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40話 明らかになる事実

「大丈夫メサ!?」

 慌てて倒れたメサを抱き起し、

「えっ・・・」

 その顔を見て僕は絶句した。


 メサの顔はその大半が酷いやけどに覆われ、所々が青紫色に変色している。いつの間にか右手も青紫色に変色しているし、抱きかかえたところから血が染みだして服を赤く染めはじめた。メサの身にいったい何が・・・・


「大変!!」

 近くにいたラナティア教授が駆け寄ってきて治癒魔術を使うが、一向に回復する様子がない。

「これは・・・・ドラゴンの毒? どうしてこの子に血の影響が!?」

 教授が頭を抱える。


「ラナティア教授、ドラゴンの毒って、一体どうなってるんですか!?」

 メサの体が燃えるように熱い、呼吸も浅く今にも死んでしまいそうだ。

「ドラゴンの血に含まれる毒が回復を阻害しています。どうしてこうなったか分からないけれど、早く解毒剤を使わないと手遅れになります」

 ラナティア教授は顔を上げ、そのほとんどが焼け落ちてしまった詰所の方を見て険しい顔をする。解毒剤が残ってる可能性は絶望的だろう。


 ドラゴンとの戦いでメサは離れた場所にいたから、炎や血に晒されることはなかったはずなのに。

「メサ、一体何をしたの・・・・」

 メサから返事はない。

 右手は特にひどく変色しているけれど、手の内側は何かを強く握っていたのかあまり色が変わっていない。持ち方的に杖よりも大きな柄のような・・・・と、僕は自分の右手を見てある可能性に思い至った。

「はーちゃん、もしかしてメサの契約って――――」

 頭に被っていたはーちゃんに話を聞こうとしたとき、大きな羽音を響かせて空から新たなドラゴンが降りてきた。

「そんな! ドラゴンがもう一匹来るなんて!!」

 僕は慌ててメサをラナティア教授に預けると、投げ捨てた剣に駆け寄って拾い上げた。

 このメサの命が危ない時に、もう一回ドラゴンの相手をしないといけないなんて!


 先輩たちが警戒して身構える中、どうするか聞くためにラナティア教授の方を見ると、教授はメサを抱えたまま無防備にドラゴンを見上げていた。

「ラナティア教授! 見惚れてないで正気に戻ってください!!!」

「えっ? 正気に戻る!?!?」

 僕の叫びに何故かラナティア教授が困惑する。


「えっと、みなさん、あのドラゴンは大丈夫です。竜騎士が操る正常なドラゴンですから!」

 ラナティア教授に言われてドラゴンをよく見ると、その背には鞍や重そうな投槍が装着され、数人の魔術師が乗っていた。


 手綱を握っていた巨漢の男が軽やかに飛び上がって、僕らの前に降り立った。

「無事か? ここの詰所からドラゴンが暴れだして手が付けられないと連絡を受け、助けに来たんだがどうなっている?」

 男の問いかけにラナティア教授がすぐさま答える。

「詰所の状況は分かりませんが、暴れていたドラゴンは殺しました。全身に火傷とドラゴンの毒を受けた学生がいるので、急ぎ解毒と学園への搬送をお願いします」

「学生に負傷者が? 承知した」

 そう言うと男は懐から薬瓶を取出し、一部をメサの体に振りかけて残りを吞ませた。

 心なしか変色した箇所が薄くなったように見える。


「おまえたち、詰所に生き残りがいないか見てこい。私はこの学生を学園に送り届けてくる」

 男が指示を出すと、ドラゴンの背に乗っていた魔術師達は一瞬で燃える詰所の方へと走り去っていった。

「あとの処理は部下が行うので、先生方はこのまま学園にご帰還ください。もし、何かあれば部下に言ってください」

 そう告げると男はメサを片手で抱え上げ、ドラゴンに飛び乗るとあっというまに飛んで行ってしまった。

 学園まで行けば修復槽もあるしアマリア学長が何とかしてくれるだろう。


 飛び立ったドラゴンの姿が見えなくなった頃、後ろから声をかけられた。

「奴がやったのか?」

 スオン先輩だ。


「やったって何を?」

「しらばっくれるな、ドラゴンの事だ。奴ならドラゴンを操ることもできただろう」

「どうしてそんなことをする必要が? そもそもメサは動物と少し話ができる程度で、操るような力はないはずです」

(契約ヲ交ワサナイ限リハナ)

