山田琴葉とサッカーボール4
強い日差しを降り落とす炎天の空の下。
琴葉により身体的なダメージを負った俺は、全身痣だらけのコンディションで約束のピッチに立っていた。
サッカー部との試合当日。
準備運動等々はすでに済ませ、ただいま試合前の整列中。俺はサッカー部の連中と向かい合っている。
ただ、ふと隣を見るに、ガルルル! と相手チームに睨みを利かせている赤ユニフォーム姿の選手がいるのだ。とりあえず『落ち着け』の意を込め、俺は彼女の肩を叩くことにした。
「琴葉、冷静になれ。それと俺……試合より早く病院に行きたいんだけど」
「ダメよ。……ただでさえ、私とあんた入れて六人しかいないんだから」
「まぁ、それはそうなのだが……」
はぁとため息をついて、グルリと周囲を見回す。
グラウンド外には、サッカー部の試合だけあってギャラリーが少なからずいる。特に女の子が多い。キャーキャーと甲高うるさい声が響いてきて、声の主たちの視線を独占するサッカー部は、さながらアイドルのようだった――
が、それに比べて俺たちときたら……むさいおじさんがまず一人、その部下である若い男が三人。そして校内に悪名を轟かせる男女が一人ずつ。と、琴葉の言うよう合計六人。ギャラリーは、皆無。
これが俺たちの交友関係の限界だと考えると、
……はぁ、泣く。
「今日はありがとうございます。先輩方」
しかし、そんな寄せ集め軍団の俺たちに対しても佐藤くんは爽やかな笑顔で迎えてくれた。さりげなく手を差し伸べてくるあたりさすが部長である。
真面目で優しくて、どっかの山田に見習わせたいものだと思いました。
「悪いな、俺たち六人しかいなくて」
「大丈夫ですよ。その分は俺たちもメンバー減らすんで」
「そっか、了解した。……それで、大丈夫そうなのか。何かこう、絶対に負けられない戦い的な感じになってんのか?」
ってか、それが達成できないと本末転倒である。サッカー部が本気で勝ちにこない限り、個人技に絶対のプライドを持つ彼らはパスを取り入れようとはしないのだから。
少し声を潜めて俺が訊ねると、佐藤くんは自らの胸をドンと叩いた。
「はい、それなら心配いりません。この前、先輩に書いて頂いた脅迫状をサッカー部のみんなに披露したところ……みんなバリバリ信じてくれました! 今はもう負けたら部を乗っ取られるという恐怖がサッカー部中に満ち溢れています!」
と、自信満々に胸を張る佐藤くんだが……あれ、あれあれ? 何か俺の学校生活がどんどん悪化の一途を辿っている気がするぞ。脅迫状で恐怖を植え付けるとか、それ退学になってもおかしくないレベルだよね。いや、嫌だよ退学は。こんなことで退学とか死んでも死にきれないよ。と、俺の頭の中で『退学』の二文字がグルグルと巡回するが、
「はーい! では、試合を始めます!」
そんな俺をよそに、試合は滞りなく始まる。
「サッカー部対……」
「チームパリ―でお願いします」
琴葉……。
やめちくれ。
「ち、チームパリ―の試合を開始します! 一同、礼!」
「「「お願いします!」」」
挨拶を終え、俺たちチームパリ―は円陣を組むことにした。どうでもいいことかもだが、ここでポジションを発表しておこう。
GK 桐先
DF 琴葉・部下一
MF 俺 ・部下二
F 部下三
「……なぁ、チームパリ―って、何かもの凄くアホらしい名前に感じるのは俺だけか?」
俺に体重を預けながら、困ったような表情で桐先が問いかけてくる。
「心配するな、あんたの頭がおかしいわけではない。俺も同感だし、頭がおかしい奴がいるとすれば……」
そこで、俺は隣の琴葉を一瞥した。
が、不運にも目が合ってしまい、おもいっきり股間を蹴り上げられた。
もう痛すぎて声も出ない。
