30話 メサの隠れ家にて
「やっと終わった!」
最後の像を広場に並べ終えて一息つく。
298体の黒い像が西日に照らされる様はなんとも物々しい。
書かれた名前から察するに、この黒い像達はメサが事件に巻き込んで死なせた使い魔達を模ったものだろう。
アンデットは浄化されると塵になって跡形もなく消えてしまうらしいが、生前の姿を映しとったと思えるほど精巧に像は作られている。生き生きとしたその姿からはメサが何を考えて作ったのかが伝わってくる気がする。
これはフィーア先輩たちに絶対見てもらうべきだ。
「ダトヨ」
はーちゃんの声に振り返ると、メサが立っていた。
「それはならんのじゃ」
メサは僕の考えを読んだらしい。
「メサはこの子たちを死なせたことを後悔してるんだよね」
「やつらは自らの職務を放棄して勝手に死んだのじゃ、その行為に憤慨こそすれ後悔なぞするものか」
「メサはこの子たちに生きていてほしかったんだよね」
「やつらには自らの使命を果たしてほしかったまでじゃ。我はそのために力添えをしたというのに、恩返しなどと言って全てを無駄にしたのじゃ」
「でも、そのおかげでメサは助かったんだよね」
「あんな奴ら我一人でもなんとかなっていたわ! やつらは無駄死にしたのじゃ」
「確かに無駄死にだったかもしれない。でも、死んでほしくなかったから怒ってるわけで、フィーア先輩たちに申し訳ないって思ったんだよね」
OO家の使い魔と書かれた像は名前の無かった使い魔だろうか。
恐らく298体ある像はすべて飼い主が分かるのだろう。
これほど正確に姿を記憶できるなら、像の全てに名前を書く必要はないはずだ。
「汝は考え違いをしているぞ。我は許しを請うために像を作ったのではない。汝が何を感じようとこれは我の自己満足でしかないのじゃ」
そうかもしれない。だけど、この思いはフィーア先輩たちに伝えるべきだ。
「ここをフィーア先輩たちに見て貰って、話をしてみようよ」
「汝、ここが学園の所有する隠れ家であることを忘れておらぬか? 汝の独断で人を招き入れてよいはずがなかろうて」
「じゃあ僕が外に運ぶよ!」
「場所を変えたところで、我に課せられた接触禁止の取り決めは変わらぬ」
「それなら!」
「この件はここまでじゃ!」
反論しようとする僕をメサが赤い瞳で睨む。
「ナァ我ヨ」
「ハットも黙っておれ」
「デモナ―――」
「我らの悲願を忘れたか?」
「コレトソレハ違ウト思ウンダゼ」
「違わぬ。綻びはそんな些細なところからやってくるのじゃ」
「・・・・」
しばらくの沈黙の後、
「カー、ワーッタヨ。我ノ思ウヨウニスレバイイサ」
助け船を出してくれそうだったはーちゃんは早々に撃沈した。
「主からの命令じゃ。下僕よ、フィーアや事件の関係者たちにこの事を知らせるでないぞ!」
黙っているなんて間違っている―――と思う。
でも、メサがそこまで頑なに言うのなら、フィーア先輩たちと無理に引き合わせるのは良くないのかもしれない。メサの赤い目に見つめられると、なぜか彼女の言うことに従った方が良いと思えてしまう。
「・・・わかったよ。このことはメサが良いって言うまで黙っとく」
つい根負けしてしまったけれど、これで本当にいいんだろうか?
いくら考えてもモヤモヤするばかりで頭が痛くなってきた。
しかたがない、しばらくこのことを考えるのはやめよう。
ふと我に返ると辺りはすっかり日が暮れて暗くなってきていた。
「やばっ! 急いで帰らないと!」
メサが意味深な笑みを僕に向ける。
「帰る? 今からあのダンジョンを通って?」
「えっと・・・メサがいたら何とかなるよね」
夜は魔物や魔獣の動きが活発になる。ダンジョンも例にもれず、奥から強力な怪物が表まで出てくるだろう。それに学園の門も閉じてしまってるだろうから、僕一人では寮まで帰ることができない。
「無理じゃな」
「つまり帰れないってこと!?」
「その通りじゃ」
「あぁ、やっちゃった・・・」
連休中とはいえ無断外泊になってしまった。僕はガックリと肩を落とす。
「何を項垂れておる、アマリアには連絡しておいたぞ?」
「本当に!?」
「ここは隠れ家じゃと言っておろうに、緊急事態に助けも求められぬ秘境とは違うのじゃ」
「確かに。でも、それならダンジョンを通らずに済む出口とかはないの?」
本当に隠れ家なら、もしもの時の脱出経路がありそうなものだ。
「出口ならあるぞ。少し狭いが裏のトイレに飛び込めば麓の湖まで直行できるはずじゃ。使ったことはないがの」
「・・・流石にトイレに飛び込むのは嫌かな」
学園に連絡してあるなら無理に帰る必要はないわけで、メサの隠れ家に泊まることが決定した。
年度末、新年度の仕事ラッシュがやっと終わった!
あともうちょっとだから1部の終わりまでサクッと書き終わりたい・・・