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いや、おかしくない?
って思うのは私だけなんだろうか。
普通に無理。出来るわけがない。新谷は何も考えていない表情で、うつ伏せになったまま柚が上に乗るのを待っている様子だが、乗るわけないだろって何度も思う。
「あ、シューズは脱いで乗ってくれ。シューズだと硬すぎて痛いから。」
思い出したように言う新谷と、その様子をただ突っ立って見ている柚。
柚は特に彼氏が欲しいとは思ってはいないし、思ったこともない。でもだからと言って、男子との関わりなど、なんてことは無いってことではなかった。
産まれた歳イコール彼氏いない歴。それは男子と関わる機会が少なく、男子への免疫力の低さを表していた。男子との会話や距離、そのどれもが柚にとっては一瞬緊張感が走るもので、心穏やかには居られない。自然体では居られない。いつだって心はザワザワと騒がしい。そんな柚に対して、新谷はなかなかレベルの高い要求をしてきた。そんなものを、柚がスマートに対応できるわけがない。
「それは無理」
柚は表情を変えることなく新谷に言った。
「え?なんで?」
「いや無理でしょ。それだったら他の人に頼んでよ。」
だいたいなんで私なのだ。他の男子にでも頼めばいいではないか。しかも、もし乗ったとして心の中で、こいつ重いわ、って思われるのも嫌だ。そんなこと思うかどうかは定かではないが、普通に女子は体重気にしてるし、敏感な事である。
とりあえずさっさと湿布だけ貼って、体育館に戻ろう。
そう思って新谷の横に座り込み、部活着を少しめくる。ほら、これするだけで少し手に汗かいてる。こういうのって慣れてないのよ、私って。
「貼ったらもう行くからね、早く体育館にもど··」
「丸山だから頼んだ。」
柚の声を遮って新谷が言う。
「丸山じゃなきゃこんなこと頼まない。」
湿布を貼ろうとしていた柚の手がぴたっと止まる。新谷は変わらずうつ伏せのままだ。こちらを見る訳でもなく、表情も変わらない。
こいつ、、なんなんだ。
柚の心の中で大変騒がしいことになっていた。こんなこと言われて、平常心保ってられる?それよりなんで新谷は表情変わらないんだ?これが普通ってこと?そうなの?みんなこれくらい当たり前ってことなの?いや、だけど、、
無理だ、、。ふつうに照れる、、。
心の中の柚の姿は項垂れているが、実際の柚の姿は湿布を貼ろうとしたままの体勢を保っており、無表情だった。新谷の表情が変わらないことを気にしている柚であったが、柚も無表情であり、相手に思っている感情が伝わらないところは同じであった。
「1度・・・。」
そんな中、新谷が静かに言葉を続ける。
「・・・ん?」
「1度、他のやつらに頼んだことがある・・。」
「・・うん?」
「そしたら容赦なく体重をかけたり、飛び跳ねたり・・。」
「・・・。」
新谷の目が遠くを見つめる。
そして柚の手は未だに湿布を持ったまま。
「今度からは必ず、丸山にお願いしようってその時に決めたんだ。」
・・・・。
バシッ
「痛っ!」
柚は、おもいっきり新谷の腰にシップを貼り付けた。ついでに部活着もベシッと叩きつける。
「先にもどる。」
「え?」
サッと立ち上がった柚は、体育館に向かって歩き出した。
それって消去法で私になったってことだよねぇ?
さっきの自分に言ってやりたい。思い違えるな、柚よ。ただ、新谷は真剣に頼んだだけであって、深い意味はないんだと。