「じゃあみんな! このおバカは置いといて、円陣いくよ!」
琴葉が声を張り上げる。そういえば、円陣っていったら「絶対勝つぞ!」が主流だったけか? と頑張って記憶を辿ってみたが、ここで股間の痛みが再発し、俺の意識が再び遠くなる。
あー、いてぇ。早く病院に行きたい。
病院が何だか天国に思えてきた俺の傍ら、
小さな少女は大きく息を吸い込み、そして吐き出す。
「ニューヨークに行きたいかー!」
「「いき……へぇ?」」
「オーストラリアでコアラと戯れたいかー!」
「「……?」」
「よーし! 勝つぞー! エイエイ、オ――――」
「「……お、おう」」
思わず、言葉を失ってしまったよ。
ひそひそ……あれ、この子もしかして馬鹿、なんじゃないの? ひそひそ……。
何だか怪訝そうな顔を突き合わせるお巡りさんたちをよそに、琴葉は拳を天に突き刺していた。今日は長い髪を後ろで一まとめにしたポニーテールスタイルなので、その拍子にゴムで結ばれた髪がふわりと宙に舞った。表情は、何故か大層ご満悦といった感じだったさ。
「よ、よし、ではポジションにつくとするか」
そして、今度はその琴葉を尻目に、今の微妙な場を取り繕うよう手を叩きながら桐先がゴールへと駆けていった。さすがは警察官。市民の安全を守っているだけあり周りがよく見えてるなー。俺も便乗してとっととポジションにつくとしよう。
俺はタッタッタッと小走りでMFの位置につく。
で、気づいた。
俺の真後ろにまた、ガルル! と獣声を上げている奴がいる。
……ほんと、頼むからやめて欲しい。睨まれているサッカー部が可哀そうで仕方ないんだ。ごめんな、サッカー部の後輩たち。うちの珍獣がアホで。
俺がそんなことを思い、深々と頭を下げた、しかし瞬間、
レフリーが試合開始の笛を鳴らした。
「ピ――ッ!」
開始直後。
予想通り、彼らサッカー部はキックオフから一人で駆け上がってきた。背番号・九をつけた少年はあっさりと部下三を抜き去り、股間の痛みが癒えない俺の股下にボールを転がして俺を抜き去り、そして、トップスピードのまま琴葉を――。
「ふふふ、ブラックストリーム! (ただのスライディング)」
抜くことはできなかった。
「よっしゃ! 速攻!」
すかさずボールを奪った琴葉が大声で指示を出す。速攻なんて作戦、俺には初耳だが、とりあえず俺も前線へと駆け上がっていく。
その際、琴葉が相手を一人躱して、二人躱して、一度俺にボールを預けてきた。いや、あいつ本当に初心者なの? と、思わず首を傾げてしまうほど見事なフェイントだったよ。ちらっと外を見れば、ギャラリーから「おおーっ!」という感嘆の声が漏れていた。
……よし、負けじと俺も頑張ろう。
そう思った直後、前線に上がった琴葉がバッと手を挙げた。『ここにパスしろ! この大馬鹿野郎!』おそらくそういう意味だろう。「よし、ようやく俺の見せ場がきた!」と、心中でそう呟き、俺は黄金の右足を振り抜く――が、
「ありゃ?」
ボールは、あらぬ方向に飛んで行った。
まぁ、俺はゴール前の琴葉を狙ったが……ちょっとあれだな、黄金の右足のコンディションが悪いみたいだな。ほら、コーナーキックを蹴るところに旗が立っているだろ。俺の蹴ったボールはその旗目掛けてまっしぐらだ。悲しいほどに。
ミスった俺を、琴葉がキッと睨む。
……ごめん、悪かったよ。次頑張ろうぜ、次。
ギャラリーの前でちょっぴり恥をかきつつ、
俺はすぐさま気持ちを切り替えて自陣のゴールに踵を返す。
――が、
やはり、山田琴葉は山田琴葉だ。
常識では測れない。
俺の蹴ったボールはあらぬ方向へ飛んで行った。それは琴葉にも予想外だったのだろう。現に俺が蹴ったその瞬間、ピッチ上であいつはポカンと口を開けていた。
