日常
手足は力が入らず視界もボヤけている
耳は聞こえずノイズしか入ってこない
なぜこうなったか一瞬分からなかった
視線を動かすと王女様が泣きながら俺の手を強く握っている
(…そうか……俺……)
自分の置かれた状況が理解できた
理解できた途端に体の異変が速度を増した
体温が低くなってるからなのかすごく暖かい
握りかえそうとしてもやはり力が入らない
王女様は何か言ってるようだが、ノイズがひどくて聞こえない
何度も何度も叫んでいるようだがノイズに掻き消されてしまう
読唇術を使おうとしても頭が回らない
寒気が強くなってきた
(あぁ…俺もそろそろ……終わり……なのか…)
短い人生だったが悪くなかった
「無職」の俺をしっかり育ててくれた両親、差別をせずに接してくれた弟や妹達
感謝してもしきれない程の愛情を貰った
その恩を返せず悔しいが、どうすることもできない
なぜなら、俺の心臓に穴が空いてしまったからだ
しかし、殉職できるなら本望だ
俺はしっかりと王女様の盾になれたのだから
(……意識……が………遠く……)
瞼が閉じかけた時、ハッキリと聞こえた
「盾護!!盾護!!……しっかりしろ…お前は私との約束を破るのか!!」
そう、泣きじゃくる王女様の声だ
その瞬間、少しだけだが火がついた
誰にも負けない根性の火がついた
俺は最後の力を振り絞り
「……な…泣くな………俺……は……大……丈夫…だか……ら……諦める……な…必ず………守っ…て……み……せる」
フッと火が消えるのがわかった
激しい眠気と寒気に襲われ瞼を閉じてしまった
自分でもなぜあんな事を言ったのか分からなかった
意識が遠退いていくなか
(俺……は………ま…だ死………ねな………い……)
最後にそう思い意識を手放してしまった
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一ヶ月前
近衛家では騒動が起こっていた
事の発端は朝にかかってきた一本の電話だった
親父は電話でしっかりと話してるようだが目が明後日の方を向いていた
と言うより瞳孔が開いていた
(あの親父がビビる位ヤバい仕事なのか?)
長男、盾護(24歳)横目で親父を見ながら朝食を食べている
弟妹たちも横目で親父を見ながら朝食を食べている
長女、鏡花(22歳)は無表情で黙々と食べてる
鏡花は黒髪ロングで身長155センチとやや小さめ
体型は出るところは出て絞まっている所は絞まっている
次女、愛花(20歳)、三女、優花(20歳)は興味があるのか二人でこそこそ話している
双子の愛花と優花
セミロングの黒髪で150センチと小さめ
容姿は瓜二つ
体は幼児体型で胸を少し膨らませた感じだ
次男、護(18歳)はおどおどしながら朝食を食べている
身長170センチと普通位
短髪で弱々しいオーラを纏っている
母、春花(45歳)はにこにこマイペースに朝食を食べている
身長160センチで世間一般的にナイスバディってやつか
「はい」と「えぇ」しか言っていない死んだ魚の目をしてる父、堅護(47歳)
身長170センチと普通
オールバックでちょいワル親父みたいな感じ
近衛家ではみんな揃ってご飯がルールである
仕事がある時は別なのだが
朝食と言うなの家族会議が始まった
「えー、先ほど首相からのお電話がありました。超厳重警護任務を任命された。」
と脂汗でビッショリな親父
「寝言は死んでからにしてくれ」
と厳しく俺
「もっとまともな事を言ってもらいたいです」
と冷静な鏡花
「「クスクス、お父さん、お父さん、もっと笑わせてよ」」
と息ピッタリな愛花と優花
「えっ、あの、お仕事?」
とおどおどしてる護
「あらあら」
とマイペースなお袋
「はぁ、ホントだよぉ…」
ガックリと肩を落とし半べそ気味の父親、近衛堅護
いつもふざけてるからこうなるんだよ
親父は普段から常にふざけてる
基本的には仕事と私生活はかなりの落差がある
私生活はどこにでもいそうなひょうきんな親父
家族を溺愛しうざがられる普通の親父
この前なんか、鏡花が「そろそろ彼氏でも探そうかしら」と言ったら半べそ掻きながら「まだお嫁にいかないでくれぇ……」と鏡花に抱き着いていた
もちろん鏡花に半殺しにあったが
家族を溺愛し家族思いは分かるが重すぎる
しかし、仕事になると一変する
俺たちは家族ではなく同僚に変わる
護衛は依頼主を死んでも守り抜く、そう命に代えてもだ
現近衛家代49当主、近衛堅護
その教えは代々受け継がれており、その教えは変わらない
「我が身、主の為の盾となり刃となる」
例え家族でも仕事では同僚、この教えは絶対である
