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32話 2学期の始まり

 そんなこんなで連休はあっというまに終わってしまった。


「まったく、エリルは日焼けに対して無防備すぎるわ! あの白かった肌が勿体ない」

 講義に向かう道すがら、日焼けでボロボロになった僕の肌を見てサラーサが怒る。休みの間から会うたびに言われて、そろそろ耳にタコができそうだ。


「怒るなら日に焼けるような補講を急にしたアマリア学長に言ってよ! あと、カナミだってあんなに焼けてるよ!」

 エイレーンから帰ってきたカナミも真っ黒に日焼けしている。

「ちょエリル、俺を巻き込むなって」

「いいのよカナミは、どうせ元から日に焼けてたし。それに、言ったところで聞かないだろうから」

 カナミがホッと息を吐く。僕も最初から日に焼けていれば何も言われずに済んだんだろうか・・・


「渡したクリームはちゃんと塗ってる?」

「塗ってるよ」

 うっすらと牛乳の香りがする高そうなクリームだ。貰うのは気が引けたけど、朝晩会うたびに服を剥かれて塗られるのも困るから致し方なかった。

「で、日焼け止めは買った? あと、ファンデーションとかの化粧品も!」

「ええっと、次の休みにでも買に行く予定だよ」

 セルバウルでは外出することなんて殆どなかったから、化粧なんて意識したことが無かった。母上が気にして使用人にしてもらったこともあったけど・・・ファンデーションってなんだろう?


「うーん、やっぱり心配だから一緒に行くわ。あと、折角だしお化粧の方法も教えるから」

 サラーサの目がやる気に燃えている。

「お手柔らかにお願いします」

 僕だけで買い物に行ったら、変に高かったり余計なものを買いそうな気もするし仕方ないか。

 そうこう話している間に、教室へと着いた。メサは今日の講義に興味が無いらしく来ていない。


 少しすると講義を担当するラナティア教授がやってきた。

 ラナティア教授は元冒険者だ。魔獣や魔物を専門にしていて、実体験を交えた講義内容が面白く僕を含め学生からの人気が高い先生だ。比較的楽に単位が取れるっていうのもあって、冒険者を志望していない学生も数多く講義に参加していたりする。なお、魔獣に夢中になり過ぎてよくパーティを危険に晒したせいで、冒険者を首になったらしい。


 空調の効いた教室に、ラナティア教授の声が響く。

 魔獣の習性や弱点、価値のある希少部位など聞いたことのないものばかりで、ついノートを書くのを忘れて聞き入ってしまった。


 やがて講義が終わり来週の話になった。

「学生の皆さんにお知らせがあります。次回は学園から少し離れた場所で校外学習を行います」

 ラナティア教授の講義では野外で魔獣とかの観察をすることがある。これまでは全て学内だったけど、少し離れた場所って・・・ダンジョンにでも連れて行ってもらえるんだろうか?

「理由があって詳しい場所を教えることができませんが、今回の校外学習で行く先はドラゴンが住んでいる山になります」

教室がざわめく。


「ドラゴンが住んでる山!?」

 ドラゴンは兄上が戦場で襲われることを最も危惧した危険な魔獣だ。堅い鱗に覆われ、思いのほか俊敏に動き空を飛びまわる巨大な魔獣。今のセルバウルには対抗する術が無く、襲われたらひとたまりもない。

「へぇ~ドラゴンねぇ」

「二人とも黙って」

 サラーサは真剣に先生の話を聞いている。


「一応、山のドラゴンは契約下にある人に慣れた個体ですが、どのような事故が起こるかわからないため、当日は耐火マントを配布します」

 防火なら今のマントにも施してあるはずだけど、どれほどの効果があるんだろうか?

「あんなの着て歩くなんて俺は嫌だぜ、重いだけで大して効果ねぇし」

 カナミは耐火マントを着たことがあるみたいだ。

 とサラーサが手を上げる。

「先生、耐火マントを着たところでドラゴンの炎には耐えられないと思います」

「サラーサさん、ドラゴンと戦うようなことになればそうですが、みなさんが行うのはあくまで山に住む魔獣の観察です。なお、現地ではドラゴンの見学会も行う予定ですが、間違ってもドラゴンを挑発したりしないように!」

 ラナティア教授が口調を少し強める。


「何をしたら挑発になるんだろう?」

「そりゃこうやって目を合わせてガン飛ばしてだな!」

 カナミが目を見開いて僕を見てくる。確かに狼ならそれで怒って襲ってくるだろうけれど・・・

「エリルに変なこと吹きこむのはやめなさいよカナミ」

「そんなに変な事でもないと思うけどな、他は収集物を盗むと怒るらしいぜ」

「収集物はそうね。あと、触ったら怒る部位とかもあるらしいわよ」

 やっぱり狼と似てるように思えた。


 ざわつく学生に対し、先生が咳払いをする。

「最後に、当日は山の中を徒歩で進みます。そこまで険しい山ではありませんが、魔獣が襲ってくる可能性があるため、各自で対処できるよう準備をしておいて下さい。もちろん変わった魔獣を見つけて捕まえることができれば、加点対象とするので良く覚えておいてくださいね。それでは本日の講義を終わります」

 魔獣の捕獲はラナティア教授の趣味も入ってるみたいだけど、かなりの点数が貰えるみたいだ。まあ、過去には捕まえた魔獣が教室内で逃げ出して大参事になったこともあったらしいけど。


