49話 都合のいい話 told by サラーサ
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。
仕事に追われて久しぶりの更新になってしまいました。。。
ここから少し視点がサラーサになります。また時系列が少し戻り、46話にてカナミに襲われたサラーサが廊下に逃げ込んだ直後の話となります。
廊下を少し進んだ先で壁にもたれかかる。
エントランスの方からは金属のぶつかり合う音が響き、カナミが後を追ってくる気配はない。エリルが応戦しているのだろう。
「早く戻らないと」
傷の程度を知るために気を足に向けた途端、激痛が全身を貫いた。
「ああっっう!」
足をタイツごと凍らせて固定することでここまで誤魔化してはきたが、いざ足を上げようとすると全く力が入らず動かせそうにない。
さっきは咄嗟のことで状況を理解できていなかったが、カナミの容赦ない攻撃に心が冷える。少し様子がおかしかったが、誰かに操られているのだろうか? もしそうなら早く正気に戻さないと――――と、廊下に転がるそれを見つけてもう手遅れかもしれないという予感が頭をよぎる。
「ここの衛兵はもう・・・・」
廊下にはまたひとつ衛兵の死体が転がっていた。
あれだけの騒ぎを起こして誰も来ないと言うことはそう言うことだろう。カナミが一人で全てやったとはとても思えないが、操られていたとしても何かしらの重い罰を受けるのは確実だろう。まあ、現在進行形で事件を起こしている犯人の魔の手から私達が逃れられるかすら定かではないわけだが。
「先のドラゴンに続いて、こんなことが学園内で起こるなんて・・・・」
学園に留学することになった発端を思い起こす。
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「来年、ドラグノーツ学園への推薦を受けられることになった」
外遊から帰ってきたお父様は私に会うなりそう話を切り出した。
「ドラグノーツって、あのゴルグレーの? この私が?」
ドラグノーツと言えばこの大陸で最も大きな国のゴルグレーで最難関とされる学校、つまりこの辺りで最も勉強ができる場所だ。ゴルグレーの貴族ですら能力が伴わなければ入ることが叶わないと聞いている。推薦が本当なら、魔術師にとっては垂涎ものの話だ。
「そうだ」
そう答えるお父様の顔は暗い。当然だろう、こんな田舎の新興国にそんないい話がタダで転がってくるはずがない。
「お父様、それはあの国からの要求によるものですか?」
「・・・・その通りだサラーサ。何があったかは知らないが、あの国に魔術の素質を持った子供がいるらしい。今回その子供がドラグノーツに留学するわけだが――――」
「あの国にも魔術師の血が流れていて!? 学園に留学できるほどの力ということは、どこの血筋を受け継いでいるのかしら??」
魔術師の力は血脈によるところが大きい。まさか魔術を碌に使えない子供を学園に入れることはないだろう。
「下手な詮索はやめなさいサラーサ。災いを呼ぶ可能性がある」
「・・・・すみませんお父様、取り乱しました」
人の国から有能な魔術師の卵が現れる。ゴルグレーも関わっているとなる何かしらの謀があったと考えた方が良いだろう。
「とりあえずあの国からは、お前を学園に入学させてその子供を監視させろと言ってきている」
「警護ではなくて監視ですか?」
わざわざ一緒に入学させるのに? 襲われる心配はないと言うことだろうか? それとも・・・・
「そう聞いている。何が起こっても巻き込まれない限り手出しはしなくて良いらしいが――――やはりこんな密偵の真似事のようなことをおまえにさせるのは気が進まん。今の話は聞かなかったことにしてくれ」
「いいえお父様、ぜひとも話を聞かせてください。ドラグノーツ学園への留学は魔術師にとって憧れの一つ、加えてそれがフィクサスのためになるのなら何ら拒否する理由はありません」
戦争で散々な目にあった父が話を渋る気持ちもわからなくはない。しかし、今やあの国はフィクサスに多大な支援をしてくれている上に、戦いを共にする同盟国だ。それに行く先も大陸でもっとも堅牢と言われる盟主国の膝元なのだから、そこまで恐ろしいことは起こりはしないだろう。
