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15話 衝突

「おい1年、今日は奴を見たか?」

 講義が終わって教室から出ると白の会の上級生が声を掛けてくる。

 ここの所ずっとこの調子だ。


「見てませんよ。それにしても上級生ってそんなに暇なんですか? そんな風に監視していたら、彼女も警戒して姿を現さないと思うんですけど?」

 嘘だ。例の彼女は僕の気も知らずに今日も講義に出席している。

「これも学園自治のためだ! いいな、見つけたら必ず教えるんだぞ!!」

 そう言うと上級生は去って行った。


「感じ悪いね」

 遠ざかって行く上級生の背を見送っていると、サラーサが寄ってきた。

「白の会に協力しないなら、ステンス先生の用意してくれた魔封じを使って早々にその見えない学生と話してみるべきだと思うわ。最近のエリルは勉強に身が入ってないし・・・このままいくと赤点になるわよ?」

 確かに色々と気にしているせいで講義の内容が頭に全く入っていない。


「彼女が姿を隠さずに講義に出てきたら、上級生は襲いかかると思う?」

「カナミじゃないけれど、現行犯じゃなかったら大丈夫なんじゃない? 魔術の使用以外に問題があるならどうなるかわからないけど・・・」

 フィーア先輩の様子だと問題は山積状態だ。


 そう言えばあの大きな魔法帽が目印の一つらしい。

「姿を消したのが9年も前なら見た目も変わっているだろうし、目立たないように変装したら気が付かないかも」

「いい案かもね。さすがにエリルの横にいたら疑われそうだけど、私やカナミならまだ目を付けられてはいないだろうし、いけるんじゃない?」

 案外なんとかなる気がしてきた。

「じゃあこの案でやってみよう。このままズルズルいって赤点を取るわけにいかないしね」

 ここでの成績は国の威信に直結して、僕個人の問題では済まない。


「そうと決まったら実行する日の講義の代筆をカナミに頼んでおくわね」

 サラーサには悪いけれど、上級生の目を掻い潜るため講義時間中に2人で仕掛けることにしていた。


 彼女は興味のない講義中は、よく正門周辺の林で昼寝をしている。

 よく同じ場所に居るのを見かけるから、お気に入りの場所なんだろう。

 危ないように思えたけれど、姿を隠す魔術は魔物にも作用しているみたいで、無防備に寝ていても襲われないみたいだ。


 とりあえず、ステンス先生から渡された魔封じをその場所に仕掛けることにした。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 当日、ステンス先生の部屋で白の会の尾行を撒いて正門周辺の林へとやってきた。

