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44話 守衛室にて

「この学園から追い出されたくなかったら、二度とこんなことをするんじゃないぞ!」

 そう声を荒げて、偉そうな髭を蓄えた男は机を強く叩いた。大きな音に身が縮む。こんなに激しく怒られたのはいつ以来だろうか? かれこれ半刻以上、僕はカトレアの上官だという衛兵長に説教をされていた。


 窓が割れたのはどちらかというと事故だったし、怒られるとしても風紀を守る白の会やラナティア教授だと思っていた。衛兵のカトレアに連行された際は何か悪い冗談だと思っていたけれど、衛兵長に怒られるに至って何が起こったのかを知った。

 なんでも箱から飛び出して窓を割った何かは、飛び出した先でお忍びで来ていた貴族の近くをかすめたそうだ。その貴族はかなりくらいが高かったらしく、直撃していたら死刑か国外追放だったと散々脅された。

 校外学習の件もあって何人か護衛が付いていたそうだけれど、それならちょっとした飛来物ぐらい対処してくれれば良かったのに。そんな不満を持って、壁沿いに直立不動で立っている衛兵(カトレア)たちを恨めしく見やる。


 説教が一段落したのを見て、部下の一人が衛兵長に話しかけた。

「衛兵長殿、そろそろお時間です」

「もうそんな時間か」

 どうやらこのあとに何か予定があるみたいだ。ようやく解放されると思ってほっとしていたら、衛兵長が再び僕の方を向いた。


「私は次の予定があるからもう行くが、貴様には反省文を書いてもらう。貴様が迷惑を掛けたあのお方にも見ていただくから、くれぐれも粗相のないよう丁寧な字で書いておくように」

 何処からともなく出てきた作文用紙が僕の前に置かれた。


「カトレア、お前はこいつと知り合いらしいな。反省文が描き終わるまで、こいつを監督しろ」

「承知いたしました!」

 カトレアが威勢よく返事をする。


「書き終わるまで寮には絶対に帰すな」

「承知いたしました!」

 それだと僕が書き終らなかったらカトレアも帰れないことになるけれど、カトレアは躊躇うことなく同じ語句を繰り返した。


 カトレアの返事を聞くと衛兵長は振り返ることなく、部下を連れて部屋から出ていった。


 廊下から足音が聞こえなくなったのを確認すると、カトレアは緊張を解いて姿勢を崩した。

「お疲れさま、長い説教だったな。まあこういう運の悪い日もあるさ」

 カトレアは僕より年上だけど、学園に着いた初日に案内をしてもらってから、休みの日に時間が合えば剣の練習をするぐらいの仲になっていた。


「カトレアが部屋に飛び込んで来たときは驚いたよ。お目こぼししてもらえるんじゃないかと思って、少し期待してたんだけど」

「それはすまなかったな、偶然とはいえ怒らせた相手が悪かった。さすがに上司の前で見逃したら、私の方が首にされてしまうからな」


 この守衛室にも何度か来させてもらったけれど、カトレアの上司《衛兵長》を見たのは初めてだった。どうせお忍びで来た貴族へ尻尾を振りにでも来たんだろう。


 カトレアは少し体を伸ばすと、来客用のソファーに音をたてて座り込んだ。

「疲れただろ? 師匠も座るといい」

 立ったまま反省文を書くわけにもいかないので、カトレアに促されるまま向かいのソファーに座る。


「師匠って呼ぶのは恥ずかしいからやめてっ言ったよね」

 剣の扱いが全くなっていなかったカトレアを模擬選で散々に打ちのめして以来、カトレアは僕を師匠と呼んでくる。年上のカトレアに師匠と呼ばれるのは若干の心地よさがあるけれど、やっぱり恥ずかしい。


「ちょっと失敗した上にがっつり怒られて、半泣きになっても師匠は師匠さ」

 これまで模擬選で叩きのめされたことへの意趣返しだとばかりにカトレアが僕を弄る。確かに、怒られたショックで少し泣いたけど、そう言う弄り方は卑怯だと思う。


「しかし、道で拾った封印石を調べようとしたら爆発して飛んでいったとか、まだまだ師匠も子供だな」

 僕が衛兵長に話した嘘をカトレアも信じているようだ。カトレア達に見つかった際、色々と問題になりそうだったサラーサの箱をメサが上手く隠してくれたので、僕は事実とは違う説明をさせてもらった。拾った封印石の中身を確認するためにラナティア教授の研究室に忍び込んだものの、間違えて開封してしまって事故を起こしたと。


