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26話 土掘り

「メイ、待って! 早く行き過ぎだよ」

 燦々と日が照る森の中、白い髪の少女が小動物のように駆けていく。

 僕の呼び声に反応してこちらを振り返る。


「下僕、その呼び名は気に入らんと言っておろうが! 二人の時は主様と呼ぶのじゃ」

 僕の部屋の同居人はそう言ってふて腐れた。彼女の名前はメイ・ロスラント、アマリアが作ったメサの偽名だ。メサが僕らの学年に転入生として加わって2ヶ月、特に問題は起こらないまま試験期間が終わり、学園は短い夏休みに入っていた。


「わかったよメサ、だからちょっと休憩させて」

「メサではなく主様と・・・」

「ハッハー、エリルハ体力ガネェナ!」

 メサの言葉を遮ってはーちゃんが絡んできた。

「これで体力がないって言われたらほとんどの人は体力が無いことになるよ」

 僕は汗をぬぐってはーちゃんを真っ直ぐにかぶりなおした。


 僕の前には人形を2体乗せたネコ車がある。アマリア学長の指示で寮から借りてきたものだ。

 起動して持ってこれたらよかったんだけど、それだとメサの魔術による隠蔽が上手くいかないらしい。なので、はーちゃんをかぶった僕がネコ車に乗せて押してくることになった。


 僕が吹き飛ばした沼の跡地は湖になっていた。折れて吹き飛ばされた木々も回復しつつある。

 湖を迂回して裏側の岩場へと向かうと、先に行ったメサが岩の上で元気に飛び跳ねていた。

「ここじゃ! この向こうに我が隠れ家に繋がる洞窟があるのじゃ」

 そう言ってメサが足元の岩と土砂の山を示す。

「うわー」

 つい口から声が漏れる。これを片付けるのは何日も掛かりそうだ。


「では我は寝るから終わったら起こせ」

 そう言うとメサは僕からはーちゃんを奪って近くの木陰に横になった。

「メサ、自分の隠れ家なんだし少しは手伝ってよ」

 無理だろうなー、そう思いつつ言葉をかけてみる。


「これで良いじゃろ」

 メサが手をかざすと僕の手に描かれた刻印が淡く光り、疲れが一瞬にして霧散した。

 メサは刻印を通して魔力の補充や疲労の回復が出来る。そして、それ以上の仕事をする気はないらしい。

「もう、わかったよ」

 渋々、僕は持って来た人形を起動して指示を出した。

 人形たちはおもむろに動きだし、棒を土砂に突き刺す。引き抜かれた棒の先には魔術で固められた土砂が丸く引っ付いていた。土を掘るための魔道具で、安直だけど土堀棒というらしい。


 僕も続いて棒を土砂に突き刺し、魔力を込めて引き抜こうとするも――――抜けない。


 大きな岩でも吸い付いたんだろうか?

 棒を突き刺した周囲を蹴ってみるとすごく固い。

 魔術で少し砕いた方が速そうだ。


「ストップじゃ! ストップ!」

 メサが大慌てで駆けてきた。何か悪い予感でもあるのか顔色が悪い。

「ヤルトオモッテタゼ!」

「まだ何もやってないよ!」

 まだ詠唱のために一呼吸しただけだ。


「雷撃なぞ使ったら折角隠れてきた意味がなくなるじゃろうが!」

「雷撃って、前みたいな失敗はしないよ!」

「では何をするつもりじゃった?」

「えーと」

 音がしないように雷を落とす・・・のは無理か。だとすると、

「ちっさい雷球を作って溶かす?」

 沼を吹き飛ばしたのは大きすぎたのが良くなかったはずだ。

「却下じゃ!!」

 大声で反対された。良い案だと思ったのに。


「それにじゃ」

 そう言うとメサは棒を軽々と引き抜いた。棒の先には人形達と同じぐらいの土が固められている。

「あ、抜けた」

「抜けた、ではないのじゃ! 抜けているのは汝の頭の方じゃ、この棒は使った魔力の量に応じて土を引っ付けておる、つまり・・・」

「地面全体ヲ固メテ引ッ付ケテタッテワケサ!」

「うっ」

 通りで抜けなかった訳だ。


「ハット、こやつを見張っておれ」

「カー、仕方ネエナ」

 はーちゃんが夏の日差しを遮る。


「ホレ、キリキリハタラケ!」

「わかったよ、もう」

 魔力を少し抑えて土堀棒を使うと、一抱えぐらいの土が持ち上がった。

 魔力を流すことを止めると土が離れる。何度もそれを繰り返し、洞窟を塞いだ土砂を除けていく。

 僕と人形2体だけだと洞窟の入り口が見えるようになるまで数日掛かりそうだ。できればサラーサやカナミに手伝ってもらいたかったが、メサの事情でそういう訳にもいかない。

 まあ、理不尽な鍛錬には姉上のおかげで慣れている。これもその一種だと思えばなんてことはない・・・はず。


 山から吹いてくる涼しい風にはーちゃんがはためいた。

 昔、お忍びだったけれどセルバウルの山に兄上とハイキングに行ったことを思い出した。

 あの山と比べたら丘みたいなものだけど、今度みんなとハイキングに来るのもいいかもしれない。


 みんなと遊ぶためにもなるべく早く土砂を片付けよう。

 そう思って僕は気合を入れた。

「夕食の時間ぞ、帰るのじゃ!」

「日が暮れて来たしそうだね。後は人形に任せて・・・」

「何を言っておるのじゃ、持って帰るにきまっておろう」

「え゛」

「置いてなぞいったら、魔獣に壊されるか、見回りの兵士に見つかるか、最悪人形が魔物化するやもしれんのじゃ」

「つまり・・・」

「今日は持って帰って、明日また運んでくるのじゃ」

 僕は落胆した。まあ、疲労はメサに回復してもらえるから良いか。

「明日からはハットと二人で頑張るのじゃぞ」

「無理だよ!!」

 僕は一緒に来るようメサに頼み込んだ。

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