①
今回は、タイムとセージの姉、平凡姫ローズマリーの物語。
よろしくお願いいたします。
私の婚約者は人気者だ。
私とは全く違う。
皆様は彼に共感し、彼が自分に似ていると言って自慢する。
でも、私には似ていない、全然、ちっとも。
「ローズマリー様、こちらにいらっしゃいましたか」
彼は物腰柔らかだ。
でも、ずば抜けて上品と言う訳では無い。
「町で人気の『花水晶』が手に入りましたので、お持ち致しました」
庶民の流行にも敏感だ。
でも、砕けている訳では無い。
「『花水晶』とは何ですの?」
特に不満では無いけれど、捉え所が無くて落ち着かない。
「フフッ、開けてご覧なさい」
含み笑いで小さな包みを差し出した。
お色気って程では無いけれども、女性が喜ぶ流し目だ。
一体何処で覚えたのやら。艶めくサロンが目に浮かぶ。
何だかとっても、気にくわない。
「ありがとう。とても可愛らしいラッピングですのね。」
彼が差し出す包みには、モノクロームで小鳥の刺繍が施された、明るい黄色のサテンリボンが結ばれていた。
小鳥は、お店のロゴマークらしい。包装紙の目立つ場所にも印刷されていた。
包装紙は、水色と白のギンガムチェックだった。
今日の彼のポケットチーフと似た柄だった。
そうした小細工を、この方はしょっちゅうなさる。
だけど、お洒落って訳じゃ無い。
勿論、野暮でも無いけれども。
どっち付かずで薄気味悪い。
「ええ。ラッピングもお菓子も、若い女性に評判ですよ」
暖かみのある灰色の瞳を、柔らかに緩める。控えめなその微笑みは、多くの女性を虜にしてきた。
彼に微笑んで貰おうとあの手この手のご令嬢方は、一体何をご覧になっておられるのか。
さっきの流し目を付けた悪戯笑顔と、全くタイプが違うじゃないの。
第一、「開けてごらん」とか色仕掛けをしておきながら、お菓子だ、って言ってしまっているわよ。
わざと、って事なのかしら?『うっかりさん』の演技なのかしらねえ?
あざとくもないけれど。効果がまるで無いのですから。
お取り巻きには、効果抜群なのかも知れませんけれども。
お茶会でも、舞踏会でも、そう言う節穴ご令嬢方が頬を染めてうっとりとこの方を取り囲んでいらっしゃる。
ご令嬢のタイプは様々で、本当にどんなご令嬢にも持て囃されている。
彼は地味な黒髪で、華やかなタイプではない。髪型だって可もなく不可もない、ごく平凡な短髪だ。
体格だって、中肉中背だ。目に立つような特徴はない。身のこなしだって、普通だ。
武芸も魔法も程々だ。
それだと言うのに、遊びなれた小粋なご令嬢方にさえ熱い視線を送られている。
若いご令嬢だけではない。ご家庭持ちの奥様方には、息子のように可愛がられている。
お婆様方にも、目をかけて頂いている。孫の婿にと、横取りを目論む方さえいらっしゃる。身の程をわきまえて欲しい。
未亡人方は、お遊びのお相手にと狙っている。
流石に彼も、そうしたご婦人とは距離を置かれておいでだけれども。
そうした方々から、おねだりでもされたのかしら?
彼はお金持ちだから、
「どうぞ、よろしければ、皆さんでお召し上がり下さい」
とか、おべっかを使いながら大きな包みを差し入れたに違いない。どうぞ、ご存分に差し入れされたらよろしくてよ。
覚え書き
ローズマリー 魔よけの薬草(真実の愛)