しかし、俺が踵を返すと、桐先が呆然と立ち尽くしているのだ。ギャラリーも妙に騒がしい。まさか俺の蹴ったボールが奇跡を……それはないだろうと思いながらも、俺は振り返った。
琴葉がオーバーヘッドゴールを決めていた。
「「「おおぉぉぉぉぉぉぉ」」!」」」
ここぞとばかりに声を張り上げるギャラリー。
その喧騒の中、悠々とこちらに向かってくる琴葉と目が合い、ニコッと嬉しそうに琴葉が笑った。なんだか照れくさい。
照れくさいから俺はボソッと訊いた。
「お前、サッカー初心者じゃなかったの?」
「ん、初心者だよ。ボール触るのもさっきのが初めてだった」
……だ、そうだ。改めて思う。才能って怖いな。
とはいえ、その才能は俺たちにとって『プラス』以外の何物でもなく、
以降、俺たちは試合の主導権を完全に握った。
サッカー部の攻撃は相変わらずだったさ。部下三を抜き、俺を抜き(股間のせいにしといてくれ)、琴葉で止められる。その繰り返し。
そして、その繰り返しの中、琴葉のミドルシュートがゴールポストに弾かれたところで前半が終了した。スコアは三対ゼロ。無論俺たちリード。ひとまずサッカー部をピンチに追い込むという俺たちの仕事は首尾よくこなしたと言って差し支えないだろう。後は、佐藤くんがパスを取り入れたサッカーとやらを彼のチームメイトたちに促し、それを取り入れたサッカー部が俺たちをボコボコにしてくれれば一件落着である。
休憩がてら、俺はサッカー部の様子を横目で窺っていた。
佐藤くんの計画通りなら、ここで佐藤くんが何かしらの言葉をサッカー部の連中に投げかけているはずだが……どうにもその様子は見受けられない。肝心の佐藤くんが緊張した面持ちで口を真一文字に結んでおり、動き出す様子がないのだ。
おそらく、真面目な佐藤くんのことだ。このハーフタイムで自分がサッカー部の連中を説得しなければならないという責任感に押しつぶされそうになっているのだろう。
……このままじゃあ、ダメだ。
それを悟るのに時間はさしてかからなかった。
……みんなに失礼だ。
視線を移して、俺はチームパリ―の面子を一人一人見回す。
琴葉はサッカー部のためにって意気込んで、桐先に頼み込んだ。桐先はこんなくだらないイベントにわざわざ来てくれた。彼の部下たちだって、同じように。
だから、そいつらの協力を無駄にしちゃいけない。このまま俺たちが勝利する。なんて、そんな意味のない試合にしちゃいけない。佐藤くんにはしっかり自分の思いの丈を話してもらう。サッカー部にはきっちりと俺たちに勝ってもらう。そんで佐藤くんの掲げるサッカーをしてもらう。まぁ、そのためには。
……ったく、柄にもねぇ。
後ろ髪をボリボリ掻きつつ、俺は佐藤くんの背中を押してやることにした。
しかし、
「み、みんな、個人プレーはやめよう」
その前に、佐藤くんが口を開いた。
勇気を出して、彼は一歩前に。サッカー部全員の前に立った。
「俺、ずっと思ってた。このままじゃ絶対ダメだって。このままじゃ負け続けるって……でも、それでもみんな楽しそうにサッカーやってたから。だから、ずっと、黙ってたけど……」
佐藤くんはあくまで静かな声で、語りかけるように、
「俺は勝ちたいんだよ。負けるのはもうごめんなんだよ。勝てる試合を落とすのはもうごめんだ。勝ちたいんだ。俺は勝ちたいから……勝手なのは分かって言う。俺に力を貸して欲しい」
その声は俺たちにも聞こえていた。真面目な佐藤くんの声はやっぱり真面目だ。真面目に、真っ直ぐに、よく通る。
一刻過ぎて、サッカー部の誰かが口を開いた。
「そうだな、実は俺もそろそろヤバイなって思ってたし」
彼の一言をスタートに、周りの部員たちも次々に声を上げる。
