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35話 山頂への道

「はっ!」

 草むらから飛びかかってきたヘビを剣で両断する。

 ヘビは勢いを失って一旦地面に落ちるが―――剣を引いた瞬間、落ちた頭が再び牙を剥いて飛びかかってきた。

「しつこい!」

 即座に蛇の頭を剣先で貫き、振り上げた勢いで遠くへ吹き飛ばした。

 もうこれで20匹目になるだろうか・・・


「さすが剣の修練を積んでるだけあって器用なもんだな」

 剣で蛇を処理する僕を見てカナミが感心する。けれど、そういうカナミも自身の魔術障壁にぶつかって落下した蛇を何匹も、器用に素手で掴んで頭を握りつぶしていた。


「カナミもなんていうか・・・十分器用だよ。というかそんな面倒なことをしないでに魔術で燃やせばいいのに」

 ぶっちゃけヘビの血でドロドロになったカナミの手に僕はドン引きだ。寮での乱れた生活態度といい、カナミの行為は何か野性児っぽさを思わせる。

「それこそめんどくせーよ。それにドラゴンに合う前に魔力が尽きたら面白くねーだろ」

「いやいや、ドラゴンと会うのに魔力は必要ないから」

 僕らはドラゴンと戦うために山を登ってるわけじゃない・・・はずだ。


 何となく進行方向を先を見るが、草木が生い茂って何も見えない。

 かれこれ1時間は歩いただろうか? ツエナ先輩の指示に従って道なき道を進んでいるけれど、ちゃんと目的地に向かえているのか全く分からなかった。


 それにしても道が管理されず、魔獣が跋扈ばっこする森っていうのは恐ろしい場所だった。草むらからは度々ヘビの魔獣が飛び出し、空からも巨大な怪鳥や蜂の襲撃があった。結局僕らが露払いとなって進んできたけれど、見逃した魔獣もいたらしく、時折後方で悲鳴が上がって魔術が飛び交っている。


 ツエナ先輩とカナミが足を止めたので、前に出て道をふさいでいる草木を剣で切り開く。

「その剣を持って来たのはナイス判断だったぜエリル」

「そうね、こんな切れ味のいい剣があるなんてすごいわね。わたしたちが登ったときは道を切り開くのに、何人もの学生が魔力を使い果たしたものよ」

 魔術師の持つ刃物は基本あまり切れ味が良くない。ツエナ先輩が僕の剣を興味深そうに見つめている。馬車ではサラーサの荷物のおかげで帯剣していても目立たずに済んだけれど、結局目を引くことになってしまった。


「本当はこんな使い方したくないんだけど・・・」

 魔術障壁を張れない弱点をカバーするために剣を持って来たのであって、道中の草木を刈るのに使うのは不本意だった。少なくとも、世界に数本しかない銘刀でもあるし。せめてもの救いは、植物も魔力を持っていて、この剣でなければこの草木を切り裂くことが無理だった点だろうか。


「二人とも――進むのが――――早過ぎよ―――」

 後ろから息を切らせてサラーサが追い付いてきた。その背には大きなリュックが背負われている。


「俺らが速いんじゃなくて、サラーサの足が遅いんだって。そのリュック、馬車に置いてくりゃよかったのに」

「折角持って来たのに、それじゃ意味がないじゃない」

 サラーサは一体何を持って来たんだろうか・・・


「だってなぁ・・・リュックに付けてる魔獣避けとか全然効果がなさそうじゃんか」

 サラーサが近づくとリュックから何とも言えない匂いが漂っている。

「これはその――――風向きが悪いのよ!」

「後ろの奴らも襲われてるし、それぜってー効果ねェって」

 僕も同意見だ。


「うー、この魔獣避け高かったのに・・・」

「高けりゃ効果があると思ったら間違いだっての」

 勉強や寮生活ではサラーサに頭の上がらないカナミだったが、買い物に関してはカナミの方が幾分鋭かった。僕としては、勉強ができるのに怪しいセールスに引っかかってしまうサラーサが、不思議でしょうがないのだけれど。