 準備を整えて待つこと数刻、僕に見えているとも知らずに例の彼女は意気揚々とやってきた。


 サラーサには全く見えていないみたいなので、僕が魔術の発動タイミングを見計らう。

 と、彼女が無警戒にいつもの場所に寝転がった。

「今だ!」

「今ね!」

 合図と共に魔力が流れ、魔封じが作用する。


「!?」

 周囲の空気が変わり、彼女が飛び起きる。

 帽子を深くかぶっているせいで顔が見えないが、綺麗な白い髪が風になびいている。


「あの!」

 ようやく問題を解決できる。そう思って声を掛けたとき、

「思った通りだ! 姿を現わしたぞ!」

 草むらから学生が2人ほど飛び出してきた。

 おそらく白の会のメンバーだ。撒いたと思ったのにつけられていたみたいだ・・・


 驚いた彼女は弾かれるように逃げ出した。

「あっ、待って!」

「逃がすな!」


 魔封じが効いているのか、彼女が姿を消す様子はない。

 僕が白の会の注意を引いて、サラーサに僕に姿が見えてしまっていることを伝えてもらおう。


 そう思って足を止めた一瞬のことであった。

 氷の矢が彼女に突き立ち、赤い鮮血が散った。

 白の会の学生が無防備になった彼女に魔術を放ったのだ。


「やったぞ! 捕まえろ!」

 その学生は声を上げ、倒れた彼女に駆け寄ろうとする。


「やめてください!」

 僕は魔術を放った学生の前に立ちふさがった。


「邪魔をする気か下級生!」

「何の警告もなく背後から攻撃するなんて、それが風紀を守る白の会のやることですか!」

 負けずに言い返す。


「そこを退け!」

「僕は彼女と話すために来たんです! 横槍を入れただけじゃなく、無力になった人間を痛めつけるのがこの学園の自治だっていうんですか!?」

「ぐっ」

 氷使いの学生は言葉に詰まる。


「1年ごときに何をやってる! 押し通るぞ!」

 そう言が速いか、もう一人の学生が魔術を使った。

「ウオーター!」


 宙に水球が現れ、僕らに向かって放水を始めた。

「エリル! 危ない!」

 すぐさまサラーサが間に入って魔術障壁を展開するも――――

「きゃぁああ!」

 あっという間に耐え切れなくなり吹き飛ばされた。


「サラーサ―! よくもやったな!」

 サラーサのおかげで直撃を免れた僕はすぐさま反撃に出た。

「サンダーボルト!」

 水球に雷撃が命中して消し飛ばす。


「1年のくせに刃向う気か、ただではすまさないぞ! アクアサーペント!」

 水使いの学生が再び魔術を使い、水で巨大な蛇を形作った。

 蛇は体をくねらせ勢いよく水を吹きかけてきた。


「手を出したのはそっちが先だよ! クオーターボルト!」

 僕の放った雷撃は蛇が吹きかけてきた流水を打ち砕き、その体を半壊させた。しかし、すぐに残った部分が集まって少し小さくなったが再び蛇を形成した、破壊するには威力が足りなかったみたいだ。


「くそ、この1年なかなかやる! お前も手を貸せ!」

 水使いの学生が茫然としていた氷使いの学生に声を掛ける。


「ええいままよ! リメイク・アイスドラゴン!」

 加えられた魔術によって蛇が凍り膨らみはじめ、やがて巨大な氷のドラゴンへと変身した。


「お前が悪いんだからな!」

 氷使いが叫ぶと、氷のドラゴンは咆哮を上げ襲いかかってきた。

 大きな腕を振り回し、僕を薙ぎ払おうとする。


 咄嗟に後ろに跳んで躱す。

 続いて2度3度、腕を振りかぶってくるのを小刻みに動いて躱す。

 大降りだから訓練で受けた姉上の剣技と違って見切りやすい。


 と、氷のドラゴンが一回転して尻尾を叩きつけてきた。

 尻尾を蹴りつけて跳躍し、少し距離を取る。


 できれば彼女から離れた位置に誘導したかったが、彼らもわかっているらしく誘いに乗ってくれそうにない。

 次に氷のドラゴンが飛びかかってきたら、彼女も攻撃範囲に入ってしまう。


 覚悟を決め、詠唱を始めた。

「させるか! 吹き飛ばせ、アイスブレス!」

 氷のドラゴンが暴風雪のようなブレスを吹きかけてくる――――が、僕から放出される力がそれを霧散させる。


 反撃だ! 全力の一撃を放つ。

「フル・ボルト!」

 光りが辺り一帯を染め、轟音が耳を貫く。

 一瞬にして氷のドラゴンは粉砕され、砕けた氷で辺り一帯が真っ白になった。

 巻き添えに砕けた木々が空から降り注ぐ。


 やった! そう気を緩めた途端、悪寒が体を貫いた。

 続いて襲ってきた眩暈に膝をつく。

 前も全力の一撃で体調が悪くなることはあったけど、ここまでじゃなかったのに・・・

 倒れかけた僕を駆け寄ってきたサラーサが抱き留めてくれる。何かを叫んでいるが全く聞こえない。怪我をした彼女を連れて逃げてほしかったのだけど。


 顔を上げると白の会の学生はまだ健在なようだ。

 煙の向こうから興奮した様子で近づいてくる。


 せめて何とかしたいと思うけれど、体は指一本として動いてくれそうにない。

 こんな話に巻き込んでしまいサラーサには悪いことをしてしまった。

 彼女も悪戯に傷つける結果になってしまったし。


 そう諦めかけた時、僕らの横を白い髪をなびかせた彼女が駆け抜けた。

 慌てて白の会の学生が捕まえようとするも、その手をすり抜けて逃げていく。

 幻影だ、魔封じの効果が切れて力を取り戻したみたいだ。


 追いかける白の会の学生の姿が見えなくなった頃、何処からともなく声が聞こえた。

「受けた恩はいずれ返そう」

 今回の件は僕が発端なんだけど・・・そんなことを思いつつ僕は意識を失った。

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