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16話 喪失(1)

 鎧が擦れる音をたてながら誰かが僕に近寄ってくる。

 その足音は僕の横で止まると声高らかに宣言をした。

「開戦だ! 魔術師どもを皆殺しだ!」

「!!? 待ってください兄上!」


 慌てて飛び起きると、見知らぬ部屋のベットの上だった。

 兄上の姿はない。

「あれ?」

 どうやら夢だったみたいだ。


 随分と寝ていたみたいで、倦怠感がひどい。

 部屋には薬品の怪しい臭いが漂っている。

「ここは・・・」


 僕が困惑していると、部屋の扉が開きサラーサが入ってきた。

「あ、ようやく目を覚ましたのね! 丸二日も寝たままで心配したのよ!」

「えっ―――丸二日も!! 本当に!?」

 意識を失ったのはついさっきのように思えたけど、いつのまにそんなに経ったんだろう。しかし、それだと・・・


「あ、兄上から連絡は?」

 今にもチーチルが突入して来るのではないかと窓を見ると、金細工の格子が見えた。

「お兄さんから? 特に連絡とかはなかったと思うけれど・・・取りあえず先生を呼んでくるわね」

 サラーサの答えにひとまずホッとする。

 もしこの事が母上や兄上に知られていたら、今頃大騒ぎになっているはずだ。


「セルネル先生、エリルが目を覚ましました!」

 静かな部屋にサーラサの呼び声が響く。

 そう言えば医務室の先生は怖そうな人だったっけ・・・


 ほどなくしてやってきたセルネル先生が僕の額に手を触れる。

「顔色は少し悪いけど熱はなしと、特に問題はなさそうね」

 そう言いつつセルネル先生は僕の両頬に手を添え、まじまじと顔を覗き込んできた。

 気まずくなって視線を下げると・・・溢れんばかりの胸が目に飛び込んできた。


「あの・・・」

「ひとつ確認のため検査をします」

 声を上げようとするも、鋭い声に遮られる。

 何処からか取り出された水晶付きの杖が僕の額や胸に押し付けられ、触れられた箇所にひんやりとした感触が広がる。


 所在なく扉の外から心配そうにこちらを伺うサラーサに目を向ける。と、サラーサの背後にあった棚が目が留まった。瓶詰されたカエルやヘビの標本に脈動する臓器、無数の蠢く目玉。と、瓶詰の目玉と目が合い僕は慌てて視線を逸らす。

 うっすらとだけど扉の向こうからは血の臭いすら漂ってくる。


「―――すみません。体調は大丈夫なので、もう寮に戻っても良いですか?」

 たしかセルネル先生は重傷者以外は医務室に来るなって言っていたはずだし、すぐに追い出してくれると思ったが・・・


「ノエインさん、あなたにはしばらく入院してもらうわ」

「そんな!! じゃなくて、まだ何か問題が!?」

 セルネル先生の表情に影が差す。

「あなた、今魔術を使えて?」

「それはもちろ・・・あれ?」

 言われて気が付いた。いつも感じる不思議な力が今は感じられなくなっている。

 そっと指先に力を込めてみるも、静電気すら起こせそうにない。


「あれ、おかしいな」

 少しムキになる僕に先生が声を掛ける。

「どうやら魔力(マナ)が枯渇してしまっているようね。何かあると危ないから魔力(マナ)が回復するまで病室から出ないように。後の説明は・・・サラーサさんに任せるわから、ちゃんと説明しておくように」

 そう言うとセルネル先生は部屋から出て行った。


魔力(マナ)が枯渇するなんて、随分と無茶したのね」

 サラーサがベット横にやってきた。

「そんなつもりはなかったんだけど・・・あの後ってどうなった? 彼女、怪我をしてたはずだけど」

「あの後すぐに姿を消してしまったわ。怪我の具合もわからずじまいよ」

 結構な怪我だったと思うけれど、大丈夫だろうか?

 初級回復魔術の講義に参加していたことを思うと、自身で十分な治療ができるとは考えにくい。


「彼女については、理事長から今後関わらないようにって直接言われたわ。なんでも国家機密になるらしくって、下手に関わると退学処分にするぞって」

「国家機密? 彼女が?」

 ステンス先生はその辺りの事は何も教えてくれなかったけれど・・・先生たちが余り関わってこなかったのはそれが原因だろうか? 白の会はどこまで知っていたんだろう?


「それと、彼女が関わったことを隠蔽するために、今回の事件は白の会の学生2人が私怨でエリルを襲ったことになってるわ」

 そんなことになっていたんだ・・・

「白の会はそれで納得を?」

「会長にも理事長から話があったみたいで、しばらく活動を自粛するって」

 フィーア先輩はさぞかし不服だろう。

「そういうことだからエリルは自分がどういう状況かよく覚えておいてね・・・」

 サラーサが悩ましげに僕の顔を見る。


「というと?」

「過激な男子学生2人が1年生の女子を、見通しの悪い森に連れ出して襲ったってことになっているわ。襲われた女子はそれから2日も講義に出てないのよ」

「―――――マジで!?」

「一応、貞操は守ったって伝えてるけど・・・」

「うわぁー」

 僕は頭を抱える。一刻も早く復帰しないと大変なことになる。

 こんな話が兄上の耳に入ったら学園を襲撃して来てもおかしくない。


「学外にはまだ話は伝わってないから、変な噂が出回る前に体調を戻した方が良いわ。ただでなくてもここのところの騒ぎで勉強が遅れてるのに、留年しても知らないんだから」

「あー、うん。ごめん」

 サラーサには色々と迷惑を掛けてしまって頭が上がらない。


 と、昼の終わりを告げる鐘の音が響いた。

「次の時間は講義があるから行くね。それじゃあまたあとでね、エリル」

 そう言うとサラーサは部屋から出て行った。


 兄上になんて説明をしようか悩み悶々とする。

 部屋から出る訳にもいかずベッドに横になると、かなり長いこと寝ていたにも拘らず睡魔が襲ってきた。

主人公はボクっ娘です。

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