「確かに負けすぎた。俺もいい加減、勝ちが恋しいよ」
「それにここで負けたら、サッカー部は乗っ取られるし……」
「ぬぅ! お前、今それ言うか! お、おいおいマジでどうするよリーダー」
「どうする? リーダー」
「どうするよ?」
「……みんな」
リーダーこと佐藤くんはパッと顔を上げ、おそらく彼が経験した試合の中で、初めての指示を出した。
「山田先輩を避けるようにして、パスを繋いでいこう!」
ハーフタイムを終え、散り散りになるサッカー部と俺たち。
俺もベンチから腰を上げようとすると、
「先輩、ありがとうございました。こんないい展開にしてくれて」
佐藤くんに声をかけられた。
いい展開というのは、サッカー部が三点ビハインドというこの状態を指すのだろう。そりゃ確かに、ここで逆転勝利なんてしようもんなら、パスを取り入れたサッカーの力をこれでもかってくらい示すことができるだろう――が、
ちょっと待て、佐藤くん。
「礼なら俺じゃなくて琴葉に言ってくれ。三点取ったのはあいつだぜ」
すでにピッチ上で相手選手にガンを利かせている琴葉を指差して俺は言うが、何故か佐藤くんは首を横に振った。
「それでも、この状況を生んでくれたのは先輩です。あの山田先輩をここに連れて来られたのは、きっと先輩だけでしたから」
言って、佐藤くんがピッチ上へ駆けていく。「何のこちゃ」と首を傾げつつ、俺も少し遅れてピッチ上に足を踏み入れた。
そして、
その後のサッカー部は強かった。
元々個々の実力はかなり高いため、面白いようにパスが通る。何かパスがシュートみたくなっているが通る。パスが無回転になっているが、通る。何しろトラップが上手い。当然、琴葉以外は初心者同然の俺たちでは彼らの猛攻を抑えきれず、チームパリ―は防戦一方となった。
「佐藤!」
掛け声と共にボールが繋がる。パスを出したのはあの九番。試合開始直後、キックオフと同時に突っ込んできた奴だ。
その九番が琴葉を出し抜き、エリア内の佐藤くんにボールを繋いだ。まんまと出し抜かれた琴葉は「ムキーッ!」と猿みたいな奇声を上げているが、俺にはその光景が微笑ましかった。
――佐藤くんを中心としてまとまっていくサッカー部を見るのは、面白かった。
やがて、ボールを受けた佐藤くんがゴールを決め、スコアは三対三の同点になった。
俺たちは強い! じゃないが、パスを学んだあいつらは強いのだ。このまま試合が進めば俺たちは確実に負けるだろう。
……まぁ、そっちの方がいいんだけどな。
俺たちのキックオフで試合が再開され、部下三があっさりとボールを奪われた。
試合も終盤に差し掛かかり、おそらくこれがラストプレーとなった。
その折、俺は佐藤くんとマッチアップしていた。
ボールを転がしながら佐藤くんが告げる。
「先輩、本当にありがとうございます。おかげで俺たち、さらなる高みへと登れそうです」
言って、佐藤くんが俺を抜き去る。いつもの個人プレーではなく、壁パスで、仲間を利用して。
……何か、不思議な感じだな。
情けなく抜かれながら、思った。
考えてみれば、学園の光であるサッカー部と闇である俺や琴葉がこうやって絡むことになるなんてなー。全くもって予想外のことだった。
そして、そのイベントがこんなにも楽しくなるなんて、もっと予想外だった。
ずいぶんと濃い時間を過ごした。新しい発見をした。それもこれも、理由はあれだが、佐藤くんが俺たちを頼ってくれたからだろう。
だからこれでいい。この試合をきっかけにサッカー部は強くなった。たとえ、ここで俺たちが無様に逆転負けを曝し、俺にサッカー部脅迫の容疑がかけられようとも……い、いいだろう。俺も男だ! さぁ、佐藤くん! 俺の屍を越えていけ!
