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幕間2 洗濯物泥棒(1)

 今日最後の講義が終わり、寮に帰る準備を始める。

 いつもだったら何事も全力で走り回っているようなカナミが、今日に限ってずっと大人しかったのが気になって声を掛けてみる。


「カナミ、なんか今日は随分と静かだったけど、体調でも悪かったりする?」

「お、おぅ、エリル。いや、その、体調は悪かないよ、体調は」

 カナミはそう言うけれど、なんだか動きがぎこちない。

「うーん、なんか顔が赤くない? 熱とかあるんじゃ・・・」

「いやいや、そういのじゃなくってな」

 カナミが後ずさる。


「どうしたの二人とも、何かあった?」

 サラーサが僕らを気にして声をかけてきた。

「いや、何でもねえよ、サラーサ」

 カナミが即座に否定する。


 と、カナミが僕の頭を掴んで耳元で囁いた。

「なあエリル、最近洗濯物って全部戻ってきてるか?」

「洗濯物? 全部戻ってきてると思うけど・・・」

 洗濯物は専用のゴーレムが巡回して回収と返却をしている。まあ、返却された洗濯物を全部チェックしてたわけじゃないから、実は戻ってきてないものがあるかもしれない。


「足りなくってさ」

 カナミの声が小さくなる。

「何が?」

「その、あれだ、・・・下着が」

 カナミの顔が赤みを増す。つまり制服の下は・・・


「本当に―――」

「どうせ部屋の隙間に落として洗濯に出し忘れたんでしょ、カナミの部屋って酷いから」

 僕が声を上げようとしたら、いつの間にか隣にいたサラーサが突っ込みを入れた。


「なっ、サラーサ!?」

「あとでカナミの部屋に行くわ」

「僕も手伝うよ」

 カナミの部屋は毎回ひどく散らかってるから、今回も大掃除になるだろう。


「いいって! 部屋は探したんだって、ぜってー無いから!」

「見て見ないと分からないでしょ、カナミっていい加減だから」

「でもな!」

「でもも、だってもナシよ。取りあえず見に行くから」

「あーもう、分かったよ! 少し片付けるからゆっくり来いよ!」

 そういうとカナミは小走りに帰って行った。


「まったくカナミは世話が焼けるんだから、でも本当に着ないで講義に出てたの?」

「たぶんそうだったんじゃないかな、今日は全然活躍しなかったし。とりあえず後で下着を貸してあげようよ」

 僕のはサイズが合うか怪しいけど。


 一旦寮の部屋に戻ってからカナミの部屋に向うと、中からドタン! バタン! とタンスが転げまわるような音がしている。

「カナミ! 来たわよ開けなさい!」

「ああもう! 早ええよ!」

 カナミの慌てる声がする。

「僕らのだけど下着も持って来たよ!」

「ああもう! 開ける、開けるから、そういうことを大声で言うなって」

 そう言って開いた扉の中は散々な状況だった。


「全く、また随分と散らかしたわね」

「いやこれは下着を探そうとしてこーなっただけでな」

「机の上にひっくり返ってる大皿、食堂の物だと思うんだけど、どうしてこんなところにあるのかしら?」

 サラーサの目が光る。


「えっとあれはだな、食堂からちょっと拝借してきただけで・・・」

「床に散らばってるケーキの欠片って、先日の夕食で出たケーキよね」

「えっとだな、その・・・」

「またいい加減なことを言ってごまかそうとして! どうせ夜に食堂から盗み出してつまみ食いしてたんでしょ! しかも部屋に放置してこんなに散らかすなんて!」

 サラーサの説教が始まった。


「悪かったって! 謝る、謝るから! ごめんって」

 謝り通すカナミ。

「サラーサ、カナミも反省してるみたいだし。話を進めようよ」

「もう、エリルは甘いんだから」

 サラーサは矛を収めてくれたみたいだ。


「カナミ、取りあえず下着を着ない?」

 知ってしまうと気になってしょうがない。

「サイズは合うかしら?」

 サラーサはカナミの胸をまじまじと見つめる。


「あ、ああ! ありがとうな、助かる」

 カナミは渡された下着を見比べる。

「下はいいとして、上はサラーサのでギリだな。ありがたいけどエリルのは返すわ」

「うん、まあ、そうだよね・・・・」

 そんな予感はしていたけど、面と向かって言われるとショックだ。


「えっと、少し話が変わるんだけど、下着の件、僕も一枚足りてないみたいなんだ」

 持ってくるときに確認したら13着しかなくて1着足りなかった。

「マジか、エリルもか」

「なにそれ、恐いわね。でも、そう言われると私もハンカチが1枚返ってきてない気がするわ。遅れてるだけかと思っていたけど・・・」

 盗まれたって考えるのはまだ早計かな。とりあえず一番ありそうなのは・・・・


「洗濯してるゴーレムが洗い物抱えたまま止まってるのかも」

 原因にイーリス寮長の顔が思い浮かぶ。

「寮長の奴がまたやらかしたってことか?」

「カナミ、その言い方はイーリス寮長に失礼よ。誰しも失敗することはあるだろうし」

 十分あり得そうなことだと3人とも納得した。


「この部屋の片付けが終わったらイーリス寮長に聞きに行ってみようか」

「そうね」「お手柔らかに頼むぜ」

 とりあえず部屋の片付けをすることにした。


 積みあがったゴミを退けると黒い虫が出てサラーサが悲鳴を上げた。こんな虫の何がそんなに怖いんだろう? そう思って見ていると不意に飛び上がった虫をカナミが投げたフォークで仕留めた。


「凄い!」

「へっへ、どんなもんだい」

「やめてよカナミ! それ食堂のフォークでしょ!!」

 そんなこんなで、片付けに思いのほか時間がかってしまった。あと、結局部屋からカナミの下着は出てこなかった。

前編と後編に分ける予定はなかったんだけど・・・


新しく加わる怪しい設定達も

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