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25話 非日常の始まり

新年あけましておめでとうございます。

今年もなにとぞ、よろしくお願いいたします。

 窓から朝日が差し込み、意識がはっきりしてくる。

 ゆっくりと起き上がろうとして―――体が動かないことに気が付いた。

 何か生暖かいものが僕に抱き着いている。


「へっ!?」

 慌てて目を開き布団の中を確認すると、一糸まとわぬ姿のメサが僕に抱き着いていた。

「サラ・・・私を・・・で・・・」

 何か寝言を言っている。


 腕に押しつけられるメサの体に何か硬い感触がある。

 見るとメサの胸元には一部が欠けた魔石が埋まっている。

 ネックレスの様なものかと思っていたけれど、体に引っ付いているみたいだ。


 メサが動いて僕の腕から頭が少し離れた。

 朝日が当たり、メサの口元が虹色の糸を引いて輝く。

「なっ―――メサ! メサ起きて! ヨダレが、ヨダレがひどいことになってるよ!!」

 じっとりと冷たい感触が左腕に広がっていた。


「んん、んぁ? なんじゃ? 朝食の用意ができたのか?」

 眠そうに目をこすりながらメサが起き上がると、

 布団がずり落ちてメサの小さな体が露わになった。


 僕は絶句した。


 その小さな体には無数の古傷が刻まれていた。

 褐色の肌にみみず腫れのように走る傷は何とも痛々しい。

 魔石が欠ける原因となっただろう袈裟懸け斬りの傷なんて、

 致命傷になるギリギリだったんじゃないだろうか?


 目を白黒させている僕を気にする様子もなく、

 メサは床に脱ぎ捨ててあった服を拾いはじめた。


「メサ、その傷―――」

 カーン コーン カラーン コローン

 タイミング悪く朝食の鐘が鳴った。


 コンコン!

「エリル、起きてる? 一緒に朝食に行きましょ」

 昨日よりも早く扉がノックされ、サラーサの声が響く。


 とっさに返事をしようとして、言葉に詰まる。

 メサのことは隠すべきだろうか?

 でも下手に話すとややこしい話しに巻き込んでしまうことになる。


「我のことなど気にせず出てやるとよい」

 そういうメサはベットの横で悠長に服を着ようとしている。

 開けた扉から丸見えになるけど、サラーサを待たせるわけにもいかない。

 もうなるようになるさ、僕は扉を開け放った。


「昨日はよく眠れた? って、あら・・・」

 部屋を覗き込むサラーサが目を丸くする。

「サラーサ、これはその―――」

 メサのことを説明しようと部屋の方を向くと、彼女の姿は消えていた。


「今日は昨日と違って全然準備できてないわね」

 言うが早いか、サラーサはどこからともなくブラシを取出し部屋に入ってきた。

「それと、エリルが寝ぼけて寝巻をよだれまみれにしても私は咎めないわよ」

 なぜか僕がやったと誤解されてる!


「これは違っ―――」

「早くしないと昨日みたいに慌ただしくなるわよ」

 振り返る間もなく背後に立ったサラーサに寝巻を脱がされる。


「ちょ、待って!」

「はい、服はこれでいいわよね」

 サラーサの方を向くと手際よく下着と制服を押し付けられた。


 いつの間に下着の場所を・・・。

 サラーサに振り回される形で身だしなみを整えられ、気が付くと部屋から出ていた。


(学長室の前で待っておるぞ)

