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46話 人形兵(2)told by 襲撃者

引き続いて襲撃者視点より。

 剣の一撃を避け距離を取る。


 ようやくガキの正体を思い出した。

 日に焼けて少し容姿が変わってしまっているが、新たにゴルグレーの同盟に加入した国から来た留学生だ。魔術を無効化する魔道具を作る国で、当の留学生にも注要する必要があるという話だったが・・・・


「カナミ!――――」 

「ファイヤボール」

 再び口を開こうとしたガキを黙らせるため、魔術で作り出した火球を投げつける。


 魔術障壁や剣を使って防ぐかと思ったが、身構えたまま動かずにガキは直撃を受け――――何事もなかったかのように火球を霧散させた。


 炎を消すような魔術を詠唱したようには見えなかった。セルバウル人自身にも特殊な力があるとてもいうのだろうか? 生半可な魔術ではダメージを与えられないのかもしれない。もしそうだとすると・・・・


「もうやめるんだカナミ!」

 悲痛な顔をして叫ぶガキに突撃する。と見せかけて、刀を交える直前に身を翻してガキの背後で様子を伺っていたフードの学生に2本のナイフを投擲した。


「なっ!」

 すぐさまガキが反応してナイフの片方を叩き落とすが、残ったもう一本が学生に迫る。


「きゃっ!」

 カン!

 学生は悲鳴を上げつつも、しっかりと障壁を張ってナイフを弾いた。


 続けて背後に気を反らしたガキに刀を振り下ろすが、即座に反応されて刀を剣で受け止められる――――が想定内だ。刀と剣がぶつかった衝撃を利用して跳躍し、ガキを越えて学生へと襲いかかった。

 学生とはいえ2体1になると分が悪い。なので余計なことをされる前にこの学生には退場してもらおう。


 飛びかかったオレに対し、学生は怯むことなく魔術を使って巨大な氷壁を作り出した。

 中々に良い判断だが、この刀の前では無意味だ。振り下ろした刀はあっさりと氷壁を切り裂き、触れたところから氷壁を砂のように粉砕した。


 着地した勢いのままに無防備に体を晒す学生を切り捨てようとしたが、学生は想像以上に俊敏な動きをして斬撃を躱した。

 よく見ると床が凍っている。どうやら器用に氷の上を滑って回避したようだ。


「このバカ、目を覚ましなさい! アイスブレス!」

 カウンターとばかりに学生が至近距離から強烈な冷気を吹きかけてきた。


「この程度の魔術で、寝ぼけているのはそっちだろう。ファイアアーマー」

 炎の鎧をまとい冷気を無効化する。


「やぁああああああ!」

 声を上げて背後からガキが剣で斬りつけてきた。下手な奇襲だが無視することもできず、振り返り刀で受け止める。


「サラーサは逃げて!」

「おかしくなったカナミ相手とはいえ一人では危険よ! それに何が起こってるのかもよくわかっていないし・・・・」

 学生の方はまだ事態を把握できたいないようだ。


「なんだ友人を置いて逃げるのか?」

 あまり良くない流れになりそうなので挑発してみる。


「エリルを置いていくなんてできないわ! それにこのバカがこれ以上罪を重ねる前にとっちめないと」

「ダメだよサラーサ、カナミはまだ本気を出してない。このまま何度もサラーサを狙われたらおそらく守りきれないし、ゆっくりしてる時間もないんだ。お願いだから逃げて人を呼んできて!」

 ガキの指摘に学生は顔を強張らせる。


「そう言うてめーも本気じゃないよな!」

 一瞬身を引いてから、勢いをつけて斬りつける。

 ガキは衝撃を綺麗に受け流し、構えを崩す気配はない。


「・・・・わかったわエリル、助けを呼んでくるからそれまでそのバカを頼んだわよ!」

 ガキの真剣な眼差しを受けて、学生が出口に向かって走って行く。


「そう簡単に行かせるかよ!」

 ガキに向かって目くらましの火球を放ち、再び学生目掛けて数本のナイフを投擲する。


「しまった!」

 火球はガキの持つ不思議な力で掻き消えたが、ナイフは弧を描いて学生に向かって飛び・・・・

「アイスランス!」

 学生の放った魔術に全て撃ち落とされた。どうやら学生の方も中々できるようだ。


 と、不意に走っていた学生が濡れた床に足をとられて転倒し、その拍子に持っていた杖が勢いよく出口に向かって飛んでいった。

 次の瞬間、視界がフラッシュアウトして何かの転がる重い音が響く。


 視界が張れると地面には氷の塊となった杖が転がっていた。

「えっ? 私の杖が凍りついて・・・・」

「今何が起こった?」

 襲撃前に仕掛けておいた、逃げ出そうとする奴を氷漬けにする罠だ。


「ちっ、運のいい奴め」

 うまく誘導できたと思ったが、予想外のドジをされて台無しになってしまった。


 罠の発動に驚いて気を散らしたガキを蹴り飛ばし、起き上がろうとしていた学生に斬りかかる。

「もう死んどけ!」


「アイスブレス!」

 学生は足止めとばかりに地面を凍らせる。

「甘い」

 凍った地面を踏みつけるとファイアーマーの効果で氷は瞬時に溶け、滑ることなく学生目掛けて刀を振り降ろした。


 相変わらず学生は素早い動きをして一撃目を躱した。どうやら靴を凍らせて濡れた床を滑っているようだ。そのまま学生はオレの脇をすり抜けようとするが、すかさずに放った二撃目がその足を捕えた。


「くぅっ!」

 血が舞い学生がうめき声を上げる。


「サラーサ!」

「ごめんエリル、治療に少し下がるわ」

 そう言うと学生は流れるように滑って通路へと消えて行った。

 それなりの傷を負わせたと思ったが、どうやら浅かったようだ。


「くそ、待ちやがれ!」

 後を追おうとした俺の前に再びガキが立ちはだかった。


「待つのはカナミの方だよ!」


 数秒ほど睨みあうが、ガキの方から向かって来る気配はない。

 通路に逃げ込んだ学生を追いたかったが、出口の結界を破壊できる可能性の高いガキを放置してはいけない。


「あー、マジめんどくせぇ」

 軽い言葉を吐いた次の瞬間、一気に加速して刀を振るう。

 ガキはすぐさま反応して俺の刀を受け止めた。


 すぐさま刀を引いて後ろに下がり、腰をかがめて突きを放つも身をひるがえして避けられる。

 追撃で十字に切り裂こうとするも、ガキは素早く対応して剣で攻撃を受け止める。

 攻め手は少ないくせに堅い守りをしている。


 と、何故かこのガキと剣戟けんげきを繰り広げていると、胸に熱い何かが沸々と湧いてくることに気が付いた。こんなことにかまけている時間はないはずなのに、相変わらず疑似人格が不都合を起こしているみたいだ。


 喜び、怒り、哀しみ、楽しみ、

 人形には不相応な何かが体の中で暴れている。

 もしかしたら違う道があったのかもしれない。


 ・・・・だとしても、人形に選択する権利などありはしないのだが。


 体の動作に支障はない。

 ならばやるべきことは決まっている。


 目の前のノエイン・エリルを切り捨てて、逃げたラムレス・サラーサを殺すだけだ。

締めるつもりが分割したためもう少し続きます。

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