依頼主が少しでも傷つけば拳と罵倒が飛んで、その身で依頼主を守れば称賛と激励をかけてくれる
しかし、親父は割り切ってるとはいえ俺たちは家族だ
仕事が終わった瞬間、溺愛親父に戻る
家族としてはやはり嬉しいものだがうざすぎる
非常にうざすぎる
特に近衛家女性陣がとてもうざがってる
毎回ケガをする度、仕事が終わり車に乗った瞬間「今から病院に行くから我慢しててね!!!!」と
とても法廷速度を守ってるとは思えない速度とドライビングテクニック
どんな場所で仕事が終わろうとも一番近い病院へ駆け込むのだ
そして決まり文句が「先生!!うちの家族を助けて下さい!!!!」
そう例えどんな傷でも同じ事を言うのだからたちが悪い
家族思いも度が過ぎると迷惑に変わるのだ
数度、お袋、鏡花、愛花、優花にお説教されてるのだがなかなか治らない
まぁそんな親父だが俺は尊敬している
厳しくもあり優しくもある親父が「フリーター」の俺を育ててくれたのだ
どの職業にもつけない俺
見捨てることなく近衛家のスキルを全て叩き込んでくれた
この恩はしっかりと返さねば
そんな事を思いながら親父から仕事の説明をされた
「今回の仕事は日本に来日されるお姫様の護衛だ。詳しい資料は後日送られてくるそうだ。来日される日は来週とのことだ。」
軽く仕事モードの親父になって軽く引き締まる空気
朝飯兼ミーティングはいつもこんな感じだ
「あらあら、今回はずいぶんと大仕事ですね」
お袋がいつも通りフワフワしている
「お姫様ねぇ…なんでうちが選ばれたのかしら?」
冷静に鏡花が分析
「「いつもよりなんか楽しそうだね」」
いつものハモリをする愛花、優花
「ぼ、僕たちが、お、お、お姫様の護衛……」
挙動不審の護
「いつも通り全力を尽くすしかないだろう」
朝飯を食べながら俺
「…なら、この仕事は全面的に受けることにしよう。後で連絡しておく。これより一週間は準備期間とする。各々仕事に必要な準備にかかってくれ」
真面目に答えた親父
しかしミーティングが終わるといつもの朝食の戻った
(……お姫様の護衛かぁ…なんでまたうちに依頼していたんだろう…)
そんなどうでもいいことを思いながら朝食を済ませた
近衛家道場
動きやすい恰好に着替えて日課をやるべく道場にきた
ここは近衛家が経営する道場
収入はそこそこあり道場一本でも経営できる程には儲かっている
門下生は20人くらいいて年齢はバラバラだった
入門する理由もバラバラだった
単純に体を鍛えたい者、護身術を学びに来る者、うちの身辺警護に入社したい者などさまざまいた
ここでは近衛流護衛術、近衛一刀流、護身術を教えている
基本的には護身術を教わりにくる人が多いが、うちの「近衛身辺警護」に入社している社員もいる
うちの家族が危険度の高い身辺警護を行い、わりと危険度が低めの身辺警護を他の社員が行っている
社員が行う任務は基本的に自給制で歩合制である
そこまで危険性がない場合一時間一人当たり5000円そのうち1000円は近衛身辺警護に入る仕組み
危険度が上がると5000円ずつ上がる仕組みである
これら任務で得られる収益ははっきり言って赤字だ
収益の5分の1しか利益にならないなど経営者として終わっている
しかし、なぜ身辺警護が潰れないか
道場で得られる利益を回してるわけではない
俺たち家族が稼ぐ利益がえげつないのだ
俺たちが受ける依頼は基本的に前金と成功報酬で依頼を受ける
依頼人の世間に及ぼす影響、重要度で金額が変わる
金で人の命を守るのだ
それなりの金額を受け取らねば俺たちは動かない
なんせ俺ら自身が盾となるのだから
契約は親父が依頼主と決める
当主ならば当たり前だがそこには別の意味も入っている
こいつはうちの家族が命をはってでも守るべき人物なのか
金を積めば守ってもらえるなど傭兵の仕事だ
警護と傭兵の違いは見極める事だ
親父のスキルに「判別の極み」がある
それは善と悪、命の重みを見極める能力
そこにはどれだけ重い決断があるか俺には理解できない
家族の命をかけるだけの価値が依頼者にあるのかどうか
例え依頼者に価値があったとしても家族を全滅させてまで依頼を受ける必要はない
親父の線引きはそこだ
飛び込みの依頼であっても見極める
しかし今回なぜこんな依頼を引き受けたのかがよくわからない
首相とはいえ断ろうと思えば断れる
家族を天秤にかければ当然のことである
どこの国のお姫様であれそれなりの警護が必要なはずだ
(俺らみたいな民間身辺警護ではなく、もっと高貴な人たちが使う皇族身辺警護があるはずなのに)
ぼんやりと考えながらストレッチをしていると
「兄さん、いつも通りやろうか」
