41話 無敵の支援魔法
「下僕よ、大活躍じゃったな! 我は鼻が高いぞ」
僕が学園に戻って理事長の研究室へ行くと、メサが元気に出迎えてくれた。
顔に酷い火傷を負っていたはずだけど、跡すら残っていない。
「よかった・・・・全く、メサが倒れた時はどうなるかと思ったよ!」
「あの程度なら何も問題はないのじゃ」
メサはしれっとしているけれど、あの程度で済む怪我じゃなかったと思う。
「メサに関しては死体にならない限り修復槽で回復することが可能です」
隣にいたアマリア学長が話しかけてきた。
死体じゃなければ回復できるとか凄い装置だ。他の人にも使えたらいいのに・・・そう考えて、何気なく浮かんだ疑問を聞いてみる。
「アマリア学長、メサって実は精巧にできた人形だったりします?」
修復槽は人形を修復するための装置だったはずだ。
メサには体温もあるし、心臓の鼓動も聞こえてるけれど・・・・アマリア学長を見ていると可能性は十分あるように思える。
「機密に触れる事柄です」
調査資料とかくれたのに、直接聞くと相変わらず何も教えてくれない。
「そのような眉唾物と我を一緒にするでないぞ!」
メサも心外だと言わんばかりに文句を言ってきた。どういう意味だろうか?
と、アマリア学長はメサの方を向いて言葉を続ける。
「しかし、今回は幸運だったと考えるべきです。忠告しておきます、もしドラゴンの血が解毒できていなかったり、もう少し搬送が遅れていたら死亡していた可能性があったと」
やっぱり回復できるのにも限度はあるみたいだ。
こんな危険なことはやめさせるべきだろう。
僕もメサに向かって話を切り出す。
「あの怪我って僕がメサと交わしたこの契約が原因だよね」
僕は右手にうっすらと見える刻印をメサに突き付ける。
「いかにも英雄を造らんとする我が契約の恩恵ぞ、契約した者が受けたありとあらゆるダメージを我が身代わりとなって無効化する無敵の支援魔法じゃ!」
誤魔化されるかと思ったけれど、メサは胸を張って答えてくれた。
「なら、今すぐ契約を解除して」
単刀直入に伝える。僕はメサを犠牲にしてまで学園に居たいとは思わない。
メサは一瞬、悲しげな顔をしたが、
「嫌じゃ」
そう言うと、いつもの調子で言葉を重ねた。
「契約の効果で、汝は我が滅さぬ限り不死身ぞ。それになんの問題があると言うのじゃ?」
何故か得意げな顔をして、その赤い目で僕を見上げる。
「問題があり過ぎるよ! 今回、僕は危うくメサを殺しかけたんだよ!?」
知っていたらドラゴンに突っ込むような無茶はしなかった。
「汝が我を攻撃したわけではあるまい」
「似たようなものだよ、僕が受けた攻撃を代わりに受けるなんて!」
僕の反論を受けてメサが怪しい笑みを浮かべる。
「じゃて、我が身代わりにならなければ今頃どうなっていたと思うてか?」
「それは・・・僕がドラゴンの毒と炎を受けて学園で治療を・・・・」
「否じゃ。もし汝が炎を浴びていたらドラゴンを攻撃できていたかも怪しいのじゃ。たとえ何とかドラゴンを倒せたとしても、汝を修復槽で治療することはできぬ。つまり、我と契約を結んでいなければ今頃死ぬか、顔に一生残る傷を負っていたのじゃ。五体満足でいられたことを感謝するがいい」
「うぅ・・・」
確かにその通りだろう。だからと言って、一方的にメサに犠牲を強いる状況を受け入れることは僕には出来ない。
「契約の効果を緩めたりできない? このままだと僕の代わりにメサが怪我をするんだよ?」
「効果を緩める? また不可解な事を。汝の代わりに怪我をしたとて、見ての通り傷一つ残っておらぬのじゃ。汝が心配するような問題は何もないし、もし我が傷つくのが嫌なら汝が怪我をしなければいいだけの話じゃ」
「それは、そうだけど・・・・」
僕だってそう簡単に怪我をするつもりはない。けれど、今回みたいなことがまた起こるかもしれない。
「この話はこれで終いじゃ。契約の主は我じゃ、汝には拒否権などありはせぬ。よって悩む必要などない」
メサの瞳が怪しく輝く。途端に思い悩んでいた何かが消えて行った。
「・・・わかったよ。でも、今後は絶対あんな危ないことはしないから」
これ以上言い争う気も起きず、僕は仕方なく納得することにした。
その後アマリア学長から聞いた話によると、山頂の詰所に勤めていた兵士は全員の死亡が確認されたそうだ。なんでもほとんどの死体が原型をとどめていない酷い状況だったらしい。
ドラゴンと火事が原因なんだと思うけれど、なんでそんなことになったんだろうか。学生にメサ以外の重傷者が出なかったのがせめてもの救いだろう。
翌日、校外学習の事件はドラゴンが偶然逆鱗に傷を負って起こった不慮の事故だったと発表された。
表向きは。
裏では何か問題があったらしく、僕らを含む校外学習に参加していた学生は急遽呼び出され、事件について話すことと学外に出かけることを禁止された。