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20話 支援魔法(2)

 歩き出して数刻後、麓から無数の足音が向かってきた。


「ウゴクナ」

 指示に従って立ち止まる。

 間を置くことなく学園の兵士たちが姿を現した。


「もう少しで爆発現場だ、警戒しろ!」

「犯人の痕跡を見逃すな」

 声を上げる彼らは僕に気を向ける様子もなく脇を走り去っていった。


「ヨシ、動イテイイゾ」

 聞きたいことは山ほどあるけれど、

 今はメサを助けないといけない。


 暗くぬかるんだ山道を急ぐ。

 やがて学園の門が見えたが・・・

 門は閉じられて兵士が警戒している。

 姿を消しているからと言って、そう簡単に入り込める隙間はなさそうだ。


「フィールド・アナライズ」

 はーちゃんがまた何かを始めた。

「ヨシ、トオルゾ」

 無理だと言おうとするも、声が出ない。


「アノ見張リノ背後ニタテ」

 言われたとおりに渋々兵士に近づく。

 目の前にいるのに見えていないらしい。


 そっと兵士の背後に回ると、はーちゃんが魔術を唱えた。

「サイコ・スタマァク・ペイン」

「んん? あっ、うっ・・・」

 兵士は一瞬首をかしげた後、腹を押さえた。


 しばらくするとヨタヨタと移動を始め、青い顔をして門を叩くいた。

「す、すまない。は、腹の調子が・・・少し交代してくれないか」

「おい、この非常時に何言ってんだ! クソならそのへんで―――」

 門の向こうから容赦のない返事が返ってくる。

「マーシー」

 間髪入れずはーちゃんが魔術を唱え、怪しい光が門の向こうに吸い込まれた。


「そ、そう言わずに頼む」

「・・・しかたねぇな、貸しだぞ?」

 声の様子が変わり扉が開いた。

「イマダ、入レ」

 中に駆け込む兵士の後ろに引っ付いて門をくぐる。


 トイレに入って行った兵士に心の中で詫びつつ、頭の上のはーちゃんに恐怖を覚えた。

 なんだろうか、爆発に加えてさらに罪を増やした気がする。


 これほどの力があるのにメサが僕を必要とした理由は何なんでだろうか?

「ココダ」

 色々と考え事をしているうちに、目的に地付いたようだ。

 学園本棟の地下にある部屋で、扉には大きな注意書きがしてある。


<許可なく立ち入ったものには死を賜る・理事長>

 これは・・・

「キャンセル・システム・マジック」

 僕の理解が及ぶ前にはーちゃんが魔術を放つと、何かが割れる音が響き渡った。


「ヨシ入レ」

 全力で首を振り拒否する。

「ソイツヲ死ナセル気カ?」

 有無を言わせぬ指摘が入る。抱えたメサは未だに起きる気配はなく、呼吸も浅い。

 できれば医務室に向かいたかったが今更引き返すわけにもいかず、覚悟を決めて部屋に入る。


 部屋の中には本や薬品が乱雑に転がっていた。

 造りかけのどこかで見たような人形も数体あり、工作・・・研究室のようだ。


 と、正面の机に人形―――アマリア学長が座っていることに気が付いた。

 その目はまっすぐに入り口、つまり僕らの方を向いている。

 そっと身をかがめるも・・・視線が追ってきた。

 どうやら見えているらしい。


「非常時用のマニュアル対応でしたが・・・・本当にここへ侵入者が来るとは予想外していませんでした」

 言葉と共に立ち上がる。

「しかし、ずいぶんと大それたことをしましたね、ノエイン・エリルさん。魔力を失って医務室で養生していると聞きましたが・・・まさかメサを捕獲した上に理事長の研究室にまで侵入するとは」


 重犯罪者にされそうな流れだけど、魔術で声が出なくなっているせいで僕には全力で首を振る以外のすべがない。

「アマリア学長、コレニハ深イ訳ガアッテナ!」

 はーちゃんが声を上げるが、

「首を振れば助かると? 何が狙いか知りませんが、無事に帰れるとは思わないことです」

 全く取り合ってもらえない。


「駄目カ・・・サイレンス・キャンセル」

 はーちゃんが諦めて僕に掛かっていた魔術を解除する。

「えっ? 駄目って、なにが!?」

 声が出るようになった。


「不法侵入に機密への接触、暴行、誘拐、山での爆発も含めると・・・死―――」

「待って! アマリア学長待ってください! これには深い訳があって!!!」

 今にも襲いかかってきそうなアマリア学長を両手で制止する。


「はーちゃん! ちゃんと説明して!」

 説得をお願いするも、

「奴ニオレノ声ハ聞コエナイヨウダ。オマエガ説明シロ」

「え゛・・・」

 僕だけでどう説明しろと。


「はーちゃん? 他に侵入者が?」

 アマリア学長が周りを警戒する。

「あ、あの、はーちゃんていうのはこの魔法帽のことです。ちょっとした事故でメサが気絶してしまって、はーちゃんの指示でここに・・・」

 声が震える。事によっては国の一大事になりかねない。


「魔法帽が指示を? 挙動不審な点から魔術によって洗脳された可能性があると判断します」

 問題が増えた。

「僕は至って正常です!」

「正気を疑われると誰しもそう答えます」

 確かに。


「メサとはどこで出会いましたか?」

「森です。魔力のことで僕が自棄を起こして駆け込んだ先に」

「偶然だと?」

「メサの方が僕を見つけたみたいです。魔力を失った僕はメサに言われるまま契約をして、魔術の試し打ちを―――」

 アマリア学長が目を見開き、僕の言葉を遮った。

「メサと契約したと、本当に?」

「はい、ここに契約した時に出来た刻印があります」

 腕を晒す。


「―――確認しました、確かに契約印です。しかも・・・これは未解明の古代語で書かれています」

 殆ど感情を表さないアマリア学長から驚きが伝わってくる。

魔力(マナ)を共有している様ですが、効果は未知数と判断。ノエインさん体調に問題は?」

「特には無いです―――って、それより早くメサを治療しないと!」

「本件を重要事項と規定。取りあえず急ぎメサを治療します、付いて来てください」

 とりあえず治療してもらえるようだ。


 ホッと胸を撫で下ろしつつ、アマリア学長を追いかけて部屋の奥へと向かった。

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