鏡花も動きやすい恰好に着替えてきたようだ
「……わかった」
ストレッチを止め、中央へ行く
日課、それは俺たち兄妹で組手をすることだ
基本的には俺を鍛えることから始まったものだった
そう過去形である
今では俺が一番強い
昔は妹たちや護にボコボコにやられていたが、さすがにこれではまずいと猛特訓したのだ
なんの才能もスキルも使えない俺は努力しかなかった
この世界にはスキルがあるが大まかには3つある
職業について得られるスキル、特殊なユニークスキル、そして職に就かなくてもとれる習得スキル
俺が取れるスキルは習得スキルだけ
なんせ「フリーター」の俺には就職できないので職業スキルは取れないのである
この世界には体のどこかに黒い円の入れ墨が刻まれて生まれてくる
大抵は手の甲に刻まれてくるのだが、稀に背中だったり足になることが多い
特別困る事がないので気にする人は少ない
そうあるだけましなのだ
俺から言わせて見ればそんな感じだ
俺には無いのだ、黒い円の入れ墨が
そうどこを探してもなかったのだ
この確率は50億人に1人の確率と言われている
実際にはもっと確率は高いと思うが
なんせ確認されてる「フリーター」は俺1人である
「フリーター」はこの世界では厳しすぎる
職業スキルが取れない以上、習得スキルに頼るしかないがそれができれば苦労はない
習得スキルは「アナログスキル」と呼ばれている
普通の職業スキルは「オートスキル」と呼ばれている
職業レベルが上がればスキルが勝手に習得できる
職業スキルはその職に就いていいれば思ったときに思い道理に発動できる
自分のレベル内ならどんな事も可能だ
しかし習得スキルは学ばなければならない
そして身につけなければならない
問題はそこにあった
レベルが上がれば身につくスキルと自分で身につけなければいけないスキルは雲泥の差だ
俺は近衛流護身術と近衛一刀流を身に着けるまで10年の歳月をかけた
この二つを身に着けるのに他にも色々身に着けたがそれは副産物でしかない
しかし二つのスキルを身に着けるのに10年かかる
ほかの妹たちや護はこの職についてすぐに身に着けた
そうこの差が絶望的なのだ
生きてく上でスキルは必須、しかし「フリーター」は就職できない
このことから「フリーター」は生まれて間もなく天に帰されるのだ
これは暗黙の了解であり、誰も罪には問えない
それを承知の上で親父達は俺を生かしてくれた
『俺の息子はどんな事があっても俺が最後まで面倒見る』
この事は俺が中学生の時にお袋から聞いた
俺が学校でイジメにあってた頃で悩んでた時期だった
(色々あったなぁ………)
そんな事を思いながら組み手の位置についた
感傷に浸ってる場合ではない
雑念があると妹たちに負けてしまう
「お願いします」
鏡花の一礼
「お願いします」
俺も一礼する
開始の合図はなくお互いが構えた時が開始の合図
「………しっ!!!」
鏡花からの容赦ない右正拳突き
それに対して俺は近衛流護身術を発動
壱の型「受け流し」
これはレベルに合わせ受け流せる攻撃が決まる
そう自分の「職業」レベルに合わせた受け流し
ここで疑問に思うのが俺のレベル
残念ながら俺にレベルはない
「フリーター」に職業レベルはない
ならば何のレベルで発動しているか
それは「習得スキル」のレベルで決まる
鏡花の職業レベルは90
しかもただの正拳突きではなく近衛流護身術弐の型「剛撃」を発動して
レベルに応じて攻撃力を上げる型
鏡花ならチタン合金すら貫通する一撃
速さも常人なら目で追えないスピードだ
「はっ!!!」
突いてきた腕に内側から力をかけて軌道を外に反らす
「しっ!!!」
反らした勢いを利用して「剛撃」を使った左足上段蹴り
スッと頭を後ろに下げて紙一重で避け軸足を払う
鏡花はバランスを崩した風に見せかけか放った左足を地面につけそれを軸にして右足で俺に足払いしてきた
もちろん「剛撃」を使って
鏡花はこう思ったんだろう
足払いしてバランスを崩した所に連撃を入れると
そうはいかない
「ふん!!!」
俺は「受け流し」を発動
鏡花の足を受け流すのではなく威力だけを受け流した
壱の型「受け流し」の本質は物体のベクトルを反らす物だが俺は違う物に進化させた
そう威力の受け流し
受けた威力を体に流しそれを放出する
壱の型改「受け返し」
俺と鏡花の足はぶつかるが威力は俺が吸収したので痛くはない
「お返しだ」
吸収した威力は放出しなければならない
放出しなければ体の中でも暴発してしまうからだ
手をパーにし貰った威力に「剛撃」を乗せて鏡花の目の前で素振りした
バン!!!!!!!!!!!