 僕に一言かけ横を走り過ぎていくメサの姿が一瞬見える。

「うん、講義が終わったらすぐ行くよ」

 頭の中で響いた声につい返事をしてしまった。


「なにエリル、勉強会にすぐ行きたいとか、そんなに私のノートが待ち遠しかった?」

 サラーサは話しかけられたと思って返事をしてきた。

「えっ、いや、その、違う話で――――って、ああぁ!」

 しまった! 昨日何かを忘れていると思ったけれど、サラーサに言われていた字の書き取りを全くやってない。


「急に声を上げてどうしたのよ」

「えっと、その、ごめんサラーサ、アマリア学長から呼び出しを受けちゃって」

 とりあえず予定が入ったのは本当のことだ。


「アマリア学長から呼び出し? 大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫だよ」

 サラーサが心配そうに僕を見てくれて心が痛む。

「ならいいけど・・・じゃあ寮のエントランスで待ってるわ。出した宿題も忘れずにね」

「うん、あ、でも遅くなるかもしれないから、カナミが終わったら待たなくっていいからね」

「わかったわ」

 字の書き取り、講義の合間にやれば間に合うかな。。。


「エリル、話は変わるけど、今日の朝食は私にチョイスさせて貰ってもいい?」

 僕の後ろめたい気持ちを読んだようなタイミングで、サラーサが悩ましい要求をしてきた。

「えっ? それは――――」

「絶対、健康にはこっちの方がいいから!」

 サラーサの輝く視線が痛い。

「・・・じゃあ任せるよ」

 渋々承諾する。


 サラーサのチョイスした朝食は、予想通りにサラダとフルーツの山積みだった。

 アップルパイが一欠だけ入っているのはサラーサの優しさだろうか。


 まあ仕方がないか。

 サラーサの動きに合わせて僕も気合いを入れる。


 今日も講義を頑張るぞ、ファイト―


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「それじゃあサラーサ、また後で」

 最後の講義が終わり、サラーサ達と別れて学長室に向かった。


 学長室の前に来るとメサが姿を現した。

「よう来たな。では入るとするか」

 中に入るとアマリア学長が椅子に座って待っていた。


「ようこそノエインさん、あとメサも。お待ちしていました」

「アマリア、我はこやつの主ぞ。無下に扱うでないぞ」

 さっそくメサがアマリア学長に食ってかかる。


「先日はメサの妄言だと判断しましたが、本当の事ですかノエインさん?」

「えっと、はい。 助けて貰う代わりに主従の契約をしました」

 アマリア学長が疑わしげに僕の方を見る。

 表情は全く変わらないはずなのに、伝わってくる雰囲気は人のそれと変わりない。

 アマリア学長を見ていると魔術の凄さを実感する。


「メサ、あなたの契約はそういう性質のモノでは無かったはずですが?」

「我との契約はその辺の契約とは訳が違って日々成長しておるのじゃ」

 メサが胸を張って答える。


 アマリア学長が少し考え込む。

「これは再度検査する必要がありますね」

「まて、今のは嘘じゃ。こやつのと契約はちょっと趣向を凝らしてみただけて、なにも変わっておらぬ」

 メサは早々に折れた。


 アマリア学長が僕の方を向く。

「ノエインさん、体に異常はありませんか? メサに何か強制されたりしていませんか?」

「ええっと、特にはないです」

 メサに何かを強制された憶えはない。そのはずだ・・・・


「メサ、ノエインさんとの契約を破棄することは可能ですか?」

 アマリア学長から想定してた問いが来たが、

「嫌じゃ、破棄する気はないぞ」

 あれ、そういう話の予定だったっけ・・・?

「メサ、これは好き嫌いの話ではありません。可否の話です」

「アマリア学長、僕も今はメサとの契約を破棄する気はないです」

 すかさず助け船に入る。

「ノエインさん・・・・わかりました。この話はここまでとします。ですが、もしなにか異常があれば直ちに契約を破棄してください」

 一瞬間があったが、とりあえず事なきを得たみたいだ。


「さて、本題ですが」

「本題?」

 契約をどうするかが本題じゃなかったんだ。


「明日よりメサを転入生としてノエインさん学年に加入させます」

「僕の学年に?」

 寝耳に水だった。そもそもメサは既に僕らの出席する講義に同席していたはずだ。


「メサの名前を表に出すと色々と問題が発生するため、代わりの名前を用意します」

「さすがに名前を変えただけじゃ白の会とかにばれちゃいますよ、絶対!」

 この前の衝突を思い出す。

 前回メサが怪我をしたのは僕が余計なことをしたからだけど、今後同じ事が起こらないとは言い切れない。


「白の会にはアマリアが話を通しました。彼らの怨恨は理事長の職務怠慢が招いた物です。不満が解消されたわけではありませんが、今後は手を出さないとの話になっています」

白の会が襲ってこない? ってことは心配していた問題はなくなることに?

 どういう話になっているのかは気になるけれど。


「じゃあメサと普通に講義を受けられるんですね!」

「元より講義に出ることは許可されています。ただし、今のように名前を呼んだり、不用意な黒魔術の使用は禁止とします」

「白の会が襲ってこないのに、他に何か問題が?」

「メサには怨恨以外でも狙われる理由が数多くあります。なので、名前を伏せるのは勿論のこと、正体を看破されるような行動は慎んで下さい」

 確かにその通りだ。メサの能力が悪用されると恐ろしいことになるだろう。


「加えて、ノエインさんにはメサの護衛をお願いします」

「学生の僕が護衛を?」

「メサから魔力の供給を受けていますね? 事前に提出いただいた資料からセルバウル式の剣術もそれなりの腕だと拝見しています。一時的ですが、メサの支援魔術があれば学生など元より、熟練の兵士とも対等以上の勝負が出来ると判断します」

 アマリア学長が僕に真剣な眼差しを向ける。


「それは・・・そうなのかな、メサ?」

「汝、下僕のくせに我の力を信じておらぬのか?」

「うーん」

 半信半疑かな。

「そこは主人を立ててすぐに返事をするところじゃろ!」

「そうだね、じゃあメサの力と僕の腕前を信じるよ」

 ちょっと照れくさい。

「ハッハー、半分程度ノ信用ダトヨ。妥当ナ線ダナ!」

「ハット、うるさいぞ。これは100%我の力に頼ってしまっている下僕の照れ隠しなのじゃ!」

「あははは・・・メサがそう思うならそういうことでいいよ」


「こちらがメサの転入届の写しになります」

 手渡された書類を受け取る。

「それではノエインさん、メサをお願いします」

「わかりました。絶対メサと楽しい学園生活を送ってみせます」


 そうして、僕とメサの関係は始まった。

 波瀾の学園生活が。

なんとか前半部完了です。


ようやくエリルとメサの大活躍がはじまる・・・かな。

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