 魔薬を所持してたなんてバレたら、今頃打ち首になっていたかもしれないからメサには感謝してる。ひとつ、気が付いたらメサが説教の対象から外れていたのには文句を言いたいけれど。


 ふと、かなり僕を慕ってくれているカトレアなら、サラーサのことを相談しても良いように思えた。

「カトレア、さっき怒られるようなことをしたばかりで恐縮なんだけれど、ちょっと相談したいことがあって・・・・今話してもいいかな?」


「敬愛する師匠の話ならいくらでも聞こうじゃないか」

カトレアが僕に向ける視線は、尊敬する師匠に向けるものとはまた違うように思えるけど。


「だから、師匠呼びはやめてって」

「まあまあそう言わずに。世の中、弟子より年下のかわいい師匠もいるから」

「嘘だよね? というか、僕をからかってるよね」

幾ら技があっても年下で師匠が務まるんだろうか。


「そうでもないさ。それで私に相談したいことっていうのは?」

「なんか凄くはぐらかされた気がするよ! って、話が進まないから言うけれど、相談っていうのは僕の友人のことなんだけど、その・・・・彼女が何か良くないものに手を出してるみたいで、カトレアってそう言うのを見たら何かわかったりするかな?」


「物にもよるけれど、違法な物なら大体わかるぞ。ついでに、師匠が私の職務を理解していないっていうのも、よーくわかったしな」

 またカトレアの弄りが入る。なんとなく警備員みたいなものだと考えていたけれど、どちらかというと治安の維持を担う憲兵になるみたいだ。違法な物についての知識があって当然だろう。


「えーっと、すみませんでしたカトレアさん」

「まあいいさ。で、その良くないものってのはどこにあるんだ? そう聞くからには何か手に入れたんだろう?」

 中々に話が速くて助かる。


「メサ、見せてあげて」

 部屋の中にいるはずのメサに声をかける。


「汝がそれでいいなら何も言わぬが、こんなどこの馬の骨ともわからぬ者を頼るなぞ我は気が進まぬ」

 そう不満を言いつつもメサが僕の隣に姿を現した。


「おお! これまた随分と高等な魔術を使っていたんだな。全然気が付かなかったぞ」

 突然姿を現したメサにカトレアは無邪気に驚いている。しかし、ここが軍の重要施設でカトレアがそこを守る兵士だってことを考えると色々と不安だ。まあ、上司が殆どいない守衛室なんて休憩所みたいなもので、侵入されても気にするほどのことじゃないのかもしれないけれど。


「この箱の中身なんだけど・・・・」

 メサが机に置いた箱を開くと、色とりどりの封印石が姿を現した。

「これはまた色々と入っているな・・・・」

 カトレアは物珍しそうに箱の中身を見ている。


「この結晶、注入石っていうのかな? についてなんだけれど」

 僕は箱の中からサラーサが使っていたどす黒い結晶を取出して、カトレアに渡した。

「確かに注入石だな。問題になるのは中に入っている魔薬が何かだが・・・」


 カトレアはそう言うと結晶を軽く見回したあと、食い入るようにして何かを確認し始めた。

「製作は・・・・ゴルグレーの首都になっているな、入っている物と用途についても記録がある」


 一通りのチェックを終えたらしく、カトレアは黒い結晶を箱に戻した。

「師匠、とりあえず安心してもらっていい。これは違法な魔薬はないよ」

 その言葉を聞いて喜びで飛び上がりそうになったが、カトレアからまた弄られそうなので自重する。


「その言い方だと注入石の中身は魔薬ってことになるけど、合法な魔薬なんてものがあるの?」

「違法な魔薬には何の記録もされていない事が多いのさ、魔力を調べて効果さえわかれば見る必要がないからな。ダミーの可能性もあるが記録された内容と魔力反応に違和感はないし、こういった特殊な魔薬が開発されたって話を少し前に聞いたことがある」

