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22話 調査資料

 カーン コーン カラーン コローン


 鐘の音で目を覚ます。朝食の時間だ。

 医務室で怠惰な生活を送ったせいで、ベットから出るのががすごく億劫だ。

 もぞもぞと布団の感触を堪能しつつ、昨日読んだ事件の調査資料を思い返す。


 メサは南方にある樹海近くの出身だったが戦乱で国が滅びてしまったため、流浪のキャラバンに同行してゴルグレーまで来たらしい。学園への入学は本人の希望で、高い魔力量と黒魔術への素質が認められて特例ながら学園の初等部に編入された。


 ただ、黒魔術は犯罪への適性も高く、当時あった大派閥、黒の会に目をつけられることになった。入学初期から勧誘―――というより囲い込みにあって、衣食住の提供に加え身元の保証まで行われていたらしい。


 事の発端はメサが突然、黒の会の行っていた違法薬物の販売や使い魔の虐待を暴露したのが原因だ。メサは動物の声を聞くことができるらしく、記録された証言でによると使い魔達の助けを求める声に答えたとか。


 薬物や虐待は犯罪としてグレーな部分が多く、上位の貴族が関わっていたこともあって長く放置されていた問題だったらしい。しかし、メサの集めた有力な証拠に加え、暴露を行った現場に偶然第一王子が居合わせたこともあって、犯罪に関係した多くの貴族が逮捕され派閥も解体された。


 問題はその後で、第一王子が帰ってしまうと黒の会以外に取り立てて後ろ盾のなかったメサは、すぐさま残っていた残党から報復を受けることになった。周囲への被害が拡大するまで事件の発見が遅れたのは、襲撃場所が衛兵の巡回ルートから外れていたからだと資料には書いてあるが怪しいものだ。


 そんな状況下でメサの危機を察した動物(使い魔)達が集まり戦いに加わった。メサが暴露で救った数以上の使い魔が街から向かったらしいが、メサの魔術を以ってしても魔術師との力の差は歴然で、彼ら(使い魔達)は次々に傷つき死んでいくことになる。


 メサは彼ら(使い魔達)を救うために必死に魔術を行使したらしい。しかし、今になっても回復魔術がまともに使用できない彼女に蘇生魔術を扱えるはずもなく、結果―――彼ら(使い魔達)はアンデットと化した。襲撃者の使用した毒も結果に影響を与えた疑いもあるらしいが。


 問題はここからで、アンデット化した使い魔達の攻撃で負傷した襲撃者が、その仲間入りをした。通常、死ななければアンデット化はしない、余程、魂が魔術で汚染されない限り。


 次に、襲撃場所周辺に広がる畑の植物がモンスター化した。その植物モンスターは毒と呪いを振りまき、瞬く間に周囲の畑に増殖したらしい。騒ぎに気付いた軍が緊急出動したが、その速度はかなりのもので、穀倉地帯が全滅する一歩手前まで広がってしまい、その後しばらくは食糧難が続いたとか。


 この事件で使い魔を失った魔術師の一覧にフィーア先輩の名前もあった。

 メサとは同級生だったらしいが、今も恨んでいると考えるのが妥当だろう。

 この調査資料、アマリア学長はしれっと僕に渡してくれたけれど、何かとんでもない爆弾を抱えた気がする。


 意を決してベットから起き上がる。と、

 コンコン!

 扉がノックされた。


「エリル、起きてる?」

 サラーサだ。

 昨日は夜遅かったから部屋に手紙を入れておいたんだけど、さっそく読んでくれたみたいだ。

「起きてるよ! 今開けるから―――わっ」

 扉を開けるとサラーサが飛びついてきた。


「大丈夫!? 怪我はない? 昨日の夜はどこにいたの? 魔力が戻ったって書いてあったけど本当?」

 矢継ぎばやに質問される。

「サラーサ、僕は大丈夫だから落ち着いて!」

「セルネル先生から逃げ出したって聞いて探したのよ! 山で爆発とか起こるし、心配したんだから!」

 そう言うサラーサは少しやつれて見える。

 山の爆発は今日のトップニュースだろう・・・


「あー、うん。心配かけてごめん」

「帰ってきたのならすぐに声を掛けてくれたらよかったのに! 軽く寝てたから手紙に気づけなかったわ」

「さすがに深夜だったから気が引けて、今日も講義があるし―――って、ゆっくりしてたら遅刻しちゃうよ! 取りあえず朝食に行こう!!」

「そうね・・・詳しい話は後で聞かせてもらうわよ!!」


 食堂へ向かうとカナミと鉢合わせた。

「サラーサが遅めに来るなんて珍しいな。って、おお! エリルじゃん、昨日は病室を抜け出し たって大騒ぎだったけど、何? 元気になったのか?」

「おはようカナミ。まあ色々とあってね、元気にはなったよ。詳しい話はまた後で」

 多少遅刻したって問題ないって言うカナミの甘言を跳ね除け、僕とサラーサは急いで朝食を取りに向かう。


 バイキング形式の朝食は、パンの代わりにレモンパイが並んでいたりと相変わらず突飛なメニューをしている。横でサラーサが野菜! 野菜! と繰り返すのを聞き流し、山積みにしたレモンパイを頬張る。絶妙な酸味と甘さのバランスに涙が出る。


 たった数か月前に始まった日常だったけれど、とりあえず無事に戻ることができてその有難味を再確認した。

忙しすぎてかなり遅れた感じに、年内には前半部を終わらせたい。。。

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