク様がこちらに帰ってくる」



ルークとは妖精族最強の戦士で、この妖精族で唯一、モンスターを倒してその報酬で生活している。一般的な妖精族は、魔王やモンスターと関わらないようにしている。なぜかは分からないけど、呪われて死ぬ可能性があるらしい。


こんな話もあった。



「ルーク様がお帰りになるなら【門】を開けておかなければ。」



 

門はこの妖精族の住む世界と人間の住む世界を繋ぐいわばあの某有名アニメの主人公の机の引き出しのようなもので、この門は滅多に開かない。だから、これはチャンスだ。この世界から逃れるチャンス。これを逃したらもう二度と門は開かないかもしれない。



「門が開くのは二日後。その時は門のそばにいて全速力で門を潜らなくちゃ。」



スピードだけは他の人より速い自信がある。なんせわたしが《アリア》になってから今まで、ひたすら鍛え続けて来たのだから。今なら瞬間移動くらいのスピードで動けると思う。

問題は、門を出たあと。わたしは、プリグネイシェンの世界を知らない。この妖精族の住む世界から出たことがないから、外の、人間が住む世界は見たことがない。だから、どうやって生きていけばいいのか分からない。


……………………まぁ、大丈夫!頑張ればどうにかなるさ!きっと。


そして、門が開く日。


わたしは、門の近くの木に登って、門が開いたらすぐにくぐれるように準備しておく。



「開けるぞ!」



掛け声と共に大きな門がゆっくりと開いていく。

門の入口はシャボン玉の油膜のようなもので覆われていて中はよく見えないが、ぼんやりと人影が見える。おそらく、あれが『ルーク様』なのだろう。

あそこを抜ければそこは別世界のはずだ。はやる気持ちを抑えて深呼吸する。



「………………よし。行こう。」



自分が乗っていた木の枝を蹴って門に飛び込むようなイメージで進む。実際は、門の五メートルくらい手前で着地してそこから走るからそんなにかっこよくはないけど。

ト、と着地して、あとは走って門をくぐるだけ、というところで、誰かに手首を掴まれた。



「…………え?」



嘘だ。信じられない。わたしは他の人には見えないくらいの速さで走ったと思っていたのに。いや、確かにそのスピードで走ったはずだ。実際に、周りの人も驚いた顔をしている。

恐る恐る顔を上げると、二十代くらいの金髪に青い目の男の人がいた。


……………………あ、この人も宝石眼だ。


初めて見る宝石眼は、光を受けたダイヤモンドみたいで、たしかにとても綺麗だった。



「………………フェン。この子は何者だ?新たな【希望の子】が生まれたとは聞いていないが?」



眉間に皺を寄せて男の人はフェン…………妖精族の長に問う。



「いえ、この娘は見た目だけでして、能力は全くない出来損ないです。」



出来損ない。もう言われ慣れた言葉だけど、ズキンと胸が痛む。涙が出そうになってうつむいて、歯を食いしばって耐えていると、男の人に軽く肩を抱かれた。驚いて顔を上げると男の人は驚く程に真剣な表情でまっすぐフェンの目を見ていた。



「そうか。だが、この子は驚くべきスピードをもっている。それに………………この子は 、レイアの子どもだろう?」



……………………誰?レイアって。


そう言いたかったけど、言ってはいけない雰囲気のような気がして、言えなかった。



「ですがその娘は魔法が一切使えません。」



フェンの言葉に男の人は驚いた顔でこちらを向いて 本当かどうか尋ねてきた。わたしが頷くと、男の人は目を伏せて「そうか。」と呟いた。

また、失望されるんだろう。好きでこの見た目に生まれてきた訳じゃないのに。こんな見た目じゃなければ、こんなに失望されることも無かった。



「なら、この子は私が預かろう。いいだろう?出来損ないと言っているくらいなのだから。」


「え?」



きっとこの時だけは、わたしの気持ちと他のみんなの気持ちは同じだっただろう。

 


「おいで。…………大丈夫。私は、君の味方だから。」



くしゃっと頭を撫でられて、わたしの警戒心はするすると消えていった。たぶん、こういうスキンシップに飢えていたんだろう。だから、手を引かれるままに男の人に着いて行った。

