表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/58

幕間1 街に買い物へ

 ある日の事、

「エリル、これから私達街へ買い物に行くんだけど、一緒に出かけない?」

 珍しくサラーサが遊びに誘ってきた。カナミも一緒だ。


「いいよ。でも二人して珍しいね、いつも購買で済ませてるのに。文具の安い店でも見つかった?」

「なによエリル、それじゃ私が安い文具にしか興味のないドケチみたいじゃない」

「ドケチだろ、前に一緒に行った街の文具屋は高いとか質が悪いとか散々だったじゃねーか」

 随分前にカナミの誘いで出かけた時の話だ。


「あの時最初に入った店は表通りの高い店だったし、次にカナミが引っ張り込んだのが路地裏の怪しい店だったからよ!」

「文具とか文字さえ書ければ問題ないだろ」

「カナミ、あなたも一流の魔術師を目指しているなら、不純物の入った道具が如何に危険か理解すべきよ」

「わーったよサラーサ先生、でも路地裏の飯屋は旨かっただろ!」

「まったく調子が良いんだから、それとこれとは話が別よ」


 寮から出て少し歩くと学園から出る門が見えてきた。

「今日は大通り? それもと路地裏?」

「ごめんエリル、街って言っちゃたけど行くのはちょっと違うところなの」

「じゃあ今日はどこへ?」

 門を出るとサラーサは町の方ではなく学園の塀沿いに進みだす。


「サラーサがこの前見つけてな、あの店の菓子はほんと格別なんだ、エリルを―――」

「僕を?」

「カナミ、私が話すから」

 二人のやり取りに何か不穏な空気を感じる。カナミが格別と評価するお菓子は、確か・・・


「そのお店は私達が入学したころに出来たみたいなんだけど、最近になってようやく品ぞろえが良くなったみたいでね、甘い物好きの学生の間では有名になってるお店なの」

 すれ違う学生が甘い香りのする袋を大切そうに抱えて帰っていく。


 僕の知っている店は交易所だ。保存の利く焼き菓子は置いているかもしれないが、あんな出店で扱うような丸カステラを売ることはやってないだろう・・・そんな僕の淡い期待はすぐ打ち破られた。


「いらっしゃいませ~、お持ち帰りですか~? それとも、中でお召し・・・って、あー! エリル様、エリル様じゃないですか!!」

 交易所の前に作られた出店からアンナが飛び出してきた。


 逃げ出そうと後ずさるも―――背後から羽交い絞めにされる。

「お待ちしていましたエリル様」

 ヴィルミアだ。


「ごめんねエリル。お店の人にエリルを連れてきたら割引してくれるって言われてね」

「悪いなエリル、今日の買い物が全品半額になるって言われちゃあな」

「ラムレス様、ゴナシ様、こちらが半額割引券です。今後もよろしくお願いいたします」

 手際よく二人に割引券が渡される。半額ぐらいで売り渡されるなんて酷い裏切りだ。・・・って交易所の商品が全品半額!? ちょっと採算度外視過ぎじゃないだろうか? できたら僕も欲しいレベルだ。


「ヴィルミア、僕の友達を賄賂で買収しないで欲しいんだけど」

「いえ、正当な依頼報酬です。入学当日以降、エリル様には店に全くお立ち寄りしていただけず、最近はお願いしていた定時連絡もお忘れがちなようでご心配していました。そんな折、偶然お二人がご友人だと伺いお願いした所存です」


「お店の名前が、名前だからね。聞いたらエリルの家の使用人だったていうから驚いちゃった。寮の扉の件といい普通じゃないとは思ってたけど、やっぱりすごい家の出だったのね!」

「エリルの家って軍の関係だと思ってたけど、軍人が下働きして商売もやってるのか。すげーな」

 カナミがヴィルミアに不敵な笑みを向ける。強そうな相手を挑発するカナミの良くない癖だ。


「えっと、彼女は家の使用人じゃなくて―――」

「エリル様酷いです。アンナはフィリアル様が嫁がれた頃から、エリル様の家に尽くしてきた使用人です!」

 いつの間にかアンナが僕とヴィルミアの間に割って入ってきていた。話しがややこしくなる。

「ええっと・・・」

「やっぱりそうなんじゃない。誤魔化さなくていいわよ」

「さすがセルバウルの使用人は一味違うな」

 サラーサとカナミが勝手に納得する。


「ねえ、エリル。半額で買うとしたらどれが良いかな?」

 サラーサが僕の手を引っ張って店の奥に連れて行こうとする。

 一瞬ヴィルミアがサラーサを恐ろしい顔で睨みつけた。

「ヴィルミア?」

「エリル様、何か?」

 僕が問いかけた時にはいつもの無表情に戻っていた。


「なんでもない」

 分かっていたことだ。人の多くは魔術師を忌避している。戦場に出て戦っていたともなれば、恨みを持つことも多々あっただろう。咄嗟の事だったし、手を出さず何も言わなかったヴィルミアの心情を汲んで今回は見なかったことにしよう。


 店の奥に置いてある手ごろな値段の商品を二人に勧める。

「この毛布とか僕が寮で使ってるけど、値段以上に高品質だからお勧めだよ! 他は、こっちの革のコートはおしゃれ着みたいなデザインをしてるけど、耐久性や防水性がばっちりで半額で買うならいいと思うよ」

 定価でも十分お買得な商品だ。しかも、どちらも軍用品だったりする。


「へー、いいわね、それ」

「このコート、すげーしっかりした作りだな」

 少し高めだけど、半額なら許容範囲内だろう。


「エリル様、それは・・・・」

「エリル様!! そんなに色々と高い商品を半額で買われたら赤字になっちゃいます! お肉が、またお肉が食べられなくなるのです!」

 ヴィルミアとアンナが目を白黒させる。これぐらいで赤字になる割引券とか、たぶんアンナが出した案だろう。ヴィルミアもいつもならその辺もうちょっと考えられただろうに。


 最終的にサラーサは僕の勧めた革のコートと文房具、カナミは毛布と革のコート、ケーキの類を半額で買った。

「お肉がぁーーー」

 アンナが絶望してぐったりしてるが、自業自得だ。


 案外荷物が多くなったため、ヴィルミアは荷物をチーチルに配送させると言ったけど、僕が手伝って3人で持って帰ることにした。

「エリル様、このようなことでお手を煩わすわけには」

「サラーサとカナミは学園に来て初めてできた親友なんだ。変な気は使わないでいいよ!」

 僕がそう言うとヴィルミアは複雑な顔をしたが、早々に承諾してくれた。


 帰り道、二人に聞いてみた。

「あの店にはまた行く?」

「えーと、そうねまた行きたいわ。恥ずかしい話だけど、私、セルバウルの甘いケーキが好きなのよ」

「そういえばそうだったね」


「オレは別にかな。あの甘いのは好きだけど、わざわざ行くのも手間だし、サラーサ先生んだぜ」

「もうしょうがないわね」

 いつの間にかカナミは買った丸カステラを食べていた。


「もし店でヴィルミアが変なことを言っても気にしないでね」

「変な事? たとえば、エリルが世界の運命を担うとか?」

「至高の存在だ、とも言ってたぜ」


「・・・言ってた?」

「前にエリルと知り合いだって話した時にね。店の名前を聞いた人には同じようなことを言ってたと思うわ」


 僕は口止めするため、すぐさま店に引き返した。

幕間って表現で良いんだろうか?

とりあえず、メサが加わる前の話です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