「いったん休憩にしましょう。カナミ、号令をお願い」

 そう言ってツエナ先輩がカナミに指示をする。

「へいへい」

 カナミは嫌そうな顔をするも従い、大きな声で号令を飛ばした。

「全体に連絡! その場に停止して各自休憩! 休憩だ!」

 声を聞いた他のパーティからも休憩の掛け声が続く。複数の冒険者が集団行動する状況にならった方法らしい。

 周囲の安全を確認して、僕らも腰を下ろす。

「はぁー疲れたわ」

 リュックをクッションの代わりにしてサラーサが空を仰ぐ。

「サラーサはほとんど何もしてないだろ」

日頃の仕返しとばかりにカナミが突っこむ。

「まあまあ、僕らが取り逃した魔獣を少しは退治したんだからそう言わずに」

「そうよ、ここぞって時には私だって戦えるんだから。それに―――」

 そう言うとサラーサはリュックから水筒を取り出し、手際よくコップに注ぐ。

「はいどうぞ、エリル。こういう時に私の荷物が活躍するのよ」

「ありがとうサラーサ」

 ほんの甘いレモネードだ。疲れていた体に染みわたる。

「俺の分は?」

「私、役に立ってるわよね!?」

「わかったよ、役に立ってるって」

 得意顔でサラーサは新しいコップにレモネードを注ぐ。


「と言っても使用人レベルだけどなっ・・・て、おい」

 コップを受け取ろうとしたカナミの手が宙をかく。

「いうことがあるでしょ」

「わーったよ、ありがとうございます」

「はい、よくできました」


「まったくなにをやってるのかしら」

 一部始終を見ていたツエナ先輩が呆れている前で、カナミはサラーサから受け取ったレモネードを一気に飲み干していく。

「ぷはぁ、生き返るぜ」


 ちょっとした休憩を終え、山登りを再開するためカナミが号令をかける。

「全体に連絡! 前進を再開する! 前進!」

 息を整えて今まさに前に進みだそうとしていたところに、地響きが響いてきた。

「大変! 魔獣の群れよ、みんな防御陣形をとりなさい!!」

「なっ、襲撃だ! 魔獣の襲撃が来るぞ! 防御しろ!!」

 ツエナ先輩の叫びにカナミが号令が続いた直後、真っ黒な魔猪の群れが突っ込んできた。


 先頭にいたカナミが突っこんできた群れの一頭を障壁で受け止めて両手で抑える。

「うぉおおおおおお!」

 が、勢いを止めきれず後ろに押し退けられていく。

「くっそおおおおおおお!」


 僕の方にも何頭かが突っ込んできた。

「はっ!」

 ぶつかるすんでのところで転がって躱し、すれ違いざまに脚を切り付けて転倒させる。

 転倒した魔猪は道を外れ、突っ込んできた勢いのまま周囲の岩や木に衝突して動かなくなった。


「これでも喰らいやがれ、この猪野郎ぉ!」

 掛け声と共に僕の背後で炎が上がる。

 見るとカナミが障壁で受け止めた魔猪を炎で丸焼きにしていた。


「ここから先には進ませないわ!」

 サラーサも魔猪に氷を撃ちこむが、一向にに効く様子はない。

「それなら・・・」

 サラーサは狙いを変え、魔猪が進む先の地面を凍らせた。

 魔猪は足を滑らせて転倒し、道を外れて木に激突して止まった。

「よし!」


 そんな僕らの奮闘も虚しく、次々に新たな魔猪が突っ込んでくる。

「これ以上は危険ね」

 そう言うとツエナ先輩は僕らの前に立って魔術障壁を展開した。

 魔猪は障壁を気にすることなく突っ込み―――血しぶきをあげてその場に崩れ落ちた。

「凄い」

 障壁の堅牢さに感嘆の声が漏れる。


「きゃぁぁーーー!」

 突然、背後でサラーサの悲鳴が上がった。

 振り返ると別方向から現れた魔猪がサラーサの背負うリュックに噛みついていた。

「危ないサラーサ!」

 咄嗟に斬りかかるも、魔猪は軽々と跳躍して僕の斬撃を躱した。

 サラーサはジタバタと暴れて周囲に魔術を乱射しているが、背中のリュックに動きを制限されて魔猪を攻撃できていない。

「くそ、サラーサの奴は何やってんだよ」

「サラーサ! 今助けるから動かないで!」

