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05話 学長室にて

 コン、コン、コン

 学長室の扉をノックするも・・・・返事がない。


 鍵はかかっていないみたいだ。

「失礼します!」

 意を決して中に入る。


 奥の机に人影が見えた。

「すみません、留学生のノエイン・エリルです。学長さんです・・か・・・?」

 近づいて声を掛けるも人影は微動だにしない。

 よく見るとどうやら良くできた人形のようだ。

「どうしてこんなところに・・・」


 周囲を見ると壁沿いにも無数の人形が無造作に置かれている。

 廊下に置かれた鎧といい、日の陰った部屋は何とも異様な雰囲気を醸し出している。


 どの人形も人と見間違うような精巧な作りをしていて・・・

 ふと、人形の目が全て僕の方を向いていることに気が付いた。

 本当にこれはただの人形だろうか? 嫌な雰囲気に背中を冷たい汗が流れ落ちる。


 出直そうと振り返ると・・・背後に人形が立っていた。

「わぁっ!?」


 驚いて後ずさる僕に、それは優雅に頭を下げ挨拶をした。


「いらっしゃいませ。ようこそ。ドラグノーツカレッジへ」

 整った顔つきに白い肌、重さを感じさせない身のこなしに人間離れした何かを感じる。


「学長代理のアマリアと申します。ノエイン・エリル様ですね。ジャン王子からお話を伺っています。どうぞお座りください」

「す、すみません。セルバウルから来たノエイン・エリルです。このたびは留学を受け入れていただきありがとうございます!」

 僕は慌てて進められたソファーに座る。


 代理と言っていたが、学長とはどういった関係だろうか?

 ゴシック調の服を着て、見れば見るほど部屋にある人形と似ている。

 学長が禄でもないと言われる理由ワケが分かる気がする。


 と、ヴィルミアから渡された贈り物を思いだした。

「あと大したものではないですが、ご厚意にお預かりしたお礼です」

 学長の好きな黄金色のお菓子だとかなんだとか。


 アマリア学長代理は無表情のまま僕の手にある贈り物を見つめ、

「恐縮ですが受け取る必要はないと判断します。留学の受け入れをお決めになられたのは国王陛下と第三王子で、学長は特に関与しておりません。私どもに気を配る必要はないかと」

 きっぱりと拒絶された。

「えっと・・・ああ、すみません。」

 気まずい空気が流れる。


「学長はご不在ですか?」

「不在です。普段は工房に籠っていることが多いのですが、珍しく陛下からの召集に応じられて首都に行かれています。一応、新学期の始まりまでには帰ってくるかと」

 学長は居ないらしい。

 ここまで見聞きした限りだと、合わずにすんで良かったのかもしれない。


「事務手続きは全て完了していますので、書類を受け取っていただけたら本日の要件は終わりとなります。学生寮の寮長を呼んでいるので、この後は彼女から説明を聞いてください」

 学生寮、その言葉に胸が高鳴る。

 さあ、ついに念願の一人暮らしだ!


「今後の予定としては、検診や体力測定を兼ねたランク評価を受けていただくのと、入学式・始業式への出席をお願いいたします。ランク評価に時間の指定はありませんが、期間内に受けていただきますようお願いいたします」

「ランク評価?」

 入学前にちょっとした検査があると聞いていたけれど、そのことだろうか?


「学園では危険を伴う場所や講義があるため、安全のために魔術師としての力量を確認しています。簡単な検査ですが、ランクによって受けられる講義や使用可能な施設が決まるため、くれぐれも受け忘れることの無いようにお願いいたします」

「わかりました!」

 魔術師の力量テストがどんなものか知らないけれど、体力測定なら自信がある。


 アマリア学長代理は僕を見咎めるように目を細め、

「国の発行する身分証とは違いますが、ランク評価で発行される証書は身分証の代わりとして、各地の斡旋所で仕事を受けられるなどそれなりに価値があります。盗難されやすい傾向があり、紛失した場合は責任を問われた上に費用が自己負担となるため、くれぐれも紛失しないようお気を付け下さい」

 声の音程を下げて警告をする。


 斡旋所には、一獲千金を求めて冒険者が集うと兄上から聞いたけれど・・・

「斡旋所って学生も仕事を貰えるんですか?」

「仕事を貰うこともできますが、それは仕送りの無い学生が生活費を稼ぐための非常手段です。国の支援があるエリル様には縁のない場所かと」

 口調は全く変わらないが、アマリア学長代理は少し怒ったようだ。

 働く必要がないと言えば、正にその通りなのだけど。


「学生の本分は勉強です。それを見失って斡旋所に入り浸る学生もいますが、怪我をすることもあり、感心できることではありません。子供に聞かせる冒険譚のようなものを思い描いているようでしたら、見当違いです」

 働いてお金をもらうことに興味があっただけなんだけど、冒険とか行きたそうに見えたんろうか?


「ひとつ。折角のご留学ですが、ランク評価にて最も低い結果が出た場合、講義が軍の訓練のようなカリキュラムのみとなります。第三王子のご紹介とはいえ、その辺りの扱いは他の学生と変わらないことをご了承ください」

 軍の訓練・・・姉上の顔がよぎる。

 折角、家から出られたのにそれは嫌だ。

 絶対最低ランクだけは避けないと!


「この学園で何を学び、どのような成果を上げられるのかは、エリル様次第となります。エリル様の望みが如何様なものかは知りませんが、日々を無駄に過ごすことにならないよう、ご精進ください。特にエリル様には素晴らしい研究成果を上げていただけると期待をしています」

 アマリア学長代理の欲するところはよくわかる。

 僕の体質やセルバウルの特殊な環境について研究すれば、成果をいくつも上げられるに違いないだろう。その結果を魔術師達が知ることで、今後セルバウルにどのような影響を及ぼすか考えなければの話だが。


 カラン カラン

 何も触れていないのに机の上のベルが鳴った。


「寮長が来たみたいですね。それでは良い学園生活を」

 僕はアマリア学長代理に見送られて、部屋を後にした。

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