音速の壁を破った音と衝撃波が鏡花を襲う
俺にくる衝撃波も「受け返し」鏡花に当てた
ドン!!!!!
と吹き飛んだ鏡花は壁にぶち当たって崩れ落ちた
多少は「受け流し」で反らしたみたいだが全て受け流せなかったみたいだ
それも当然だ
俺の習得スキルレベルは
近衛流護身術500
近衛一刀流500
である
これは職業スキルと習得スキルのメリットデメリットである
まず職業スキルは任務または仕事を達成出来て初めて経験値となる
それに伴うスキルの向上、ステータス向上に繋がる
メリットはスキル、ステータスが均等にムラがなく上がる事である
デメリットは任務または仕事をしないと経験値に繋がらない事である
故に鏡花の近衛流護身術は90となる
一方、俺は習得スキルしかない
習得スキルはそのスキルを使えば使う程レベルアップしていく
メリットはスキルを上げやすい事だけ
デメリットはそのスキルしか上げられない事である
しかし俺には時間が沢山あった
就職し職業スキルを上げている同年代がいるなかひたすら近衛流を練習した
二つのスキルだけを毎日、反復練習していた
習得するのには10年かかったが習得した時に驚愕した
普通レベル1からなのだが習得した時には300を越えていた
7つの型からなる近衛流護身術と近衛一刀流
完璧に仕上げる為習得した型も全て練習していたら経験値が蓄積していらしい
習得してからも鍛錬を怠ったことはなかった
だからこそレベル500まで駆け上がれた
「……次」
吹っ飛んだ鏡花は放置し次の相手を呼んだ
「「今日は勝てるかなぁ」」
笑いながらハモる愛花と優花
この二人は二人で一人前となる
なぜならユニークスキル「共鳴」を持っているからだ
二人から聞いた話だが、この「共鳴」は全ての感覚、記憶、意識が共有できるスキルである
これだけ聞くとそこまで強くはないと思う人はいると思う
しかし、愛花、優花はこの「共鳴」を育てた
ユニークスキルも習得スキルと同じく使えば使うほどレベルが上がる
この二人は生まれた時から「共鳴」を常に使い続けた
医者にも分からずお手上げだった
物心ついた頃でも「共鳴」を使い続けた
そしてこの「共鳴」が化けた
ユニークスキルの上位互換エクストラスキル「繋がりし者」に進化させてしまった
エクストラスキルとはユニークスキルを極め進化させた姿
ユニークスキルとは比べ物にならないくらい強くなっている
これも聞いた話だが、二人の体はどっちの意識でも動かせるらしい
例えば愛花が優花を歩かせる事ができる
優花が愛花を立たせる事ができる
半径1キロ以内ならどこにいても繋がれる
パッと聞いただけではそんなに恐ろしくないと思うがそうではない
この二人に死角はない
視覚を共有でき、思考回路を共有でき、相手の体を動かせ、抜群のコンビネーションがとれる
そう自由に動かせるもう一人の自分がいるのだ
更に近衛流も使える
二人の経験値も共有できるのでつまり二倍の速度で成長していく
(俺にとっては羨ましいかぎりだ)
中央に並び
「「お願いします」」
二人の一礼
「お願いします」
俺は一礼しすぐに構えた
二人もすぐに構え仕掛けてきた
愛花の後ろに優花が隠れ列を組んで突っ込んできた
「はっ!!!」
愛花の躊躇いのない「剛擊」の左正拳突きが俺の顔面を襲う
「しっ!!!」
俺は「受け流し」で内側から外側に愛花の手を受け流した
いや受け流してしまった
そう後に優花がいなかったのだ
気配で探したが見当たらない
近衛流護身術参の型「隠密」だ
全ての気配を消し去り、相手の視覚から己を認識できなくする型である
「りゃぁぁぁぁ!!!!」
愛花の「剛擊」の連打が始まった
優花の気配を探すのをやめ「受け流し」に集中した
右正拳突き、左なぎ払い、右フック、左ジャブと様々な連打で俺を襲ってくる
「はぁぁぁぁ!!!」
その全てを「受け流し」でさばく
「しっ!!!!」