 サラーサを助けるため魔猪にじりじりと近づくも、何かを察した魔猪は僕らの背を向けて走り出した。

「なっ、サラーサ脱出して!」

 声を張り上げるも、サラーサが魔猪から逃れる様子はなく、そうこうしているあいだに魔猪は僕らからどんどんと遠ざかって行く。

「大変! 追いかけるわ! マッスルパワー!」

 自身に群がっていた魔猪を片付けたツエナ先輩がサラーサを追って駆け出した。


「何が高かったのにだよ、やっぱりあの魔物避け全然効果ないじゃねーか。仕方ないぜ、俺らも追いかけるぞ!」

 僕らの後ろにいた学生たちも列の横合いから突っ込んで来た魔猪への対処で混沌としていた。

「お願い、ラナティア教授に伝えておいて!」

 適当な学生に伝言を頼みツエナ先輩の後を追って駆け出す。

 道の所々がサラーサの連発した魔術で凍り付いている。


「普通に歩いてたら埒があかねぇぜ、俺は強化魔術を使って追いかけるけどエリルはどうするよ?」

 カナミは炎の魔術以外に自身に使う身体強化系の魔術も得意にしている。


 僕は・・・魔術障壁が張れないことから察せるように、体を強化する魔術も下手だった。

(メサ、はーちゃん、強化をお願い!)

「任せておくのじゃ! プロテクト」

「仕方ネェナ、マッスルパワー」

 身体に力がみなぎる。これなら魔獣に飛びかかられても無視して切り抜けることができるだろう。


「僕も行けるよ!」

「へぇ、思いのほか強化魔術が出来るようになったみたいじゃん」

 メサの存在に気が付いていないカナミは、僕が魔術を使ったと思って感心している。

「急ごう!」

 そう言って跳躍しようとした瞬間、僕はバランスを崩して地面に手を付いた。

「あれ!?」

「なんじゃ?」「ドウシタ?」

 僕の動揺がメサたちに伝わる。


 カナミも驚いてこっちを振り向く。

「何やってんだよエリル!?」

「なんか魔術が上手く作用してなくて」

 体・・・というより腰の剣が重くなって体が思うように動かない。

「こんな時にしっかりしてくれよ! 先輩が付けた目印を見失っちまうからに先に行くぞ!」

 そう言って魔術で体を強化したカナミは跳躍して道の先に消えて行った。


「メサ、もう一度お願い!」

「う、うむ!」

「プロテクト」「マッスルパワー」

 魔術の効果で体が軽くなる・・・が、腰に付けた剣は鉛のように重さを増している。

 どうやら魔術で体を強化しても、剣の触れている場所は効果が打ち消されてしまっているみたいだ。

 どうしよう、剣を捨てていくべきだろうか、それとも剣を抱えてこの山道を走って進むか・・・


 これまでの道中の事を思うと、この剣がないと魔獣の対処に手間取って結局遅くなりそうだ。

 それなら、サラーサをツエナ先輩とカナミが助け出してくれると考えて、救助後にここまで戻ってくる際の護衛を僕が剣を使ってした方が役に立てるだろう。なによりこれぐらいの傾斜なら姉上に鎧を着せられて走ったこともあって、体力には自信があるし。


「行くよメサ!」

 僕の決意を知ってメサはどんよりとした目を山道に向けている。

「我は・・・」

「力を貸してくれるよね」

「はぁー、わかったのじゃ」

 僕の頼みに渋々メサが承諾する。

「予想外ノ展開ダゼ、マアタマニハ体を動カスノモイイダロ」

「疲れる体のない主はいい気なものじゃ」

 はーちゃんに恨みつらみを言いつつメサは自身を魔術で強化する。

「プロテクト」「マッスルパワー」

 この場合、僕とメサのどちらが速いのか少し気になった。


「3人に追いつくよ!」

「わかったのじゃ」「根性ノ見セ所ダゼ!」

 僕は息切れしないようにペースを守って山道を走り出す。


「お願いサラーサ、無事でいて!」

 ツエナ先輩はしっかりしているし、カナミもこういう時は頼りになる。こんなアクシデントは学園じゃ良くあることだと思うけど、サラーサの無事を願わずにはいられなかった。

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