「問題があるとすれば・・・・推薦とはいえ学園は易々と講義を受けられるほど容易い場所ではないはずです。入学できたとしても私の力では上手く進学できるかどうか。その辺りの話はどうなっているのですか?」
能力的に私が試験をクリアして進学できる可能性はかなり低い。
「・・・・」
お父様は余程気が進まないらしく俯いてしまった。
「お父様、黙っていては話が進みません。推薦だけで私のような出来損ないが学園に入って上手くやれるなどという甘い考えは持ち合わせていません。他にも何か指示があったはずですよね?」
「そこまで頭のまわるお前は決して出来損ないなどではない。蔑むなら力を受け継がせてやれなかった私を罵るといい」
「お父様を罵ったところで何の解決にもなりません。それに、誰かのせいだと責めるような事ではないと思います」
「そうだな・・・・」
寧ろお父様は魔術師としては清廉潔白すぎると言える。魔術師は力のある子供を作るために数をこなすのが普通なのだから。
「それで、あの国はどんな指示を?」
「これを使えと言われている」
そう言ってお父様は黒い水晶のような物を懐から取り出した。
「これは?」
「ゴルグレーで開発された魔力を補充し量を増やす薬だそうだ。魔薬の一種だが副作用はないらしい。とても信じられんが私も一応確認済みだ」
お父様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。問題があるようなら薬を理由に即座に断りたかったのだろう。
「お父様、ぜひともこの推薦を受けさせてください。魔力の少ない私がこんな機会を得られるなんて二度とあるとは思えません」
あまりに都合の良すぎる話だけれど、私には計り知れないメリットばかりだ。どれだけの危険が潜んでいたとしても、断る理由にはならないだろう。
「すまないサラーサ、そこまで言ってくれるなら話を受けることにしよう。決して無理はしないように」
「わかりましたお父様」
同級生を見張るぐらいなら無理する要素はないように思える。いっそのこと身の回りの世話とかをしてしまってもいいかもしれない。
「一つ注意がある。この薬は魔力感知球を使われると使用がバレてしまう。入学式の前に感知球を使った検査があるそうで、薬の件が学園側に露見すると監視をするのに支障が出るらしい」
魔薬を使っての検査突破はさすがに違反行為のようだ。バレて退学になってしまっては元も子もないだろう。
「ということはその検査を避けることに?」
一つだけとはいえ検査を受けずにいられるものだろうか? 先生に話を通せていないのなら仕方がないのだろうけれど、逆に目立ってしまいそうだ。
「いや、クラスの振り分けにかかわる大事な試験で受けないわけにはいかないそうだ。対策として監視対象と一緒に試験を受けるように言われている」
「監視する子と一緒に?」
どういうことだろう?
「あの国の子供が感知球に触れると何か不具合が起こるらしい。偽装用に改造した感知球を用意してくれるとかで、それを上手く使って乗り切れと・・・・出来るか?」
国家元首の娘として人前での演技に多少の心得はある。ここまで色々と準備してもらえるなら、どんなことが起きても仕事をやりきれるように思えた。
「任せてくださいお父様、それぐらいならやりきってみせます!」
お父様と家族、ひいてはフィクサスのために、そして何より未来の成りたい自分のために私は私の道を進む。そう心に決めた。
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「くぅっ」
凍らせた足が暖まり始め、より強い痛みが私を現実に引き戻す。もっと楽な仕事になるかと思っていたけれど、やっぱりそう甘い話ではなかったみだいだ。
ゴルグレーはエリルを使って不穏分子のあぶり出しでもしているのだろうか?
まあ今考えたところで仕方がない。とりあえず他の襲撃者と出くわす可能性もあるし、どこか適当な部屋に隠れて回復魔術を使った方が良いだろう。そう思って近くの部屋に入ろうとしたところ――――背後から声をかけられた。