 最近開発された特殊な魔薬とか、中々に興味深い。


「特殊な魔薬って、いったいどんな効果があるものなの?」

「魔力はそれを蓄える魔術師の体質によって属性が付くんだが、それが炎だった場合は反属性にあたる氷魔術が不得意になるっていうのは知っているよな。この魔薬はその問題を解消することが出来るらしい」


「つまり、炎使いが氷を放ったり、その逆が出来るようになるってこと?」

「いや、正確には魔薬を作った魔術師の体質を使用者に付与して、それに則した魔術が使えるようになるらしい」


「うーん、少し手間だけどとりあえず万能な魔法使いになれるってことでいいのかな?」

「そう上手くも行かなくてな。一応魔薬だから使いすぎると、体質がおかしくなって魔術が使えなくなってしまうそうだ。そもそも、そんな危険を冒してまで一時的に体質に相反する魔術を使う必要はないはずだ。とりあえず持っていて逮捕されるような品物ではないが、一介の学生が持つにしては少し不自然な物にはなるか・・・・」


 ふと脳裏にサラーサの部屋で見た光景が蘇って手が少し震える。魔術が使えなくなるかもしれないような物を、あんな気軽に体へ入れるなんてやっぱり普通じゃない。

 サラーサは何処でそんなものを入手したんだろう? カナミが言っていたように校外学習の時に竜騎士の詰所から持ち出したんだろうか?


「・・・・僕らが外出禁止になってるのって、これが原因だったりするのかな?」

話さないようにって言われているけれどここまで来たら自棄だ、聞いてしまおう。


「外出禁止? ああ竜騎士の詰所がやられた時に居合わせた不運な学生って師匠たちになるのか」

「それを言うなら竜騎士の詰所を襲ったドラゴンに出会った不運な学生だよ。それで、関係はあるの?」

なんだろう、考えたらずっと不運続きな気がする。何かに呪われているんじゃないだろうか?


「あれはこういった物探しじゃなくて、もっとヤバい話だから」

「やばいってどういうこと?」

「それについては説明しにくいんだけどな」

 何か問題があるらしくカトレアが目を逸らす。


 サラーサに関わることかもしれないから、最後まで教えて貰いたい。こうなったら仕方がない、必殺技を使わせてもらおう。

「お願いします! 師匠の頼みだから!」

 机に頭を押し付けて、ひたすらにお願いをする。


 しばらく沈黙した後、ため息とともにカトレアは口を開いた。

「・・・・まったく、師匠がそこまで頼むなら仕方ないな」

「ありがとうカトレア!」

「聞いて楽しい話しじゃないからな」


 そう言うとカトレアは顔色を暗くして話し始めた。

「あの事件、上部の人間は他国からの攻撃があったと考えているのさ。それなりに技量のある兵士が全滅した上に、死体の全てが原形をとどめていない状況になるとね」

「他国から攻撃が!? 一体どこの国がそんなことを?」


「いかにゴルグレーが強大でも、隙をついて攻撃してくるような輩は幾らでもいるさ。問題は校外学習が原因で攻撃されたと考えられていてな、学生の中に手引きしたやつがいたんじゃないかって疑われていることさ」

「学生の中に内通者が?」

 さすがにそんな恐ろしいことをサラーサはしないだろう。


「学生の身元は全員が保証人付きで証明されていて、そんな可能性はほぼないはずなんだがな。今頃、責任を問われた理事長とラナティア教授がゴルグレーの首都に到着してるはずだ」

「そんなことになっていたんだ・・・・」

 あの悪そうな理事長なら適当な学生の一人や二人を生贄にしてやり過ごしそうに思えたけど、そういう訳にもいかなかったらしい。


 話を終えると、カトレアは意識を箱の方に向けた。

「それにしてもこの封印石は見慣れない形をしているな。今の話の流れから察すると、竜騎士の詰所で手に入れたって考えているみたいだが、どちらも竜騎士が使ったり押収した物とは考えられないぞ。かといって市販品でもないだろうし・・・・」

 カトレアは箱からジャガイモ型の封印石を取り出し、不思議そうに眺める。

 サラーサはどこでこの箱を手に入れて、何に使うつもりだったんだろうか?


