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42話 疑惑

 外出が禁止されてから2週間ほどたったある日、


「サラーサの様子がおかしい?」

 カナミが普段は見ない深刻な顔をして話を切り出してきた。


「サラーサの奴、ここ最近付き合いが悪いだろ?」

 この数日、サラーサは僕たちとの付き合いも程々に部屋に引きこもりがちだった。

「確かにそうだけど、この前は講義について行くのが大変で疲れてるって言ってたよ。そういうことじゃなくて?」

 講義についても必修じゃない科目を欠席していたりしてる。


「2週間もだぜ? 試験なんて当分先だし、Aランクの講義でそこまで疲れるようなことはしてねーだろ」

「校外学習のこともあるし、きっと本調子じゃないんだよ」

 僕としてはサラーサよりもカナミの方が外出禁止で暇を持て余して、何かしでかすんじゃないかと不安だったけど。


「まあ俺もそう思ってんだけどな。この前驚かせてやろうと思って、部屋を覗いてたらヤバイのを見ちまったんだよ」


「ちょっと待って、部屋を覗いたって、どうやって!?」

「いや、こうロープを体にくくり付けて窓の外に出て、下のあいつ(サラーサ)の部屋まで・・・・って、それはいいんだよ」

 そんな早々に僕の不安を回収しないでほしい。


「良くないよ! 危ないし、そもそも覗きなんて校則違反だよ!」

 こういう悪戯をするときカナミは無駄にアグレッシブだけど、越えたらいけない一線ってあると思う。


「だから驚かせるだけで、覗き見するつもりはなかったんだって! あんな場面じゃなきゃ」

「驚かせずに終わったのなら、それはただの覗きだよ! 一体何を見たっていうのさ」

 大抵の事は気にしないカナミが躊躇(ちゅうちょ)するとか、何があったんだろうか?


 カナミは少し周囲を伺って、声のトーンを下げる。

「エリルは注入石って知ってるか?」

 聞いたことのない単語だ。名前的に注射器みたいなものだろうか? 


「知らないけど、聞いた感じだと体に薬を入れる道具? 薬が必要なほどサーラサの体調が悪いようなら、かなり心配だけど・・・・」

 そういえば兄上から、戦場ではどんなに疲れていても注射器を使って投与すれば元気になる薬が流行ってるって話を聞いた気がする。


「エリルってさといようで全く抜けてるよな。俺ら魔術師は魔力さえあれば体調の方はなんとかなるのが常識だぜ? 魔力のこもったポーションこそ飲むけど、体に薬を入れるなんて普通はやらねーよ」

 僕が知らないからとカナミが少し調子に乗る。けど、覗き見の件といい往々にしてカナミの常識も怪しいわけで、その辺りを指摘してやりたかったけど今はサーラサの話が先だ。


「じゃあサラーサは何を?」

「注入石っていったら魔薬だぜ。魔薬ぐらいは知ってるよな?」


「魔薬は知ってるよ。特殊な魔術で作られた薬で、大半は体に害があるから規制されてるって聞いたけど・・・・」

 中毒性が高い上に体に変異を起こす可能性が高いらしい。


「注入石はその魔薬を体に入れるための道具だ」


「・・・・それとサラーサに何の関係が?」

 カナミが何を言おうとしているのか分かってきたが、感情が理解を阻む。


「窓越しで一瞬だったから俺の見間違いかもしれないけど、それ(注入石)っぽいものをあいつ(サラーサ)が使ってたんだ」

 カナミの発言に耳を疑う。あの真面目なサラーサが魔薬を?


「見間違いだよ。確かにここのところ付き合いが悪いけど、サラーサに限ってそんな非合法な物に手を出すはずがないよ。そもそも、そんな薬をどこから手に入れるっていうのさ、この2週間は学園の外に出かけられてないっていうのに」

 まあ、学園内も探せばそれなりに非合法なものが出てくる気はするけれど。


「校外学習の準備で買った可能性は・・・・低いだろうな。ゴルグレーは魔薬の規制が一番厳しいし、これだけ平和なら体を壊す魔薬なんて流行らねーだろうから」

「ほら、一介の学生が魔薬なんて入手するのは無理だよ」


 この前、会って話をした分には特に違和感はなかったし、きっとカナミの早とちりだろう。そう判断して話を終わらせようとしたけれど、カナミはまだ証拠があると迫ってきた。

「でもな、ひとつ魔薬が手に入りそうなことがあったんだよ」

「どんなことさ?」


「校外学習でサラーサが背負ってたリュック、覚えてるか?」

「覚えてるよ。すごく大きくて、みんなの気を引きまくってたし」

 無事だったからよかったけど、魔猪に咥えられて連れ去られていった光景は、その後にあったことのせいでちょっとしたトラウマだ。


「あのリュック、崖下に落ちた魔猪と一緒にあったんだぜ」

「えっ? でもドラゴンに襲われた時、サラーサはリュックを背負ってたよ?」

 中身が減って形がつぶれていたけれど、同じリュックだったはずだ。


「俺も気になってさ、帰りの馬車で聞いてみたわけよ」

「サラーサは何て?」


「なんでも、リュックを引き裂いて魔猪から脱出したとかで、リュックの大半はそのまま魔猪に持って行かれたんだと。で、取りあえず散らばった荷物を集めていたら、運よく使い魔が通りがかって・・・・」


「その話なら僕も聞いたよ。リュックの話はなかったけど、偶然通りかかった使い魔に道を教えて貰って詰所まで行ったんだよね。ただ、詰所の外に人が見当たらなくて、しかたなく建物の中に入って待とうとしたらドラゴンが暴れだしたって」

 燃え盛る建物から意を決して逃げだしたものの、見つかっての僕らに出会うところまで追いかけられたと。


「その建物から逃げ出すときに、抱えてた荷物をその辺にあったリュックに放り込んで持って来たんだと。怪しいと思わないか?」

「そこまで怪しいとは思わないけど? カナミに話したなら、事情聴取でも話してるだろうし・・・」

 ドラゴンに襲われた際にサラーサが持っていた耐火マントも詰所から持ち出したもののはずだ。何か問題があったなら、アマリア学長が確認しているだろう。


「何も入ってないリュックがその辺に置いてあるか? 実は押収された魔薬の入ったリュックを持ち出したんじゃないか?」

「カナミは変な小説の読み過ぎだよ。もしそんなものが入ってたら申告するだろうし、サーラサがそう簡単に怪しい薬へ手を出すはずがないよ」

 速攻で事件の起こる探偵小説じゃないんだから・・・・


「俺もそう思うけどな。でも万が一って可能性もあるだろ? エリルの方からも探りを入れてみてくれよ、隣の部屋なんだしちょっと部屋に押し入ったりしてさ」

「やだよそんな犯罪みたいなこと」

「じゃあどうするんだよ、面と向かって聞くか? 俺は嫌だぜ」

 喧嘩はすぐ売るのに、どうしてそう言ったところに限って慎重なんだろうか?

 そもそも、押し入らなくても部屋で勉強したいって言えば引き込まれる気がする。


 まあ、サラーサの様子が心配なのは変わりない。

「わかったよ、とりあえず不審な点がないか様子を見てみるよ」

「頼んだぞ! もしヤバそうだったらアマリア学長に相談しような」

 そう言ってカナミは別の講義に行ってしまった。

なんとなくカナミに担がれている気がするのは気のせいだろうか・・・・

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