天才魔術師の因縁
「起きましたか?主様」
女の子の声が聞こえる
眠い
この寒い季節、布団が恋しい
どんなことがあろうと俺は起きない自信がある
「起きなさい、主様」
腹のあたりに衝撃が起きる
その衝撃のせいで吐き気がする
どうやら、鳩尾にパンチを食らってしまったようだ
普通に痛い
俺は先程の自信を叩き折り、重たい体をあげる
「おはようございます、主様」
おはよう、現実
おやすみ、仮想世界(夢)
俺は、自分のベットに堂々と座っている漆のような黒い髪の美少女を眺める
肌は雪のように白く、すらりとした体型
存在に現実味がない
そして、主を殴ったというのに、虚無を見つめているような目をしている
これは俺の従者だ
「もう一発・・・行きますか」
「ちょっと待て」
腕を上げるその美少女を静止させる
「主を殴るとはいい度胸してんな」
「まだ寝ぼけてるんですか?私はそんなことしません。今日は名誉表彰式ですよ。遅刻します」
美少女は、表情をピクリともさせず平然と嘘をつく
「そんなに見つめられると照れてしまいます」
「そんな表情で言われて嘘とわからない奴はいないだろ。・・・そういえば千代?なんで俺の部屋にいるの?」
従者が主を起こしに来る
一見普通そうに見えるこの行動だが
この従者には問題がありすぎて、そんなことを頼んでいない
鍵はかけたはず。
俺にしか開けられないように、魔力波動術式まで使って
俺は、ドアだったものに目がついた
そこには、昨日まで存在していたドアはなく
大穴が空いている
「なぁ、千代?」
「私は主様の配下ですから」
答えになってない
「ほら起きてください。表彰式に遅れてしまいます」
「行かないからいい」
俺は、もう一度、布団に潜り込もうと動かした手を掴まれる
「とりあえず、布団から出ましょうか?」
「は、はい」
美人の怖い顔は、ホラーより怖い
背筋が凍る
俺は恐る恐る、布団から出ると
千代が、服を渡してきた
学園時代の制服だ
小さくなってそうだなぁ
俺は制服を持ち、千代と見つめ合う
「どうしましたか?」
「出てって?」
なんで、ナチュラルに居座ろうとしてんだこいつは・・・
こいつを異性として見てはいないが、恥ずかしいものは恥ずかしいんだが
「気にしませんし、従者ですから」
「俺が気にするし、従者は某副将軍ではないぞ」
俺は従者を追い出し、着替える
「はぁ、なんで、俺が表彰されなきゃいけないだ」
そんな独り言をボソリと呟く
「魔道兵の作成に成功したからでしょう」
すると外にいる千代が返事をしてきた
「あんなん失敗作だ」
俺は、5年前に学園から追放された。
禁忌の魔術を使った容疑で、国から追放命令が出たのだ
はぁ、国もいい度胸してんな
さすがは実力社会。
使えない者を否定、非難し
使える者は褒め称え、持ち上げる
気持ち悪いな
「あっ、主様。さっきMikipediaにプロフィール載ってましたよ」
「まじ?ちょっと見して」
勤務中に、lPadを使っているのは問題だが
それは置いておいて、lPadを受け取る
『西園寺 空良 17歳
国を代表する研究者。名門の西園寺家で、魔道兵を完成させた人間の誇り』
うわぁ、裏切り者とか昔は俺のこと散々、攻め立てたくせに
国を代表って
腐れ切ってんなぁ
まぁ、この失敗作が売れたら、一生働かなくていいから良しとするか
「社会は腐ってるね。こんなに簡単に個人情報が晒されるんだから」
「訴えようと思えば、訴えられますよ?」
そっちの方が面倒臭そう
「まぁ、とにかく。国の英雄なんですから、今日の表彰式では堂々としてくださいね」
「行きたくない。晒されたくない。これ以上俺を苦しめないでくれー」
着替え終わったのに、布団に潜り込む
そうやって、行きたくないという強い意思表示をすると
千代は無断で作られた大穴から俺の部屋に入り込み
俺が潜り込んでいる布団に腰をかける
「仕方ないですね。私が膝枕をしてあげましょう」
千代が微笑み、自分の太ももをパタパタと叩く
「え?急にどうした?」
「私の太ももじゃ満足できないと?」
「そうじゃなくて」
なかなか動かないせいか。微笑みが消えていく
「はい」
俺は、渋々従者の膝に頭を乗せる
これが従者じゃなければ、大喜びで寝そべるのだが
こいつとは生憎、物心つく前からの付き合いだ
そういうまでは見れない
これじゃあ、どっちが主かわからないな
「お仕置きです」
「は?」
魔法で身動き一つ取れなくなってしまった
「ねぇ、千代さん?なんで、脱ぎ始めてるの?」
「既成事実を作って、主の妹君に言いつけようかと」
「・・・式典、行くんで勘弁してください」
千代が自分の服を持ち、にやりと笑う
「ヘタレ」
「仮にも主に向かって、ヘタレはないと思うぞ?」
「知りません」
*
俺は国が送った迎えの車から降りて、辺りを見渡す
そして、絶望した
なんでこんなに人がいる!!
聞いてないぞ!!
世の中の人は、暇なのか?
千代!!ヘルプ!!
そう振り向き伝えようとすると
「行きましょうか」
無慈悲な千代の発言に、涙をこぼしそうになりながらも歩き始める
高校の体育館ありそうな表彰台を眺める・・・
これって、俺が賞状と賞金もらうためだけの式典だよな?