門を抜けた向こうは森だった。本当に、ただひたすら森。なんかこう、もっとすごい見た瞬間わぁってなるのを期待していたのに。森の中を進むと小さな家があった。男の人は家の手間で止まると、くるりとこちらに振り返って屈んで視線を合わせてきた。



「さて。自己紹介をしよう。私はルーク。君の母親の双子の兄だ。」


「あの、それじゃあ、わたしのお母さんについて知ってるんですか?」



わたしには、母親の記憶がない。でもこの人なら、母の兄なら何か知っているかもしれない。

わたしが聞くと、ルークは器用に片眉を上げた。



「さあ?それについては、いずれわかる日がくる。それよりも、君の名前は?」


「いずれっていつなんですか?なんで教えてくれないんですか?わたしは知っちゃダメなんですか?」



わたしが質問攻めにすると、ルークは少し困ったように言った。



「君の母の名前はレイア。レイアも宝石眼だった。今教えられるのは、これだけだ。これ以上教えると、もう、後戻り出来無くなる。それを、レイアは望んでいない。」


「わたしが望んでいると言っても?」


「ああ、これだけは絶対に言えない。」



ルークは頑なで、結局は、わたしが折れた。



「…………………………そうですか。わたしの名前はアリアです。」


「そうか。なら、君の本当の名を教えよう。君の名は、アリア・ライロント・ディ・リーベリヒ。この名の意味も、いずれわかる。」


「本当に、いずれ、わかるんですよね?」



「いずれ」があまりにも多くて不安になって聞くとルークはしっかりと頷いた。



「ああ。必ずくる。……………………さあ、うちへようこそ。アリア。」



ルークは目の前の家のドアを開けて家の中に入って行った。わたしも慌ててそれに続いた。



「わぁ!」



そこは、外から見るよりも、ずっと大きな家だった。ルークによると、この家には魔法がかかっていてそのおかげで外から見るよりも広い家になっているらしい。



「あぁ、そうだ。言い忘れていた。この家にはあと二人がいて、二人とも私の弟子だ。…………ほら、ちょうど来た。」



すぐそこの部屋のドアが開いて、そこから二人の男の人が出てきた。一人は優しそうな風貌の明るい茶色の髪にオレンジ色の瞳の二十歳くらいの男の人。もう一人は紺色の髪の色で、瞳の色は黄色の、夜空みたいな人だった。


 ……………………この世界はカラフルな人が多いな。異世界ファンタジーの定番なのかな?



「師匠、このお嬢様が?」



夜空の人がルークに聞いている。その目がやたらキラキラ、いやギラギラしているのはわたしの気のせいだろう。気のせいだと思いたい。こんな、新しいおもちゃを見つけた子供みたいな顔してる人には近づかない方がいい。



「アシル、そんな目で見るな。この子は私の姪だ。研究対象じゃない。…………アリア。紹介しよう。私の弟子のアシルとレイトだ。」



どうやら、オレンジの人がレイト、夜空の人がアシルらしい。



「はじめまして。姫様。レイトです。」


「初めまして。アシルです。………………貴方も、宝石眼なんですね。」



レイトは優しそうな男の人だけど、アシルはわたしの事を研究対象として見ている気がする。



「はぁ、アシル。アリアを泣かすことだけは許さないからな。」


「………………わかっています。」



アシルがわかっていないのがすごい伝わってくる。ほらだって顔に面白そうって書いてある。



「姫様。アシルは放っておいて行きましょう。お部屋に案内します。」


「姫様、ですか?」



さっきも思ったけど、なんで姫様呼びなんだろ。わたしは姫でもなんでもないのに。



「僕は、ルーク様に助けて頂いた時から、僕の中で、この世界の王はルーク様ただ一人です。だからその娘…………あ、姪でしたか。であられる貴方様は、僕にとっての姫様なのです。」


「なら、わたしはあなたの姫であるのにふさわしくないといけませんね。」



なぜか分からないけど、自然にそれが口をついてでた。たぶん、《アリア》が小さい頃から誰かに言われてきたのだろう。そんなことを考えてながら、目を見開いて固まったレイトを見る。



