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愛の王女ローズマリー篇、最終回

 私の婚約者は人気者。

 誰もが、彼と自分は似ていると言う。

 でも、彼は誰にも似ていない。


 人々が彼に似ているのではなくて、彼が、彼等の真似をしているに過ぎないのですもの。

 何だか彼は、鏡みたいね。


 そうして写し取ってきた、色々な人の好ましい行いを、私で試しているのだわ。


 ご免なさいね。きっと、いつも彼が余所余所しいのは、私が彼の事を薄気味悪いと思っていたからなのね。



「この頃は、たいそうご機嫌麗しゅうございますね、ローズマリー様」


 彼は、どうやら不機嫌だ。

 私がご機嫌麗しくては、不満なの?

 恐がらせて楽しんでいたの?


 最近私は随分気分が良いものだから、1歩強気に踏み出して見ようと思った。


 失敗しても、構わない。

 一生独りになってしまっても、それも気にしない。


 だって、私は赤毛姫。

 過保護にされてる、出来損ない。


 オマケと呼ばれる末姫セージは、この間、他国の霊獣様とその祝福持ちの主を配下に置いてしまった。


 王家のお歴々は国際感情を(おもんぱか)って、ご立腹の御様子だった。他国の霊獣様がお決めになられたこと故に、はっきりと苦言を呈することは出来ないようだけれども。


 評判など当てにならない。

 私の場合は、セージと逆だ。

 誰にも悪口は言われないけれども、過保護にされた役立たずだ。

 それでも、一生に一度くらいは自分の言葉で話したい。



「あら、そう見えまして?」


 私は、わざと意地悪そうに訊いてみた。


 彼は、ちょっと驚いた。

 嬉しい。

 初めて視たのだ、彼の本当の表情を。


御酒(ごしゅ)でもいただいたら、もっと(たの)しくなりますかしら?」


 嫌味のひとつも言ってみた。


 あら、可笑しい。彼がとっても狼狽えて……



「まあ、お前、昼間だと言うのに、何ですか」


 嬉々とした幽霊娘が、私の前にやって来たのだ。


「イーヴォー、やめろ!」


 私を庇って、スカハン様が前に出る。


「まさか、今までも夜はローズマリー様に乗り移って、呑んだくれていたのか?」


 いつになく声を荒げるスカハン様。


「ローズマリー様が、お会いするときいつも気だるげなのは、宿酔(ふつかよい)かっ!」


 え、何なの。違います。

 宿酔なんて。


「いい加減にしろっ!昼間の町で、見知らぬ女性達に取り憑くだけでも迷惑なのにっ!」


 私は、あまりの急展開に驚き過ぎて、声も出ない。


「お前は死んだんだ。酔って、川に落ちて、6年前に、死んだんだ!」


 スカハン様は、言い含めるように一言ずつ区切って叫ぶ。


 イーヴォー様は、スカハン様の双子の姉上様だ。2人は私より6才歳上だから、享年20歳。


 私は、なす(すべ)もなく、スカハン様とイーヴォー様(の幽霊)との攻防を見守る。



「解ってますよ、死んでますよ。相変わらず、愚かね。ローズマリー様のお心を得ようと、猿真似ばかりしているから、本当の事が見えなくなってしまうのよ」


「何だ。本当の事って」


「体があれば、呑めるでしょ?死んでいたって、関係ないわ。そんな簡単な事も解らないの?」


 イーヴォー様は、心底馬鹿にしたように言う。


「成仏しろ、この酔っ払い!!」


 イーヴォー様は高笑いして、私に乗り移ろうとする。

 それを見てスカハン様は、形振り構わず私を抱き締めて庇う。


「やめろっ!」


 あら、騎士みたいね。

 スカハン様、やれば出来る男。


 どんなに格好悪く足掻いても自分の気持ちを見せてくれているほうが、ずっと素敵なんですから。


「ねえ、イーヴォー様。私、お酒に弱いのよ」


 私に取り憑いても思うように呑めないと知ると、イーヴォー様は真昼の空気にすぅーっと溶けて消えてしまった。


 きっとまた町の酔っ払い女に取り憑いて、心行くまで呑むのだろう。



 fin.

覚え書き


イーヴォー=(鏡に写る)像


愛の勝利?



最後までお読み下さり、ありがとう御座いました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こちらも拝読しました。 一人称がとてもお上手です。
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