あっ、主役は他にいるんだ
そうに違いない
そう思おう
「あんな大勢の人が主様のためだけに集まったと考えるとおもしろ・・・喜ばしいですね」
こいつ今、面白いって言いかけたぞ
ってかほとんど言ってたぞ
「俺に恨みでもあるのかよ」
「いえ、尊敬、信頼しているからこそこのような振る舞いができるのです」
「・・・そうか」
「チョロ・・・」
このクソ女!!
そう楽しく雑談しているとガチャリと音がして、ドアが開く
「表彰の準備ができました」
騎士の格好をした男に話しかけられる
フル装備で顔が見えない
「わかりました」
俺達は立ち上がり、その騎士についていく
そして、舞台裏に到着した
舞台には、人を見下してそうで癪に障るひげ面のおじさんが偉そうに何か話している
うわぁ、あそこに今から行くのかぁ
あのおっさんに賞状もらうのかぁ
帰りたい・・・
そう思い、今からでも帰ろうと千代にいおうと思ったら
滅多に表情を変えない千代が笑っている気がした
それを見て、俺は少しため息をつき
ようやく覚悟を決めた
行くか。
そう決心し、踏み出す
すると、歓声が上がる
嬉しくないこともないが、小恥ずかしい
俺はマイクを渡される
そのマイクを笑顔でおっさんに返す
話す内容は考えてないし、話せる気もしない
よって、挨拶など断固拒否
おっさんは、流石に困惑していて
しんっとした空気が生まれる
気まずいが気にしてらんねぇぜ
舞台裏で手を振っている千代がチラリと視界に入った
目があったとわかると、口パクを始めた
『そ の か た は 王 様 で す よ』
そう見えた
見えてしまった
チラリと怒り度MAXのおっさんが見える
あぁ
打首にされちまう
俺はマイクを受け取る
「どうも、西園寺 空良です。この魔導兵を作った本人です」
無意識に頭を掻いてしまう
柄にもなく緊張しているようだ
「今日は、私なんかのために集まっていただきありがとうございます。この日のことは必ず忘れません。魔導兵と聞いて危険なものを思いつくと思いますが、これは皆さんを守るものであり、皆さんの代わりに戦争に出るものです。私は、人が死なない戦争をこの手で作り出すことをここに宣言します」
するとわぁあああと盛り上がる
戦争なんて起こらない方がいいのにな
まぁ、魔族との戦争が近々起きそうで不安な人が多かっただけだろうけど
マイクを返すと王は賞状を渡してきた
「西園寺 空良。人類初の魔導兵作成の名誉で永遠に語り続けられることだろう」
「・・・ありがとうございます」
「わあああああああああああああああ」
賞状をもらい、立ち去る
「お待たせ」
「お帰りなさいませ」
千代と合流する
「あの挨拶は本心で言ったことですか?」
「んなわけないだろ。お前が俺のことを一番に知ってるはずだ」
「安心しました」
へぇ、千代がふざけないなん珍しい
それだけ心配だったのか
確かに、あれは俺らの目的のための副産物にしかすぎないからな
「帰ろうぜ」
「はい」
迎え車の方向へ向かおうとすると
「どこへいく」
俺のことを追いやった張本人である俺の元教師 石上 隆則が、仁王立ちしていた
それを無視して素通りしようとすると
「おい」
と引き止められる
俺は渋々、それに返す
「・・・お久しぶりですね。先生」
「なぜ、お前が生きている。西園寺 空良」
いきなり失礼だなこの人
「自殺したとでも思いましたか?」
「お前は、うちの隊が殺したはずだ」
そう。こいつに嵌められて、学園を追い出された。
そのうえ、嫉妬深くも小隊が俺のことを追ってきたが、全員返り討ちにした
一人を除いて
「田沼はどうしてます?俺を殺しきれなかったこと後悔でもしていますか?」
「・・・・・」
「殺そうとなんて考えないでくださいね。無名の昔だったら俺を殺しても問題はなかったかもしれませんが、今殺すとあなたは間違いなく犯罪者だ。俺がお前の言う禁忌ってやつを犯した証拠がない限りね」
石川はチッと舌打ちする
俺が笑いながら憎むべき相手を煽ると頭に衝撃が走る
「主様、どちらが悪役かわからなくなるので帰りましょう」
「小紫 千代か・・・」
「なんです?私は主を殺そうとした相手に対する怒りを抑えられる気がしませんよ?」
普段から無表情な千代から連想できない形相で石川をにらむ
「お前ら二人には、魔術兵育成校に通ってもらう」
「・・・そんな機械的そうな学校に籍を置くつもりはない」
「俺だって迎え入れたくない。だが、これは決定事項だ。この命令に従うことは反逆罪で処刑しなければなくなる」
石上がお返しと言わんばかりの怖ーい笑顔でにらみつけてくる
「そうかよ」
「行きましょう主様」
俺は、石上を警戒しながら背を向けると後ろから声がかかる
「明日、午前九時。学校に来い。一秒でも遅れたら国が迎えに行く」
くたばれクソ爺
「厄介なことになったな」
「私は、地獄だろうが主様と共に行きます」
「ちょっと重いな」
「今日のお夕食はムカデの味噌煮にしましょうー
凶器の笑顔で声高く宣言してくる
「勘弁してくれ」
俺の厄介な生活が始まろうとしていた