「準備って何をしたらいいんだろう?」

「センコーも一緒なら普段通りで良いんじゃねーか?」

「制服の下に着れる防具に・・・予備の杖も用意しておこうかしら。あと、遭難するかもしれないから保存食と登山の準備も必要ね」

 サラーサは難しい顔をして考え込んでいる。

「相変わらずサラーサは心配性だな! 日帰りの授業だぜ? それにドラゴンつっても竜騎兵用の大人しい奴だろ」

 契約下のドラゴンって聞いて予感はしていたけど、竜騎兵って本当に存在するんだ。是が非でも話を聞いてみたい。


「この前路地裏の店で見かけた魔獣除けの鈴とか買っておこうかしら」

「おい、俺の話を聞けって!」

 カナミの声はサラーサの耳に届いていないようだ。

「魔獣除けってあるんだ?」

 セルバウルには山に入る際に持つ猛獣除けの鈴がある。魔獣にも効果があるって話は聞いたことがないけれど、

「エリルもあんな眉唾物を買うはやめとけよ、音で逆に魔獣が寄ってくるぜ」

 やっぱり魔獣には効かないんだ・・・。

「うーん、どうしようかしら」

 カナミが買い物をする必要はないって説得しようとするが、サラーサは納得いかないみたいだった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「よく戻った下僕!」

「ヨォ、今日モオ邪魔シテルゼ」

 講義を終えて寮の部屋に帰ると、僕のベッドにメサが転がっていた。最近はそこが昼寝の場所になったらしい。隠れ家への道が通れるようになって別かれて行動することも増えたから、兄上が知ったら不用心だって怒られそうだけど、その辺にあった金属でアマリア学長に作ってもらった合いカギを渡している。


 と、部屋の床に非常食を入れた箱が無造作に転がっている。拾い上げた箱の中は空っぽだ。

「メサ、食事をするなら食堂に行ってよ」

 相変わらずメサは昼食を適当なもので済ませたりする。

「どこで食べてもクッキーはクッキーなのじゃ」

「これは僕の非常食なんだよ! 確かに中身は食堂で貰ったクッキーだけど」

「ならまた貰って来ればよいではないか」

 非常時に空っぽだったら大問題だ。


「これからはセルバウルの携帯食を詰めておこうかな」

 激マズと称される携帯食。交易所に行けば幾らでも貰えるはずだ。

「な゛、アレは嫌じゃ」

「食エタモンジャネエゼ! オレハ食エナイケドナ」

 流石にメサもアレは駄目らしい。

「もしもの時はちゃぁんとメサにも食べさせてあげるから」

「アリガタイ話ダナ」

「ぐぬぬぬ。致し方ない、これからは箱を空にせぬよう気を付けるのじゃ」

 メサはあまり反省していないみたいだ。


「最近あの携帯食、クッキーによく似た奴が出来たらしいんだ」

 折角だしアマリア学長に掛け合って、学園中のつまみ食い対策に使ってみるのも面白そうだ。

「凶悪ゥ」

「・・・わかったのじゃ。箱の中身は食べぬようにするからそれだけは勘弁じゃ」

 非常食以外に僕が持ち帰るお菓子ぐらいなら食べられてもいいか。久しぶりにメサを言い負かした気がする。


「そう言えばラナティア教授の来週の講義は校外学習だって。行く先の山にはドラゴンが居るらしいよ」

「ほう、ドラゴンとな」

「メサも一緒に行く?」

 あんまり離れると魔力の供給が途絶えそうな気もするし・・・

「汝が行くなら我も当然ついて行くに決まっておる」

「今日の講義には来なかったのに?」

「今更魔獣の話なぞ聞いたところで得るものなぞないのじゃ」

 そう言えばメサの出身地は魔獣がかなり多い地域だった。数が多いと詳しくもなるものだろうか。


「服装とかとうしようかな、カナミは普段のカッコで行くみたいだけど・・・」

 サラーサと一緒に買い物へ行くべきだろうか。

「そこな箱の中身を持って行けば良いのではないか」

「そこの箱って・・・」

 メサの視線の先には僕の装備一式が入った箱がある。セルバウルから兄上が勝手に持って来たものだ。武具が持つ魔術を無効化する作用は、魔獣との戦いにも有効だろうけれど、

「さすがに場違いだよ。って、いつの間に中身を見たの!?」

「汝の事は隅から隅まで確認済みじゃ。まあ、中の不可解な武具についてはよう分からんかったのじゃが」

「危ないから勝手に触らないでよね!」

 一応セルバウルの軍事機密だ。まあ、どういう原理なのか説明しろと言われても誰にもわかっていないんだけど。


「で、汝はあれから少しは障壁を出せるようになったのか?」

「それは・・・」

 魔術障壁については全く進歩していない。

「ダトヨ!」

 はーちゃんが僕の心を読んで速攻で突っ込んでくる。


「山の中なぞ草むらから突然魔獣が飛び出してくることもあるのじゃ、前のように剣を持っていないからと右往左往している間などないぞ。最悪、他の学友に迷惑がかかるかもしれないのじゃ」

「確かにそうだけど・・・」

 もしサラーサが背後にいたら―――蜥蜴の時みたいに飛び退くわけにいかないだろう。

「別に剣ぐらいなら持っていてもおかしくはなかろうて」

 剣ならカトレアも持っていたし、マントで少し隠しておけば目立たずに済むかもしれない。

 まあ、剣を使うのはいざって時だけにして、魔獣の相手はカナミにお願いしよう。

「わかった、そうするよ」

 納得した僕を見るメサはなぜか怪しい笑みを浮かべている。何か面白い要素とかあっただろうか?


 ふと、オリエンテーションでの体験が思い浮かんだ。校外学習と言っても普通の授業のはずだから、山中の魔獣を一掃するなんてバカな話にはならないはずだけど、一抹の不安がよぎる。

 セルバウルの携帯食は牛乳を吸って腐った雑巾味です。胃液と同程度の酸味があって相乗効果が・・・

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