「姫様は、ルシア様と同じ事を言うのですね。初めてルシア様とお会いした時にも同じことを言われました。」



じゃあ、わたしにそう言い続けてきたのはお母さんなのかな。だとしたら、わたしはお母さんには嫌われてなかったのかもしれない。そう思うと、心が少し軽くなった。



「あれ?でも、なんでわたしの部屋があるんですか?わたし、ここに来ることが決まっていたわけではないですよね?」


「それなら、これのおかげですよ。」



レイトは自分の右耳を指さす。そこには青色のピアスがあった。これで連絡が取れるらしいが、魔力を馬鹿みたいに消費するのでほぼ使われていないらしい。


…………………だから、わたしを見た時の反応があれだったんだ。



「さあ、お部屋に参りましょう。急いで整えましたが、最低限のものは揃っていると思いますよ。」



二階に上がってすぐの部屋のドアをレイトが開けてくれる。なんだか、すごいお嬢様になった気分だ。部屋の中に入ると、シンプルなデザインだけどそれでいて地味すぎない、わたしの好みのど真ん中をついたデザインの部屋だった。



「すごい!本当にここを使っていいの?」


「はい。ここは姫様のために整えられましたから。気に入っていただけたようで幸いです。」



 白と青を基調として整えられた部屋は、たしかに必要最低限のものしかなかった。机、ベッド、ドレッサー、クローゼット。あとはカーテンやカーペットなど。 でもまあいろいろありすぎても困るからこんな感じでいいんだけどね。

部屋に感動してあちこちをキョロキョロ見回していると、いつの間にかルークとアシルが来ていた。



「アリア、今日はもう休みなさい。明日はこれからの事について考えよう。それまでには、体調を万全にしておきなさい。」


「はい。…………あ、でも、この服のままベッドに寝転がってもいいんですか?髪の毛だって汚いし………………」



今のわたしの格好はかなり汚い。服はボロボロだし、髪の毛はベタベタだ。

そう言うと、ルークはアシルになにかをささやいた。するとアシルはなにかを呟いて、腕を軽く振った。



「わぁ!」



アシルが何かをつぶやくと、青色の光がわたしを包んだ。光が引いた時には、服の汚れも取れたし、気分もすっきりしていた。アシルによると、これは【洗浄魔法】で、アシルのような【魔法使い】なら誰でも使えるらしい。だからルークも使える。ただ、レイトは魔法使いではなく【剣士】なので、こういった魔法は使えないらしい。



「わたしも、使えるようになれるかな………………」



わたしの言葉に、アシルは心底不思議そうに首をかしげた。



「え?姫は妖精族の姫でしょう?しかも宝石眼の。」



たぶん本人はなんの悪気もなくそう言っているのだろう。でも、妖精族の出来損ないと言われ続けてきたわたしにとって、妖精族の姫、という言葉は、ただの嫌味にしか聞こえなかった。宝石眼のことまで言われたらなおさらだ。もちろん、アシルはそんなこと考えずにただ純粋に不思議だっただけなのだろうけど。

 

……………………やめて。それ以上言わないで。


アシルがわたしの心の声に気づくはずもなく。どんどん言葉を紡いでいく。



「宝石眼の姫なら、魔法なんて簡単に使えるのではグッ」



  ……………………え?なに?なにが起きたの?


アシルはあっという間にルークに引きずられて行った。

わたしがボーゼンとしているのを見かねたのか、レイトが苦笑しながらわたしを抱き上げてベッドまで運んでくれた。



「聞きたいことは沢山あるでしょうけど、そういう事は明日、師匠ができる範囲で教えてくれるはずですから、今日はもう休んでください。おやすみなさい、姫様。」



さっきのことについて何も聞かないでいてくれる優しさが嬉しかった。

レイトはわたしの目を手で覆い隠して、もう片方の手でわたしの頭を撫でた。



「ありがとう、レイト。おやすみなさい。」



眠る直前、閉じた目の向こうが紅く光った気がした。


読んでくださりありがとうございました。

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