なろうファミリーの温泉旅行 PartⅡ~番外編(その1)~
プリントされた旅行の写真を眺めながら律子は満足げに微笑んだ。
「なかなかいい出来だわ」
律子はその写真をミニアルバムにして人数分用意した。そして、それぞれに郵送した。
めいはポストに入っていた郵便物を手に取り、差出人を見た。
「あら、かみむらさんからだわ」
部屋に持ち帰ると、一旦、ダイニングテーブルに置いてキッチンに入った。食事の支度をしてからゆっくり見るつもりだった。そこにいろはから連絡がきた。
『めいさん!かみむらさんから旅行の写真届きませんでしたか?』
「ええ、届いたけど。あとでゆっくり見ようと思って…」
『大変なんですよ!』
「どうしたの?」
『心霊写真ですよ!』
「えっ!」
『写真の中に心霊写真が混じっているんですよ!』
「そんなバカな…。何かの見間違いじゃないの?」
『いいからすぐ見て下さいよ!』
めいは仕方なく封を切り中身を確認した。それはきれいな表紙が付いたミニアルバムだった。
「あら、なかなかいいじゃない」
『仙台駅での写真を見て下さい!』
「仙台駅の…。あっ!」
りきてっくすはその写真を見てお祓いをした。
「これはきっと祟りだにゃん!」
バスの前で取った写真にはりきてっくすの肩に誰のものでもない手が映り込んでいた。そういった写真は他にもあった。買い物をしている三人娘の背後にもぼやけた女の顔らしきものが映り込んでいたり、大橋と水無月のツーショット写真の足元にも四本の手が映り込んでいた。
大橋は日下部に連絡していた。
「トリック写真ですかね?」
「僕も気になったので調べてみたんですけど、データを貼り付けたりとか加工した形跡はないんですよ。なので、実際にそこに映っているとしか思えません。ところで、大橋さん。律子さんにこの写真を撮ってもらったときに足元に誰かいたんじゃないですか?」
「まさか!いくらなんでも、こんなところに人がいたら気が付きますよ。これ、他のみんなにも届いているんでしょうね?女の子たちが見たら気味悪がるんじゃないですか?」
「いや、律子さんのことだから、何かの悪戯だと思いますけど…」
写真送られたのは旅行に行ったメンバーだけではなかった。しおんと刹那、それにガイドの瑠璃も受け取っていた。
「呂彪さん、かみむらさんから写真が届きましたよ」
弥欷助はその写真を見て苦笑した。
「いい出来だな。でも、悪ふざけが過ぎたかな」
刹那はその写真を見て怯えていた。
「あんたが怖がってどうするの!半分はあんたなんだから」
「でも…。まさかこんなに怖い写真になるなんて」
ホテルのバーでの二次会の最中だった。
「ふーん…。明日東京に帰るんだ…」
「はい。仙台から新幹線で」
「じゃあ、ちょっとお願いがあるんだけど」
「なんでしょう?」
律子は平泉でのいきさつを踏まえて刹那に幽霊役を頼んだのだ。律子が写真を撮るときに、こっそりバックに映り込んで欲しいと。そのことを刹那がしおんに話すと、しおんはことのほか話に乗って来た。そして二人でそれを実行した。既に面が割れているため、変装して律子の行くところについて回ってはこっそりバックに顔を出した。
ホテルを出発するときに律子はこっそり瑠璃と弥欷助にも協力を頼んでいた。「いい想い出になるから」と丸めこんで。
バスの前の写真の時には弥欷助がこっそりトランクルームに忍ばせていた刹那がりきてっくすの肩のあたりに手を差し出した。
買い物をしている三人娘の時にはしおんがウイッグを付けて、さりげなく通り過ぎざまにカメラの方を見た。そして、その写真を撮るときに律子はカメラのレンズに息を吹きかけレンズを曇らせると、しおんの顔のあたりだけがぼやけるように細工した。この手法で撮られたぼやけた女の顔の写真は何枚もあった。
大橋と水無月の写真の時にはしおんがたまたまそばに居た子供たちに小遣いを渡して、手だけが写真に写り込むような位置でポーズを取らせた。
弥欷助はそんな悪戯の裏側を離れた位置から望遠レンズで撮影していた。後日、ネタばらしで律子からその写真がみんなに配られた。
「りったん、趣味が悪いよ。でも、ネタが判ってしまえばこの写真もいい想い出になるわね」
圭織はそう律子に話した。
「特にこの平泉の写真なんか本物の心霊写真みたいに撮れてるものね」
「えっ!平泉?」
圭織が示した写真は平泉で撮られたものだったのだけれど、ガイドの瑠璃をぴったりマークしているりきれっくすの横に落ち武者姿の男性がぼんやり映っていた。それを見た律子は凍りついた。
「ひえぇ~!そんなの知らな~い」
「えっ?まさか…」
圭織は思わずその写真を放り投げた。
そして、その頃、頭にろうそくを巻き付けてお祓いをしているりきてっくすの横で落ち武者がにっこり笑っていた。
またまた律子さん、ごめんなさい!
(その2)で埋め合わせします!