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37話 ドラゴンの襲来(1)

 火の手が上がる建物に向かって、僕は一目散に森を駆け抜けた。

 やがて、燃え上がる炎の熱が感じられるぐらいまで近寄ったところで、木々の間を縫うように移動する人影が見えた。


 サラーサだ!


 必死の形相で僕の方へ向かってくる。

「サラーサ!」

「エリル? なんでこんなところに!?」

 僕が声をかけるとサラーサは少し驚いた様子で立ち止まった。


「ようやく会えた! 魔猪の後を追ってきたんだよ!!」

 サラーサは取りあえず動けるみたいだけれど、服は焼け焦げ所々から血が滴っている。

 こんな状況にも関わらずリュックを背負ったままなのは、流石というべきだろうか。


 サラーサと出会えてほっとしたその時、その背後にあった木々が薙ぎ倒され、薄緑色をした怪物が姿を現した。

「あれがドラゴン・・・」

 前に戦った蜥蜴の倍以上あるだろうか?

 

「竜騎兵の詰所で暴れてたやつよ! どうしてか私を狙ってるみたい」

 ドラゴンはサラーサに向かって真っすぐ突き進んでくる。

「なっ!? サラーサ! 早くこっちへ!」

 僕は剣を構える。ここまで走ってきて少し息が切れているが、まだ十分に戦える。あの巨体にこの剣がどれほど通用するのかわからないが。


 と、顔を上げたドラゴンが大きく息を吸い込んだ。

「やばいサラーサ! ドラゴンが炎を吐くよ!」

「エリル! 私に構わず逃げて!!」

 サラーサはそう言うと、持っていた厚手の布をかぶって地面の窪みに伏せた。


 恐らくラナティア教授の言っていた耐火マントだろう。しかし、あの程度じゃとてもじゃないけどドラゴンの炎を防げそうにはない。


 僕はサラーサを助けるために駆け寄ろうとしたが・・・

「ストーンウォール!!」

 メサの声とともに石壁が突き出して、僕の前を塞いだ。


「メサ! 邪魔しないで!!」

 振り返ってメサに抗議したその時、辺りを炎が覆い尽くした。

「ああっ!!」

 火に炙られた木々が炎上する。


 石壁のおかげで僕とメサは炎を避けられたが、遮蔽物のない場所にいたサラーサは直撃を受けたに違いない。慌てて石壁の陰から出てサラーサが伏せた辺りを確認すると、耐火マントは多少焦げ目が増えたが焼け残っていた。


「サラーサ!! 無事!?」

 僕が声をかけると、耐火マントが持ち上がり――――両手をを凍りつかせたサラーサが立ち上がった。

 耐火マントの裏側を魔術で凍らせて炎を耐えたみたいだ。


「無事よ! 魔術を使ってドラゴンから逃げるから私の腕に掴まって!」

 そう言うとサラーサは僕の返事を待たず魔術を詠唱し始めた。


「アイスブレス!」

 魔術の詠唱が終わるとサラーサの吐息が白く輝き、息を吹きかけた地面が一瞬にして凍りついた。

「なかなかの魔術じゃな」

 その様子にメサも感嘆する。


 サラーサは器用に地凍らせた面を滑って、流れるように僕の方へ向かってきた。

「エリル、このまま逃げるわよ!」

「わかった!」

 僕は剣を置いてサラーサが伸ばした手に掴まろうとするが・・・

「まずったのじゃ!」「あっ」「えっ?」


 3人の声が続いたのと同時に、サラーサの手があさっての方向に突然逸れた。

「しまった!」

 サラーサはたまらず体勢を崩し、僕に向かって倒れ込んだ。


 ドサッ! ムギュ! 


 突っこんできたサラーサをなんとか受け止めたが、かなりの勢いでぶつかったせいで僕も転倒することになり、後ろにいたメサを押しつぶしてしまった。メサのおかげで痛みはなかったけれど、つぶされた本人は目を回してしまっている。

「サラーサ、大丈夫!?」

「あいたたたた・・・もう私ったら! こんなところでバランスを崩すなんて!」

 サラーサは自分の失敗だと思って嘆いているが、そうじゃない。忌避の魔術を使ったメサが僕の後ろにいたせいで、メサを避けようと無意識に体が動いてバランスを崩すことになったんだろう。


「って、この子は・・・・メイちゃん? いつの間に?」

 サラーサが突然姿が見えるようになったメイ(メサ)を訝しがるがそれどころじゃない。

「いいから立って! 早く逃げなきゃ!」

 何とか立ち上がって視線を上げると、ドラゴンが物凄い勢いで突っ込んできていた!


「危ない!」

 サラーサを引っ張って石壁の後ろに隠れるも、砂山を払うようにドラゴンの爪が石壁を粉砕した。

 返す手の爪が僕らを引き裂こうと迫る!!

「この程度なら!」

 僕はドラゴンの爪を引き抜いた剣で受け止めた。と、思っていたより柔らかい感触がして――――剣がドラゴンの爪に食い込み、その幾本かを両断した。


「ギャォオオオオオオ」

 辺りに血が散り、ドラゴンは驚愕と苦痛の咆哮を上げた。


 これはいけるんじゃないだろうか!?

 ドラゴンもここに来るまでに切り伏せた魔獣同じなんだろう。どれほど魔力で体を強化しても、魔力を無効化するこのセルバウルの剣なら体を切り裂いて致命傷を与えられるはずだ。


 そう確信して追撃を行おうとした時、ドラゴンが背後に大きく飛んで距離を取った。

 逃げるのかと思ったが・・・・ドラゴンは少し離れた場所で息を吸い始めた。

 しまった!! 遠距離から炎を吐いて僕らを焼き払う気だ!


「メサ! 石壁を!」

 急いで地面に転がるメサに声をかけるも、まだ気絶したままのようで返事はない。

「オィ、ヤベエッェテ! オキロ! オキルンダ!」

 はーちゃんが慌てている。


「私の後ろに隠れて!」

 サラーサが僕らの前に飛び出し、耐火マントを広げる。

「アイスブレス! ・・・・っう」

 また再び冷気を吐いて自分の手ごと耐火マントを凍りつかせようとしたが、膝をついて倒れ込んでしまった。

「サラーサ! 一体何が!?」

 倒れたサラーサを抱きあげる。

魔力マナが・・・」

 顔色がかなり悪い、魔力マナが尽きてしまったみたいだ。

 よく見ると両手もひどい凍傷と火傷を負って痛々しい状態になっていた。

「ひどい・・・って、しまった!」

 倒れたサラーサに気を取られている間にドラゴンが息を吸い終わってしまった!

 灼熱に輝くその口が今まさに開こうとする。

 サーラサは動けそうにないし、メサも気絶したままだ。


 こうなったら一か八かしかない!!

 サラーサの持っていた耐火マントを両手に巻きつけて剣を握る。あの炎が魔力でできているならこの剣で切り裂けるはずだ!

 ドラゴンの口が開き視界を炎が埋め尽くす。


 と、僕の前に人影が割り込んだ。

「おいエリル、面白そうなことやってんじゃねーか!」

 カナミだ! この騒ぎに崖下からここまで駆け付けてくれたみたいだ。

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