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47話 死合 told by 襲撃者

襲撃者視点3度目の分割。

変なこだわりは捨てて更新と読みやすさ優先します。

 サラーサを逃してからどのくらい経っただろうか。

 あれから幾度となく武器を交えたが、未だにエリルを殺せずにいた。

 手を抜いているつもりはないんだが・・・・


「ファイアウェーブ!」

 魔術で炎の波を放ち、その陰に隠れて突撃する。

 対するエリルはひるむ様子もなく、炎の波を正面から受け止めた。


「無駄だよ!」

 炎がその身を飲み込もうとするが、見えない壁に遮られるようにして勢いを減じ掻き消えていく。すべての炎が消えてしまう前にオレは中に飛び込み、エリルを横合いから斬りつけた。


 炎にまぎれての攻撃にもかかわらずエリルはすぐに反応し、刀を防ぐために剣を合わせてくる。

 それならと手を捻って刀を剣から反らし、エリルに向かって大きく踏み込んだ。


「なっ!?」

 振り下ろされた剣が目前に迫るが、オレの無謀な行動に驚いて動きの鈍った剣の側面を体で押し退け、逆手に持った刀で突きを放つ。

 エリルは慌てて体を捩り刀を躱そうとするが、微かな手ごたえと共に刃先がその制服を切り裂いた。


 と、懐に入り込んだオレに向かってエリルが剣を振り払う。

「強引すぎだよ!」

 すぐさま飛び退いて避けるが、僅かに掠った肌に赤い線が走る。


「上等じゃねーか」

 流れ出る血を袖で拭う。


「その程度じゃ僕は倒せないよ!」

「その言葉、そのままお前に返すぜ!」

 疑似人格の影響か相変わらず多弁になっているが、なぜか悪い気はしない。


「僕にはカナミを倒す必要なんてないからね。そろそろ異常を察した衛兵が駆け付けるだろうし、もうやめようよカナミ!!」

「そう上手くいくと思わないことだな。それに、そう簡単にやめる訳にもいかないのさ」

 エリルは時間が経てば有利になれると思っているのかもしれないが、内通者の協力で明日の朝まで追加の衛兵が来ることはない。問題は逃げたサラーサが何をしてくるかだが・・・・はやる気持ちを押さえつつ目の前のエリルを見据える。


 学生のエリルですらここまで強いなら、セルバウルの兵士はどれほどの化け物になるだろうか? 魔術には疎いとはいえ、恐ろしい国があったものだ。

 まあ、当のエリルに関しては弱点が見えてきたわけだが・・・・


 不可解なのは、これまでの攻防で制服こそボロボロになっているものの、エリルが未だに血の一滴すら流していないことだ。

 このセルバウル製とされる刀は魔術を無効化する。そのため障壁などの魔術で防ぐことは不可能だし、幻影の類も霧散させることが出来る。残る可能性としては、霧散しても分からないほどの服のような幻影をまとっている場合だが、そんな高度な魔術は低学年のエリルに使えないだろう。


 何か大切なことを忘れている気もするが、オレはカナミではない。なので思い出すような何かがあるはずもなく・・・・と、セルバウルが不思議な魔道具を作る国だということに思い至った。


 剣を構えるエリルをもう一度よく観察する。


 刀と同じく魔術を無効化するであろう剣に、怪しげな魔法帽、案外制服も特注品かもしれない。

 あれらの装備がセルバウル製の魔道具で、何らかの効果を持っているとするならば、一向にダメージを与えられていないこの状況も説明が付く。

 なにより戦っている最中に、意識が散漫になったり、気力の低下、不可解な興奮状態に陥るなどおかしなことが幾つかあった。疑似人格の不具合によるものだと思っていたが、魔道具による攻撃を受けていたのかもしれない。

 今のところ問題は起きていないが、これ以上怪しげな攻撃に身を晒し続ける義理はない。早々に蹴りをつけてしまうべきだろう。


 学生エリルごときにそこまでするのは少し癪だが、今回の仕事はマスターの命運を左右する大切な仕事だ。

 覚悟を決めて大きく息を吸い込み、

「はぁああああああああ!!」

 声を上げてエリルに斬りかかった。


 身構えるエリルの剣に二度三度と刀を振りおろし、力技で押し込む。たまらず後ずさったエリルを追って踏み込み、刀を勢いよく振り下ろした。

 大振りの攻撃に対し、エリルは大きく飛び退いて避ける。

 空を切った刀は勢いよく地面に接して大きな音をたて、オレはその衝撃にバランスを崩す。


「ごめんカナミ!」

 エリルはその隙を見逃すことなく、手に持った剣でオレを薙いだ。

 迫る剣を躱そうとするそぶりを見せつつ、飛び退きたい衝動を抑えて踏みとどまる。


「ぐっ」

 剣が腹に食い込み、裂けた箇所から鮮血が舞う。


「あっ・・・・」

 剣を振りぬいたエリルは小さく声を上げ、苦虫を噛み潰したかのように顔を引きつらせた。

 燃えるような痛みを感じつつも笑みがこぼれる。傷は深いが・・・・致命傷にはほど遠い。

 人を殺すことへの戸惑いは戦場を知らない新兵によくあることだ。


「甘いぜエリル!」

 一瞬動きを止めたエリルの剣を持つ手を掴む。

「なにを!?」

 逃れる間も与えずに、もう片方の手で刀を振りぬいた。


「あああぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 力が足りず両断までは至らなかったが、骨にまで達する感触に勝利を確信する。

 ここまで深手を追えば、もうまともに剣を持つことはできないだろう。


「終わりだ」

 声を上げて後ずさるエリルに両手で持った刀を振り下ろした。

 キンッ!


 勝利を確信していたというのに、その刃先は甲高い音をたてて剣に受け止められた。

「なんだと!?」

 燃えるような痛みに耐えつつエリルを見る。


 深々と斬りつけた腕は、制服こそ裂けているものの傷を負った様子はない。あれで腕が斬れていないなら、いったいオレは何を斬りつけたっていうんだ?

 そうやって戸惑っている合間も、エリルが一心不乱に斬りかかってくるため、その攻撃を刀で必死に受け止める。


「一体どんな手品だよ、それ」

 つい言葉がのどを突いて出る。


「・・・・無敵の魔法だよ。カナミの攻撃じゃ僕を傷つけることは出来ないから、大人しく武器を捨てて投降するんだ」

 そう答えるエリルの顔色はなぜか悪い。


「魔法ってなんだよ、魔術じゃねえのか!?」

 無敵になる魔術なんて聞いたことがない。もし本当だとしても、魔術ならこの刀でダメージを与えられるはずだ。


 血が吹きだす腹を押さえつつ次の策を考えようとするも、一変して攻撃に転じたエリルに押され防戦一方となる。エリルの激しい攻撃に自棄ヤケのようなものを感じるが、無敵と何か関係しているんだろうか?


 ようやく距離が取れてエリルを観察しようとした時、視界が揺れて膝をつく。どうやらエリルに気を取られ過ぎて、腹の傷から血を流しすぎたようだ。

 間髪入れずに斬りかかってくるエリルから逃れつつ、傷口を魔術で焼いて止血する。


 血が足りずに朦朧とする頭を総動員してみるも、このままずるずると戦ったところで勝機はないという結論に達する。

「ここまでか」

 オレは作戦を変え、首にかけている魔道具を使うことにした。

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