少しかっこつけたくなり、俺は白いハーフパンツのポケットに手を突っ込んでから振り向いた。
眼前には――
佐藤くんからするりとボールを奪う琴葉。
一人、二人と抜き去る琴葉。
追いかけてくる佐藤くんをルーレットで躱し、また二人ほど抜き去る琴葉。
俺の横をトップスピードで駆け抜ける琴葉。
最後に残ったキーパーまでも、抜き去った琴葉。
見事な、六人抜きだった。
え、えーと……。
なんじゃこりゃ――っ!
一瞬の静寂。
その後、響き渡るギャラリーの歓声と……、
「……凄ぇ、あれが個人の力か」
サッカー部。って、いやいや違うよ。あの子は人間じゃないの。あの子にできることがみんなにもできるとは限らないんだよ。
「かっこいい。俺もあんな風に……」
いやかっこいいけれども! 騙されるな、あれを見習っちゃいけない。あれは新種の生物。山田琴葉っていう生物だからできることなのね。うん、ここたぶん後で習うよ。理科の先生が教えてくれるよ。
と、そこに。
「先輩、負けちゃいましたけど俺、大切なことを学びました」
エキサイト気味の俺の後ろから、佐藤くんが声をかけてきた。真面目な佐藤くんだ。きっとこの試合でパスの大切さを改めて学んだ、みたいなことを言いたいのだろう――まぁ、一時はどうなるかと思ったけど、それならよかった。佐藤くんがいて本当によかった。これで俺の苦労も報われる……。
「俺、まだまだでした! 勝てないのを戦術のせいにしていました。でも違ったんですね。勝てないのは俺の技術不足! それを、琴葉さんから学びました!」
はずだった。
あれ? 佐藤くん?
「俺、いや俺たちはこれからも自分の力のみを信じていきます!」
佐藤くん!
「では、先輩! また会う日まで!」
「いや、ちょっと待っ!」
「よーし! みんな練習だぁー! ワンオンワンやるぞ!」
「さとうぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
佐藤くんの掛け声で周りのメンバーたちが動き出す。
結局、サッカー部は超個人技サッカーという振り出しに戻ってしまった。
なら一体、俺たちの頑張りは何だったのだろう……。
落胆する俺のもとに人影が一つ。あいつだろう。ことの張本人。
「いやー、いい汗かいたね~、それよりちゃんと見てた? 最後の私のドリブル! 凄くない! 本当に凄くなって痛たったたたたたぁ!」
俺は琴葉の頬をつねる。
「ちょっと何すんのよ!」
「何すんのよじゃねぇ! 返せ! 俺の休日を返せ! 超ついでだけど桐先たちの時間も返せ!」
俺の言葉に、琴葉が可愛らしく首を傾げる。
「なに怒ってんの? いいじゃん勝てたんだから。ほらほら、若葉も喜べー。バンザーイ、バンザーイ!」
「だからその勝ったことに問題があってだな……」
「はいはい、しけたポテチみたいな話はその辺で」
問答無用って感じで琴葉が俺の腕を奪い、バンザーイ、バンザーイ! と俺の腕を掲げる。身長が足りていないのでいちいちジャンプして、ぴょんぴょんと一つに結ばれた髪を揺らしながら。それでも笑顔で。
はぁー、何だろうなー。
そんな無邪気な顔を見ると、何だか俺が間違っているように思えてきた。
要するにあれだ。俺と琴葉が出会ってから約二ヶ月。
俺は未だ山田琴葉のことがよく分からない。