 はーちゃんが僕にしか聞こえない声で怪しいことを囁く。せっかくメサを擁護しているんだから変なことを言わないで欲しい。


「信じられるものか、徒党を組んだ魔猪の襲撃といいおかしなことばかりだ。お前にドラゴンを倒させるために何か仕組んだんじゃないか?」

「僕がドラゴンを倒したところで、メサには何の恩恵もないはずです」

 確かにメサの目的は英雄を造ることらしいけれど、ドラゴンを一匹倒した程度で英雄に成れるなんてメサだって考えていないはずだ。


「そうか? ドラゴンの素材でも必要としていたんじゃないか?」

「もしドラゴンを操れるなら、こんな大ごとにする必要はないと思います」

「そ、そうだな・・・・」

 言いがかりも甚だしい。


「ここに来るまで僕とメサはずっと一緒で、魔猪やドラゴンに何かをする暇なんてありませんでした。それにメサは、おそらくドラゴンの炎や血から僕を守って瀕死の大怪我をしています。わざわざそんな事をして、メサに一体なんの得があるっていうんですか!!」

「奴がお前を守って瀕死の大怪我を? どうせ黒魔術を使った目くらましで、この場から体よく逃げ出したんだろ」

「いまだに僕の手や服を濡らしてる血が、黒魔術による幻だっていうんですか?」

(幻ハ俺様ノ担当分野ダゼ)

 次にはーちゃんが余計なことを言ったらここに捨てていこう。


 僕の服に着いた血をマジマジと見てスオン先輩は声のトーンを落とす。

「確かに本物の血のようだが・・・・」

「そもそもラナティア教授や竜騎士の人が確認したことです。幻であの人たちを欺けるって言うんですか?」

「くっ、それはそうだが」

 反論できずにスオン先輩が口ごもる。


「何にせよ、メサは人を謀ったり傷つけるような子じゃありません。先輩だってアレを見ればわかるはずです」

「アレとはなんだ?」

 ついムキになって行ってしまったが、メサに隠れ家のことは話すなって言われてしまっていた。

「アレっていうのは・・・・」

 僕は何としてでも教えたいのに、何故か言葉が出てこない。


(シカタネーナ、無茶ヲサセタ詫ビダ。隠レ家ノ事ヲシャベッテモイイゾ)

 はーちゃんがそう囁いた途端、僕の口を塞いでいた重しが消えた。

「スオン先輩、山にあるメサの隠れ家には、過去の事件で亡くなった使い魔全ての姿を模した鎮魂像があるんです」

「なに?」

 スオン先輩の顔色が変わる。


「すごく精巧に作ってあって、全ての像に飼い主の付けた名前が掘ってありました」

「そんな戯言を!」

 怒ったのか先輩は声を荒らげる。

「本当の事です。場所を教えるので、フィーア会長とか事件で使い魔を失った人逹を連れて見に行ってください。メサの思いが分かりますから!」


 少し思案したあとスオン先輩が口を開いた。

「・・・・わかった、そこまで言うのなら会長逹に伝えてやる」

「ありがとうございます」

「礼を言われる筋合いはない。それに理事長との取り決めもあって見に行ける保証はないからな」

 そう言えば白の会はメサと接触を禁止されていた。せっかく和解できるチャンスなのに何とかならないものだろうか・・・・

 とりあえず隠れ家への行き方を教えると、スオン先輩は去って行った。


 僕も早く学園に帰って、メサに契約の効果について問いたださないといけない。

 消火の終わった詰所を遠目に見つつ、僕は山を後にした。

魔猪と書いてマッチョと読みます。

徒党を組んだ魔猪マッチョの襲撃とか恐ろしい・・・

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