09話 特異体質
ランク評価を終えた僕らは寮の食堂まで帰ってきた。
サラーサは未だにふて腐れて文句を言っている。
でも、AランクならSランクとそう変わらない種類の講義に出席できる。とりあえずサラーサやカナミと並んで講義を受けられそうで僕は嬉しい。
と、目があった。
「あんなに凄い魔術が使えるなんて、エリルは本当にセルバウルの出身なの?」
ジト目で質問をぶつけてくる。
「えっと・・・」
「サラーサ、人の事情にそう首を突っ込むのじゃないぞ」
答えに窮する僕に珍しくカナミが助け船を出してくれた。
「そうだけど、でもセルバウルは人の国で・・・」
「セルバウルが人の国? 魔術師と戦争して勝ったって聞いてるぞ」
「確かにそうなんだけれど」
隣国であるからこそ納得のいかない点に歯噛みするサラーサ。
「なによりエリルがさっき魔術を使ったじゃねぇか、一体何が気にいらないっていうのさ!」
要点を得ないサラーサにカナミの口調がヒートアップする。
「ま、まあ、二人とも落ち着いて!」
このまま放置して収拾がつかなくなるのは不味い。
「セルバウルは人の国って思われているけれど、元は戦争に負けて逃げ延びた魔術師が作った国なんだ。魔力が希薄なせいで長いこと魔術に頼らない戦い方が主流になってたけど、魔術を学べば使うことも出来るようになるんだ」
「それだと魔術師の国に攻め込んだ場合、勝てないんじゃないか?」
カナミが鋭い質問をする。
「前の戦争は最後にゴルグレーが味方してくれたからね」
「そういえばそんな話だったな」
とりあえずカナミは納得したみたいだ。
「じゃあ、セルバウルは魔術師の国だったってこと? 戦場で雷の魔術を使ったなんて聞いたことないけれど。それに魔術って先天的な要素が強いから、少し学んだからって言ってあんな威力の魔術をそう易々と撃てないはずよ」
サラーサはまだ引き下がらない。
「僕は特異体質らしくって、魔力が希薄なセルバウルでも魔術が使えたんだ。セルバウルだとあまり威力が出なかったけど、マナが豊富な学園だとあんな威力になったって訳さ」
取りあえずそれらしい話で誤魔化す。
「特異体質ね・・・」
「まあ、そういうことになるかな。ともかく、僕はそんなセルバウルの環境や僕の体質について研究するためにこの学園に来たんだ」
これは本当の事だ。セルバウルで僕以外に魔術を使える人は居なかった。そしてセルバウルを出て魔術を使えるようになった人もいない。
先祖返りか、神の悪戯か。
この体質のせいで僕は長いこと屋敷に軟禁されていた。
戦争も終わり、父上や兄上の計らいで魔術への忌避感が減っているとはいえ、未だに魔術師と戦うべきだっていう強硬派もセルバウルに根強く存在している。
母上が王家の出身で、僕が魔術を使えると知られたら内紛になる可能性もあった。
兄上は留学したことで魔術を使えるようになったと誤魔化す算段らしいが、あまり上手くいくとは思っていない。最悪、セルバウルには二度と帰れない可能性もあった。
覚悟はしている。ひょっとかしたら兄上が街に造った交易所はそんな状況に向けた準備なのかもしれない。
「人にしろ、魔術師にしろ、どっちでもいいや。ランク評価じゃ水晶は割るわ、人形は燃やすわ、大活躍だったよな! センコーの慌てる顔はサイコーだったぜ! やっぱ魔術はパワーだぜ!」
カナミは考えることを放棄したみたいだ。
「このことは他の人に話さないで欲しいかな・・・」
ここでの話が問題になるとは思っていないけれど、何が火種になるかわからない。
「エリルがそう言うなら秘密にしておくわ」
「友達同士の秘密だな! これからも仲よくしような!!」
2人は納得してくれたみたいだ。
今後、目立つことは控えよう。
セルバウルの環境や僕の体質を解明するのは目的の一つだけれど、本当の狙いは魔術を学んでその脅威から国を守ることだ。
異端の僕にとって国にそこまで尽くそうと思うほどの義理はない。
でも、父上や兄上を始め、数多くの人に協力してもらって僕はここにいる。
長く不自由を強いられたけれど、僕の秘密は家の周辺なら暗黙の了解になったほどだ。
だからこそ、これまでみんなから受けた恩には報いたい。
まあ、このまま平和が続けば特に苦労することなく、僕の願いは叶えられるって算段もあったりするけどね。