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11話 始業式 下

「以上で始業式の挨拶を終わりとします」

 ようやくアマリア学長の長い話が終わった。


「続いて医務室からの連絡になります」

 アマリア学長に替わって白い法衣を着た女性が壇上に上がった。


「新入生のみなさん初めまして、医務担当のブラッド・セルネルです」

 白い法衣から溢れんばかりの大きな胸につい目が行ってしまう。


「魔術師はいついかなる時も魔力が全ての弱肉強食、安全・安心とは無縁の世界です。よく勘違いする新入生がいますが、当医務室は重傷者用で軽い怪我などは治療を行う対象となりません。学園内は魔物も発生するため怪我をする学生が絶えませんが、切り傷程度は早々に回復魔法を覚えて自力で治してください」

 さわやかな笑顔でセルネル女医は恐ろしいことを言い切った。


「次に在学生の方々、未だに下らない理由で医務室を訪れる方が多いですが、重傷及び重体、未知の呪いなど深刻な状態以外は受け付ていません。もし、間違ってこられた方には重傷がどの程度か身を以て体験していただくので、よく理解しておいてくださいね」

 在学生の男子学生は歓喜の声を上げている。そんな要素は一切なかったはずだけど・・・


「サラーサやカナミは回復魔法って使える?」

 周囲の新入生たちも話の内容にざわついている。


「一応勉強しているけど、実用まではいってないかな・・・」

 サラーサの顔も少し引きつっている。


「使えないけど、死にそうなら助けてくれるみたいだし大丈夫だろ」

 カナミの反応は軽い。怪我とかしない自信があるんだろうか。


「最後に生徒代表の挨拶になります。」

 今度は学生の一人が壇上へと上がった。


「わたくし、サンラーク・フィーアが学園生徒を代表してご挨拶をさせていただきます。新入生の皆様、狭き門である当学園へのご入学おめでとうございます。この叡智集まる学園で多くを学び、共に魔術の道を究めましょう」

 壇上のフィーア先輩にはライトが当たっているが、それとは違った光を体から発しているように見える。


「あと僭越ながらご忠告を、先の決闘のように先生方は学内での魔術行使に寛容です。しかし、あくまでここは勉学の場、無駄に騒ぎを起こす魔術や身の程をわきまえない立ち振る舞いはわたくし達【白の会】が粛清します。以後、よく覚えておいて下さい」

 こちらも優しそうな顔をして言うことがキツイ。


「続いて在学生の皆様、新しく禁止した魔道具や魔術を掲示しているので確認してください。告知しましたので知らなかったなどと言い逃れしないように」

 風紀の取り締まりは学生がやっているみたいだ。


「どんなことが粛清の対象なんだろう・・・というか、粛清って言い方きつくない!?」

 二人を振り返ると


「【白の会】は学内最大派閥(グループ)で、逮捕権まであるらしいわよ。騒ぎを起こさない限りは優しい上級生らしいけれど、従わない相手を集団で襲ったり、監禁までするって悪い噂を聞いているわ」

 とサラーサは不安そうに話す。


「こういうのはバレなきゃいいんだよ、バレなきゃ!」

 カナミは気に留めた風もなく答える。


「わたくし達の活動に異を唱える方がおられましたら、いつでも決闘の申し込みをどうぞ」

僕らの方を向いてフィーア先輩が釘を刺す。軽口が聞こえたのだろうか。

 僕とサラーサは思わず身を縮めるも、当のカナミは気にする様子もなく笑っている。


「ええっと・・・話はおわった?」

 そんな中で壇上のフィーア先輩にイーリス寮長が恐る恐る話しかけた。

「ええ、終わりました。イーリス寮長、後はお願いたします」

 軽い会釈をしてフィーア先輩は壇上から下がる。


「先のお話の件、わかっていただいていますね? 今後のためにもやり過ぎないよう、ご配慮をお願いします」

「ええっと・・・善処します」

 イーリス寮長が身を逆立てる。

 フィーア先輩が苦手みたいだ。


「おほん!それではこれから恒例の新入生歓迎パーティを始めたいと思います!」

 気を持ち直してイーリス寮長が壇上で胸を張る。

 これまでの雰囲気と打って変わって微笑ましい限りだ。


「新入生のみんな! 入学おめでとう!」

 イーリス寮長の掛け声と共にあちらこちらで魔法陣が起動し、色とりどりの光が宙を飛びかった。壁に歓迎の文字が描かれ、天井を無数の使い魔が飛び交う、光のしずくが雨のように降り注ぎ、ちょっとした吹雪の中に居るようだ。



