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43話 魔薬

誤字報告をいただき、大変助かりました。

ありがとうございます。

「面白そうな話じゃな」

 部屋に帰ってカナミから聞いた話をメサにすると、目を輝かせて喰いついてきた。


「面白くなんかないよ!」

 様子を探る良い方法がないかと思ったけれど、どうやら相談する相手を間違えてしまったみたいだ。

「アーア、ドウナッテモ俺ハシラネーカラナ」

 メサの頭の上で、はーちゃんが投げやりなことを言う。


「今なら留守のようじゃし、部屋を確認してみようではないか」

 そう言うとメサは止める間もなく部屋から飛び出していった。

「ちょっと待ってよ!」

 慌てて後を追いかけたが、メサは即行でサラーサの部屋の扉を開けて中に入ってしまった。魔術錠の防犯性能って低すぎじゃないだろうか。


 僕はしかたなく閉まりかけた扉を押し開けてサラーサの部屋に入り、今にも物色を始めようとするメサを羽交い絞めにした。

「やめってって!」

「どうしてじゃ? 名を上げるいい機会じゃというのに」


「人の部屋に勝手に入る行為のどこに名声を得る要素があるっていうのさ! それに、友達を犠牲にするようなことは嫌だって言ったでしょ」

「必要な犠牲というのもあるのじゃ。案外そやつも見つけてもらうことを望んでいるかもしれぬぞ?」

 そう言いつつメサは辺りを見渡す。


「もしそうだとしても、もう少しマナーってものがあると思うよ!」 

 物色する気満々のメサを強く締め上げてみるが、全く意に介する様子はない。そう言えば魔術師は痛覚をOFFにすることも出来るって聞いた気がする。


 これ以上は怪我をさせてしまいそうだったので少し手を緩めると、メサは部屋の奥に置かれた箱を指さした。

「あの箱が怪しいのじゃ」

 細部まで丁寧な金細工が施された大きめの宝石箱だ。前に部屋に入ったときにはなかった気がする。


 かなり豪華な見た目をした宝石箱は、質素な物の多い部屋の中で異色を放っている。と、メサは僕の腕を振りほどいて、箱に駆け寄った。

「ここまで来たのじゃ、せめて中を確認しようぞ」

「やめてって言ってるよね! 本気で怒るよ」

 僕が声を荒げてもメサが動きを止める様子はない。これは修復槽送りもやむなし。そう心を決めた時、メサは伸ばしていた手を止めて顔をしかめた。


「うぬ? これは難解な・・・・」

「ほら、サラーサが帰ってくる前に部屋から出るよ!」

 何かに困惑して動きを止めたメサを捕まえ部屋から引きずり出そうとすると、メサが問いかけてきた。


「汝、これの開け方が分かるか?」

「だから、そういうことはしないって! それに僕に魔道具のことが分かるわけが・・・・って、あれ?」

 少し気になって箱を見ると、不可解な穴が開いていることに気が付いた。


「この宝石箱、鍵穴が付いてる!?」

 形としての鍵はセルバウルの技術で、魔術師の国にはないはずだ。ヴィルミア達の交易所で買った物のように思えるけど、無駄に金細工が施された悪趣味な箱は魔術師の道具にしか見えない。一体どこで作られたものなんだろう?


 物思いにふけっていると、突然メサが僕の口を塞いで部屋の隅に押しやった。

「!?」

「インビジブル!」

 僕が抗議する間もなく、はーちゃんが魔術を使って僕らの姿を消す。と、間髪入れず扉が開いてサラーサが入ってきた。

 次の時間もAランクは必修だったはずだけど、合間の休憩時間に帰ってきてしまったみたいだ。


「今日も散々だわ、早く補充しないと・・・・」

 顔色の悪いサラーサは不穏な言葉を口にしつつ、僕らの前を早足で通り過ぎた。


 僕らが息をひそめて見守っていると、サラーサは懐から鍵を取出して例の宝石箱を開いた。

 箱の中には様々な色をした水晶のようなものが詰まっている。

(メサ、あれって何?)

(封印石のようじゃが・・・・)


 何をするのかと思っていると、サラーサは箱からドス黒い色をした水晶を取り出し、次の瞬間尖った水晶の先端を勢いよく左腕に突き刺した。


「っ!?」

 辺りに鮮血が散り、あまりのことについ声が漏れそうになった。


 水晶が刺さった箇所から血が流れ出るのをサラーサは気にする様子もない。時間が経つと腕に刺した水晶はだんだんと色が薄くなっていった。


「全く、嫌になるわ。早く次の講義に行かないと」

 少し顔色のよくなったサラーサは透明になった水晶を腕から引き抜くと、魔術で腕の傷を治して部屋から出ていってしまった。


「サラーサ、どうして・・・・」

 ショックで言葉が続かない。


 メサが慰めるように僕の背に触れる。

「汝よ、そう泣くでない」

 メサに言われて自分が泣いていることに気が付いた。崖から落ちたと思った時もかなりのショックだったが今回はそれ以上で、サラーサが魔薬に手を出さないといけないほど追いつめられていたことに、今まで気が付けなかったのが悔しく悲しかった。


「汝、あれが魔薬じゃと決めつけるのはまだ早計ぞ」

「じゃあ何だっていうの? 今のはどう考えたって普通じゃないよ」

 床に残った無数の血痕がまざまざと異常さを伝えてくる。


「まだ合法な薬の可能性もあるのじゃ。アマリアの所は嫌じゃから・・・・ラナティアの研究室に行って確認するのじゃ」

 ラナティア教授の研究室にはギルドとも連携した強力な鑑定魔法陣がある。冒険者としては色々とアウトだったらしいけれど、分析や鑑定といった技術に関しては今でも随一の魔術師なんだとか。


