50話 禁忌(1) told by サラーサ
「見つけたのじゃ!」
急な呼びかけ声に驚き咄嗟に振り返るも、声の主の姿は見当たらない。
(さっきの特徴的な語尾は・・・・)
声と状況からそれが誰かすぐに思い至る。
「メイ・・・・?」
エリルが白の会と一悶着起こすことになった怪しげな同級生だ。
姿を現してからはエリルによく引っ付いていて知らない相手ではないが、カナミのこともある。今起きている凶行に加わっていないという断定はできない。
「正しくは違うのじゃが、今はそれでよいとしよう」
声と共に陽炎のような靄が現れ、だんだんと輪郭がはっきりし始める。
「・・・・」
扉を背にしたまま出方を決めかねていると、彼女はため息をついて口を開いた。
「そう警戒するでない、もし汝を殺すつもりならわざわざ姿を現す意味はなかろうて」
確かにその通りだが・・・・ここに呼び出された理由が理由だ。安直に信じることは出来ない。
「なら一体何をしているの? あなたが御執心のエリルが危険な目に合ってるっていうのに」
逃げてきた私が言うのもアレだけど、エリルと一緒に戦えばカナミを抑え込めたかもしれない。こんな時に限って彼女は一体何をしていたのだろうか?
「そんなことはわかっておる! とりあえず今は急ぎ汝の力を貸してほしいのじゃ」
「姿と気配を消せるほどの高位魔術が使えるあなたに、私の力を?」
属性による得意不得意はあるだろうが、高位魔術を修得できるなら下位魔術は属性を問わず使えるものだと思っていた。
「向こうの部屋に胸を貫かれて命が危うい奴がおる。出血こそ止めたが我は治癒魔術が不得意でな、ろくな治療が出来ておらぬ」
「それは大変! 急いで治癒魔術を――――って、胸を貫かれるとか重傷よ! 今の私にそんな傷を治せるほどの魔力は残ってないわ!!」
自分の足ですら満足に治療できるか怪しい状況だ。こんな私が向かったところで手を施せるかどうか・・・・
「部屋には我らが盗み出した汝の宝石箱・・・・魔薬が置いてある。詳しい話は後でするから急ぎ向かってほしいのじゃ」
そう言って彼女は伏し目がちに私を見る。負い目を感じているらしい彼女の様子に私は少し驚きつつ、胸を撫で下ろす。
「わかったわ! 場所は?」
人命を優先して細かいことは後で考えよう。
「ここからまっすぐ進んだ先にある扉の開いた部屋じゃ」
「扉の開いてる部屋ね! って、あっ、つぅー!!?」
走り出そうとしたところで足に激痛が走り、私は倒れ伏した。
僅かな間に流れた血で床が染まっている。
「ええい世話の焼ける。パワーアップ! プロテクト! アノジーズィア!」
彼女が呪文を唱えると足の激痛が消えた。
「痛みが!?」
「痛覚を麻痺させただけじゃ! 強化魔術で補強したが放置すると足が腐り落ちるのじゃ、治癒を忘れるでないぞ!」
氷の溶けかけた足からは相変わらず血が流れている。早く治療しないと出血で意識を失いそうだ。
「ありがとう、行くわ。あなたは?」
「我はエリルを助けるための策を講じるのじゃ。そう時間はかからぬ、準備が出来るまで部屋で待っておるのじゃぞ!」
私やエリルより一回り以上小さな彼女だが、その独特な口調が今は頼もしい。
「わかったわ、気を付けてね」
そう言って私は駆け出した。