 メサも横から箱に手を伸ばして、封印石をいくつか取り出した。

「圧縮された気体が入っておるみたいじゃが、何に使うものなのかはさっぱりじゃな」

「手デ握ルニハ、手ゴロナ大キサダト思ウゼ」

「確かにそうじゃな」

 メサはそう答えると、封印石で器用にお手玉を始めた。


「ちょっとやめてよメサ! 僕らがどうしてここに連行されることになったか忘れないでよね!」

 円筒形をした小さな封印石ですら、僕の剣が当たった影響でかなりの勢いで飛んでいったみたいだし、ジャガイモサイズの封印石がここで爆発するようなことになったらたまったものじゃない。変なガスが入っている可能性だってある。


「違法な物ではないし、とりあえずそのサラーサという学生に話を聞いてみるしかないな」

 気は進まないけれど、それが正解に思える。


「今この場に呼び出して事情を聞こうと思うけれど、師匠たちはどうする? 友人を思ってのこととはいえ、盗み出したとなれば顔を合わせるのは気まずいだろう」

 カトレアの中では、この箱は僕らが盗み出したってことに確定したみたいだ。全く持ってしてその通りだけど。ただ、その真実から逃げてカトレアに全て任せるなんてことを僕はしたくない。


「僕が早とちりしてやったことで箱も壊しちゃったし、サラーサには僕からちゃんと謝りたいと思う」

「わかったよ師匠、ならこの私が一肌脱ごうじゃないか。とりあえず理由を伏せて呼び出すから、そのサラーサという学生が部屋に入ってソファーに座るまで、箱と一緒に隠れていてもらってもいいか?」

 カトレアが思いのほか張り切っていて心配だけど、とりあえず任せるしかないだろう。


「わかったよカトレア。メサ、お願いできる?」

「下僕の頼みなら仕方がないのじゃ」

 比較的すんなりとメサは僕のお願いを聞いてくれた。この辺、メサとの関係もどちらが主なのかよく分からないように思える。


 カトレアがサラーサを呼ぶために使い魔を飛ばしてからほんの数刻後、守衛室の扉がノックされた。

「サラーサという学生が来るにしては随分と早いな。上官達は今日はもう戻らないはずだし、見回りの衛兵か?」

 首をかしげるカトレアの様子に、姿を消した僕らも少し身構える。


 再度のノックを受けてカトレアが扉に向かう。

「ああ、開いているから入ってきて良いぞ」

 カトレアの前で扉がゆっくりと開き始めたその時、メサが突然扉の方へと身を乗り出した。

「この匂いは・・・・」

 何かを察したメサがカトレアに向けて魔術を放った次の瞬間、扉が一気に押しひらかれて、刀を持った何者かが部屋に飛び込んで来た。

「くそっ、なんだ貴様は!」

 襲撃犯はローブに付いたフードを深くかぶっていて、顔を伺い見ることが出来ない。


(とまるのじゃ!)

 慌てて飛び出そうとした僕をメサが心の声で拘束した。


 ギリギリで扉を避けたカトレアは、態勢を立て直して腰の剣を抜こうとするが、相手の方が一歩速い。咄嗟にカトレアは魔法障壁を張って刀を受け止めようとするが、

「なっ――――」

 刀はあっさりと障壁を貫通し、カトレアの体を貫いた。


(そんな!!)

(なんてことじゃ・・・・)

(ヤベーゾ)

 襲撃犯が刀を抜くとカトレアはその場に崩れ落ち、見る見る間に血だまりへと沈んでいった。


 襲撃犯は動かなくなったカトレアを踏みつけて部屋の中を一瞥いちべつすると、襲撃犯は部屋から出て行った。

呆気にとられていた僕を置いて、メサがカトレアに駆け寄り声を上げた。

「はよ、治癒魔術を使うのじゃ!」

「僕が? 無理だよ。治癒魔術は得意じゃないし、こんなに出血していたらもう助けられない・・・・」


 こういう時は慌てずに落ち着かなきゃいけない! でもこのままだとカトレアが死んでしまう。何とかしないと! でもどうやって? 傷口は心臓を貫いているし、これはもう・・・・でも、こういう時は。