「すごい!」

 つい感動が口をついて出た。


 しばらくすると巨大なゴーレムが料理の乗ったテーブルを運んできた。

 学生達の歓声があがる中、僕らの前にもテーブルが置かれ、飲み物が手渡された。

「すごい量の料理だよ! 食べきれるかな!?」

「見てエリル! 使い魔が編隊を組んで飛んでるわ! あれってすごいことなのよ!」

 サラーサも珍しくはしゃいでる。

「ゴーレムに使い魔ねぇ・・・」

 カナミは催しに興味はないみたいだ。

 どんちゃん騒ぎとか好きそうなのに。


 新入生の学生たちが喜び騒ぎ飲み食いする中で、色々な派閥グループが新入生を勧誘している。

 僕らの所にも何人かが来たけれど、僕を含め三人とも全て断っている。


「2人は派閥グループに参加したりしないの?」

「私は他にしたいことがあるから派閥グループへの参加はしないわ」

 とサラーサ。


「俺はもう先約があるからな」

 カナミはもう決まってるみたいだ。


「先約? もうどこかに参加が決まっているの?」

「お国っていうなんの面白味もない派閥グループさ」

 やる気はないとカナミは言い捨てる。


「大変だね・・・」

 学生は全て同盟国の出身だけど、同盟国同士が必ずしも仲が良いわけではない。

 特に国を標榜した派閥グループは他国の派閥グループと衝突することが多いらしい。


 ふと見るとアマリア学長がイーリス寮長を捕まえて、

 ボロボロになった床を指さしている。

 どうやら机を運んできたゴーレムが重すぎたらしい。


 項垂れるイーリス寮長、一瞬、講堂に舞っていた光が暗くなる。


 ガチャ―ン


 飛んでいた使い魔がバランスを崩し窓を突き破った。


 割れたガラスが学生に降り注ぐが、近くに居たフィーア先輩が手をかざすとガラス片は丸い氷の塊となって床に転がった。

 フィーア先輩は静かにほほ笑むと、顔を青くするイーリス寮長に近づいていった。


 2人の説教が始まり、講堂の雰囲気が少し変わる。

 さっきまで複雑な動きをしていた使い魔たちは単調な動きを繰り返すようになり、料理を運ぶゴーレム達は動かなくなった。


「サラーサ、ゴーレムや使い魔って全部イーリス寮長が操ってたのかな?」

「宴会担当だって自慢してるらしいからそうなのかも。寮の管理も同じようにしているらしいけれど・・・これほどの数を操れるなら、すごい量の魔力マナを持ってることになるわね」

 答えるサラーサの目はゴーレムに描かれた魔法陣に釘付けになっている。


 横で気だるげにカナミが顔を上げる。

「たしか学園随一の魔力マナ持ちなんだとさ」


「イーリス寮長って、思った以上にすごいんだね!」

 普段の様子からは全く分からないけれど、人は見た目によらないものだ。


「残念だけどそうじゃないんだな。詠唱はド下手で、魔法陣もろくに書けない。だから教員になれなくて寮長扱いなんだと。仕掛けの魔法陣は他の魔術師が書いたんだろ。恐らく学校にとったらゴーレムと同等の使い勝手の良い備品扱いさ」

 カナミは意地の悪い笑みを浮かべ辛辣に言い放つ。


「カナミ! 言って良いことと悪いことがあると思うよ!」

 僕は怒った。


「エリルは甘いな」

「甘いとかそういう問題じゃない。これからお世話になる人のことを悪く言うのは良くないよ」

「・・・確かにそうだな。謝るよ。俺も人のことを言えた身じゃねえしな」

 思うところがあるらしくカナミはあっさりと非を認めた。


「2人とも! 折角の歓迎会なんだし変なことを考えずに楽しみましょ」

 サラーサが間に割って入る。が、その手にはさっきまで熱心に見入っていた魔法陣の写しを持っている。

「そうだね、難しいことは考えずに楽しもうか、サラーサも!」

「そうだな」

 そう言われるとサラーサはそっと持ていた物を懐にしまった。

「ええ、そうね」


 気が付けば講堂に活気が戻っていた。

 イーリス寮長がお説教から解放されたみたいだ。


 とりあえず僕らは歓迎会を満喫することにした。

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