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34話 詰所での雑談

エリル達が山頂を目指して進む中、その目的地となる竜騎士の詰所にて

 地響きのような音が響く中、竜騎兵の詰所で2人の兵士が雑談に興じている。

 竜騎兵は戦場で精鋭として扱われる部隊であったが、周辺を同盟国に囲まれたゴルグレーでは戦闘が発生することもなく、この詰所での任務は大半が荷運びばかりといった暇な職場であった。


「学生のヒヨッコどもはもう麓に着いただろうか?」

 兵士の一人がこれからここに向かって来る学生達ついて、相方に話を振る。彼は見学で学生の相手をするのは今回が初めてであった。

「昼頃に着くはずだから、もう中ほどぐらいまでは来てる頃合だろう」

 相方はこの手のイベントを何度か経験しているらしく、手慣れた様子で学生達の位置を推測する。


「わざわざご苦労なことで。奴ら着いたらさぞガッカリするだろうな」

「そんなことはないさ、貴重なドラゴンの――――寝顔が見られるんだからな」

 そう言うと相方は意地の悪い笑みを浮かべる。この詰所のドラゴンは朝から好物の酒や眠気を誘う香草漬けの肉をたらふく食べて、地響きのような音をたてて眠っていた。


「どう考えても学生は起きてるドラゴンをご所望しょもうだぜ」

「おまえが両方の手綱を握れるなら任せてもいいぞ?」

「両方ってなんだよ?」

 彼は理解が及ばず聞き返す。

「そりゃドラゴンと学生のさ」

「学生の方もかよ」


「縄張りへの侵入者にご立腹のドラゴンに無知ゆえの好奇心にあふれた若い学生、あとは手の届くところに光物のお宝が転がってたら完璧だな」

「即行で学生の焼死体ができて、ついでに俺らの首が飛ぶな」

 最悪な予想をして彼はゲンナリした。ドラゴンは宝石―――というより光物を好む。ドラゴンの巣のある山で、下手に落ちている金貨や水晶を拾おうものなら、契約を結んでいる竜騎兵ですら襲われる危険があった。


「そういうことだ。そんな危ない橋を渡るぐらいなら、多少不満が出たとしても学生に我慢してもらう方が断然ましってことさ。まあ、そんな学生も竜鱗の欠片をいくらか渡しておけばご満悦で帰ってくれるがな」

「なるほど」

 部屋にはこの数日で集められた竜鱗の欠片が山積みにしてあった。一応、素材としての価値はあったけれど、欠けていない竜鱗と比べたら無価値に等しいものだった。と、その横に置かれた荷物を見て、彼は見学とは別に仕事があったことを思い出した。


「そういえばあの荷物、本気で今日ここへ来る学生に任せるのか?」

 彼は思う、一応あの荷物は軍事機密だったはずだ。

「そういう指示だ。王子の忘れて行った荷物も合わせて一緒に渡せとさ」

 よくあることだという風に相方は手をひらひらと振る。


「渡す学生の顔も知らないってのにどうするんだよ」

「さっき目印を兼ねた案内用の使い魔を出しておいたから、見ればわかるさ」

「全く適当だな。斡旋所の仕事みたいなノリで来る学生より、教授に渡した方がマシじゃないか?」

「あの教授はダメだ、魔術師としてはそれなりだが、約束事なんて魔獣を見たら抜けてなくなるからな」

「本当かよ、よくそれで教授が務まるな」

「だから冒険者の資格は剥奪はくだつされたのさ」

 彼の中で教授と学園への評価が限りなく下がった。


「学生の方に面白い話はないのか?」

「あるぞ。その学生、ウワサじゃ王子のコネで入学したらしい。学園でも何か王子絡みの仕事をしているとかで、今回の件はそのついでなんだとさ」

「学生がスパイの真似事かよ、碌でもない話だな。ってかそれ話して良い内容だったのか?」

「ウワサだよウワサ。どんな学生が来るか興味が湧いただろ?」

 確かにあの学園は秘密に溢れているが、そういった活動をしているなんてウワサの立つ学生は珍しかった。おそらく何か事件でも起こしたんだろう。


「まあな。しかし、あんなものを作らせるとか王子も何を考えてるんだか」

 彼は荷物の中身についても思いを巡らす。

「荷物の方を勘ぐるのはやめておけ、消されるぞ」

 相方が声のトーンを下げる。


「さすがにそれはね―だろ。いくら荷物の送り先が多少怪しい同盟国だからって」

「王子が同盟国と共謀して反乱を起こすとしたら?」

「あの王子に限って反乱とかねぇわ。それに蛮族どもならいざ知らず、同盟国の中でウチに牙をむくような所はないぜ。って、こんな話こそ聞かれたら前線送りになっちまう」

 彼にとって命を懸けた最前線より、安月給とはいえ安全な窓際業務の方が100倍マシだった。

「だな。兎にも角にも下手な勘ぐりはしないものさ」

「焚き付けたお前が言うなよ」


 会話の途切れたタイミングで魔術で作られた鈴が鳴り来訪者を告げる音が響いた。

「お? 誰か来たみたいだぞ?」

 彼は新しい仕事に向けて気合を入れる。

 相方は窓から来た人物を確認していた。

「学生のようだが・・・・思っていたより随分と速いな」

 到着時間について正確な取り決めがあったわけではなかったが、これまでで最短記録になる時間だった。

「王子が推してるなら、その学生は余程出来が良いんだろ。他の学生が来る前に荷物を渡してしまおうぜ」

「着いたのがその学生だとは限らんが・・・・まあ準備をしておくか」

 入り口ら門番が連れてくる学生を迎えるべく、2人の兵士は準備を始めた。

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