 思考が堂々巡りをしてどうしたらいいのか分からず、口からはあわあわとしか声がでない。

「ええい、汝まで惑わされてどうする! 我の幻影で致命傷は外せたはずじゃ!」

 そう言ってメサが幻を消すと、深々と心臓を抉っていた傷が消え血だまりが幾分か小さくなった。


「うぅ、でもまだひどい出血だよ。肺を貫いてるみたいだし治療を失敗したらどうなるか・・・・」

「失敗を恐れている場合ではないのじゃ!」

 勝手なことを言ってくれる。こんな状況で治療魔術を失敗したら、カトレアの体力を消耗させて最悪殺すことになりかねない。


「なら、メサがやってよ!」

「無理じゃ、我がやるとこやつをアンデット化させてしまう・・・・」

 メサの顔が苦痛にゆがむ。

「そんな!」

「汝しかおらぬのじゃ」

 メサも泣きそうな顔をして僕に訴えかけてくる。


「ううっ、わかったよ」

 渋々呪文を唱え治癒魔術を使ってみるが・・・・どうやら失敗したらしく出血が止まる様子がない。カトレアの顔色がますます悪くなる。


「ええぃ、ならば焼いて傷口をふさげ!」

「それなら!」

 僕はすぐさま小さな雷球を作りだし、慎重にカトレアの傷口を撫でた。

 嫌な音と臭いがして一瞬カトレアの体が跳ねるも、メサが抑えて事なきを得る。


 とりあえず出血は止まったけれど、カトレアが呼吸をするたびにゴボゴボと変な音がしている。

「急いでまともな治癒をせぬと不味いのじゃ」

「僕がカトレアを担ぐから、メサは姿を消す魔術をお願い!」


 カトレアの命を救うためには一刻の猶予もない。急いで医務室に向かおうとしたその時、

「きゃぁああああああ!!」

 扉の向こうで悲鳴が響き渡った。


 この悲鳴は―――――サラーサの悲鳴だ!


 すぐさま剣を取って駆け出そうとする僕に、メサがはーちゃんを投げてよこした。

「ああもう、どうせ止めても後悔するだけじゃ。全力で支援してやるから事を終えたら速攻で逃げるのじゃぞ!」


「ごめんメサ、サラーサを助けたらすぐに救援を読んでくるから!」

「ドラゴンスラ倒シタ俺ラナラ、ドンナ奴モ即殺ダゼ」

はーちゃんを被りつつ、僕は守衛室の扉から飛び出した。


 部屋の外には血の臭いが立ち込め、血だまりに沈んだ衛兵の死体が幾つも転がっていた。

 ただ無心に廊下を走って角をいくつか曲がると、建物の入り口にあたるホールへとすぐにたどり着いた。


 人影が見える。血にまみれた襲撃犯が、同じようにフードを被ったサラーサに刀を突き付けている。


 キィン!

 甲高い音が響く。


 間一髪でサラーサの心臓目掛けて突きだされた刀を僕は受け止めることができた。


「エリル!」

 サラーサの声が響く。


 間に合った! そんな思いとは裏腹に重い真実がのしかかる。

 カトレアの魔法障壁をいとも簡単に貫いたことから、この刀がセルバウルの特殊金属で作られたものじゃないかとは疑っていた。ただ、それだけなら魔術国で作られた模造品の可能性もあった。しかし、こうやって僕の剣で受け止めても折れないってことは、この刀はセルバウルで正しく作られた鋼鉄製の刀だってことになる。つまり、この刀はセルバウルから流出したか、国の誰かが裏で・・・・


 そんな思案は、襲撃犯の顔を見た途端に消し飛んでしまった。


 ここまでに見た無数の死体。致命傷を負って今にも死んでしまうかもしれないカトレア。僕が間に入らなければサラーサも殺されていただろう。


 只々、学ぶためだけにあるはずの学園で起こされた凶行に、


「どうして・・・・どうしてこんなことをするんだよ!」


 そして、到底受け入れがたい事実に、

 僕はただひたすら声を張り上げて叫ぶ。


「答えてよ――――――――カナミ!!」

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