「あんな怪しい薬、理由を説明しなくても鑑定してもらえるかな」

 もし合法だったとしても、あんな薬をサラーサが使っているなんて、できれば誰にも知ってほしくない。


「わざわざ許可を取らずとも、あの魔法陣なら汝でも十分に使えるのじゃ」

「それならまあ行ってみようか」

 鑑定したところで・・・・とも思うけれど、わずかな可能性にもすがりたかった。


 とりあえずメサに宝石箱を開けて貰おうとしたが時間がかかるらしく、箱ごと鑑定魔法陣のあるラナティア教授の研究室まで持って行くことにした。


「箱から何かが出てくるやもしれぬ。汝の剣を持っていくのじゃ」

「わかったよ」

 魔物化して襲ってくる宝箱とかも聞いたこともあるし、少し用心をした方が良いだろう。


 箱を持って一旦僕の部屋に戻り、剣を携えてからラナティア教授の研究室へと向かった。

 剣を持つとメサの魔術で姿を隠せなくなってしまったが、講義の最中だったこともあって特に誰にも会うことなく目的地に辿り着けた。運よくラナティア教授も部屋にいないようだ。


 なんとなく道すがら拾った木片を削ってサラーサの持っていた鍵と同じ形のものを作って、宝石箱の鍵穴に挿し込んでみたが全く手ごたえはなかった。鍵穴はあるけど中に仕掛けは入っていないみたいだ。

「やっぱり魔道具だね。で、そろそろ開けられそう?」


 メサは部屋に着いてからずっと箱を見つめて考え込んでいたが・・・・

「これは無理じゃな」

 魔術を使うことなく諦めてしまった。

「そんなに複雑なの? 理事長の結界とかもあっさり解除していたのに」


「あれはある程度作りを知っておったからじゃ。この箱は学園製ではないようじゃし、中に入っている物にも封印のたぐいがかけてあって下手に解除すると何が起こるかわからん」

 メサのせいで魔術式の鍵が全く信用できなくなっていたが、そう言う仕掛けがあったんだと納得した。まあ、鍵の信頼性は回復してないけど。


「サラーサから箱の鍵を借りる訳にもいかないし・・・・どうしよう?」

「なに、こういう時のために剣を持ってくるよう言ったのじゃ」

 初耳だ。


「箱から何か出て来た時の用心だって言ってた気がするけど」

「それも含めてじゃ」

「本当に? 行き当たりばったりはやめてよね」


 とりあえず剣を鞘から抜き放ち、斬りつける角度を考える。

「上手く切れるかな・・・・」


 魔道具にはあまり固い素材は使われていない。なぜなら魔力を込めると木片ですら鋼のように固くなるからだ。よく使われる金属も魔力を溜めこみやすい純金で、魔力を無効化するセルバウルの鋼鉄で出来た剣なら余裕だろう。


「汝は何をする気じゃ! 箱を丸々両断するなどと言った覚えはないぞ」

「え? だって剣で開けるって」

 メサが頭を抱える。

「そんなことをしたら中に入っている物も真っ二つになって、本末転倒じゃ」

 ちょっと早とちりしてしまったみたいだ。


「あはは、確かにそうだね。なら隙間に剣を挿し込んでこじ開ける感じ? 剣が歪みそうで嫌だけど・・・・」

 職人に知られたら二度と剣を作ってもらえなくなりそうだ。


「そんな力任せなことはせぬ。錠前のカンヌキ部分を汝の剣で切るのじゃ。魔力で強化されておるが所詮金細工、汝の剣ならなら容易く切断できるはずじゃ」

「なるほど」

 それなら剣を痛めることもなさそうだ。


 僕は箱のフタを少し持ち上げて、僅かに開いた隙間に剣先を挿し込んだ。そのまま剣を押し込んでカンヌキを切ろうとしてみたが、箱が剣と一緒に移動してしまい上手く切ることが出来ない。


「メサ、ちょっと押さえててもらえる?」

 僕のお願いに、なぜかメサは恐る恐る宝石箱に近づく。


「何か嫌な予感がするのじゃ」「ソレナ」

「メサの案でしょ、文句言わずに早く!」

 僕が急かすとメサは渋々箱を後ろから押さえた。確かに、この状態で力任せに剣を突きこんだら、メサは箱ごと串刺しになるかもしれない。だけどさすがにそこまで僕は馬鹿じゃない。


 そっと力を込めて剣を慎重に押し込む。ぬるっとした感覚と共に剣先が進み、やがて抵抗が無くなった。

 これぐらいでいいだろうか? そう思った次の瞬間、軽い炸裂音と共に勢いよく箱のフタが開き、飛び出した何かが窓を突き破って大きな音をたてた。


ガチャ―――ン!!


「わっ!」「ホラナ!!」


 見ると箱の後ろにいたメサはフタに顔を強打されてひっくり返っていた。

「メサ! 大丈夫!?」

 慌ててメサを抱え起こす。


「やっぱりなのじゃ・・・・」

 フタの当たった部分が赤くなっているが、他に怪我はなさそうだ。

「不可抗力だよ。とりあえず何が飛び出したのか確認しよう」


 そう言って割れた窓の外を確認しようとした時、

 バン!!

 大きな音をたてて部屋の扉が開かれた。


 「お前たち何をやっている!!」

 数人の衛兵を引き連れたカトレアが怖い顔をして怒鳴り込んできた。


 「えっと、これはちょっとした事故があって・・・・」

 怒ってくるとしたらラナティア教授か白の会だと思っていたけど、衛兵のカトレア逹が来たのは予想外だった。


「話は後回しだ。おまえたち、とりあえず守衛室まで来てもらうぞ!」

 何が起こったのか理解できないまま、僕らは連行されることになった。

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