愛花は左中段蹴りを二人の「剛擊」を乗せ放ってきた
そう「繋がりし者」はお互いの能力を一人の体で発揮できるのだ
つまりは二倍の「剛擊」
二人の職業スキルのレベルは110
合わせて220の「剛擊」だ
「もらった!!!!」
左手で蹴りをもらい「受け返し」を発動
愛花に食らわせたようと右手を振りかざした瞬間、体が硬直した
「にっしっしっ」俺の後で優花が不敵に笑った
そう近衛流護身術四の型「捕縛」である
「捕縛」は縛る物がなくても相手を拘束できるための型だ
相手に自分の気を流し神経を麻痺させる技だ
優花は俺の背骨に「捕縛」をかけた
それも二倍にした「捕縛」
背骨は全身に信号を行き渡らせるための重要な役割がある
そのため俺の動きは止まった
レベル的には俺の方が上なので解除できるが二秒かかる
いや二秒もかかってしまう
「捕縛」をかけ二人は瞬時に飛び退いた
俺の右腕が暴発することが分かっていたため
ドン!!!!!!!
鈍い肉を叩く音が響いた
吸い取った威力が右腕で暴発したのだ
金属バットで数百回全力で殴られた痛みが一瞬で襲ってくる
「……ちっ」
「捕縛」を解除し右腕を確認
さすがにレベルが上だとはいえ、威力をまともに食らえばどうなるかわ分かっている
(粉砕骨折は間違いないな)
長年に渡る修行で身についた感覚
厳しい修行はケガの毎日だった
骨は折れるは内臓は破裂するわ、常人ならショック死してもおかしくない
ケガをしたから修行は中止とはならない
なぜなら
「……八の型、気孔治癒」
スッと腕の痛みが引いた
八の型「気孔治癒」はレベルに応じて相手又は自分のケガを治す型だ
気で損傷箇所を治癒し元通りにする
使った後はケガの度合いにもよるが脱力感に襲われる
自分の気を使うので体力を消費する
無限には使えないが俺なら大体のケガは完治できる
これもレベルが高いおかげである
そう修行の時、俺がケガをしたらお袋が使って治癒させた
こうして終わらない修行の完成だ
他者から見たらただの地獄絵図なのだが、俺にとっては希望の修行だった
これで一人前になれると思い修行に明け暮れた
「「やっぱこれくらいじゃぁ倒れないかぁ」」
ハモりながら次の構えをする二人
「惜しいな、悪くはない手だがあと一歩足りないな」
右腕を確認し構える俺
悪くはなかった
そう「捕縛」のタイミングを変えていればかなりよかった
威力が俺の心臓付近で「捕縛」されていたらかなりヤバかった
もっとも「受け返し」の威力がどこを通ってるかなんて俺にしか分からないだろうけど
「来い、次で終わらす」
俺はゆっくり目を閉じた
習得スキル「心眼」を発動させた
このスキルは目がやられてもいいようにと親父が近衛流の修行中に特訓した物だ
目隠しをし親父との組み手
想像を遙かに超えた修行だった
見えない相手、見えない攻撃
恐怖しかなかったが一週間たった頃、ようやく習得できた
最初は半径1メートル以内なら死角はなかった
360度、どんな方向からも対応できた
それから修行を積んでいくと5メートル、10メートルと伸びていき最終的には50メートル以内なら、どんな物も感知し対応できるようになった
「心眼」のレベルは120
副産物とはいえなかなか育ってしまった
「………ふぅ……」
全神経を集中させ「心眼」を発動
「「いっくよぉー」」
二人はまた一列になり突っ込んできた
今度は優花が前、後には愛花
優花が「剛擊」の左正拳突きを顔面めがけ放った
(芸がないな)
そう俺には全て見えている
優花が正拳突きを放った瞬間、愛花が「隠密」を使い俺の右後ろに回った
(丸見えだ)
右手を愛花の方に向けて、額で正拳突きを受け止めた
「受け返し」を発動し正拳突きを無力化、愛花の方へ威力を砲丸状にし発射
ドン!!!!
と砲丸が当たり壁まで吹っ飛んだ愛花
崩れ落ちようやく姿を現した
「がぁ!!!!」
優花もその場に崩れ落ちた
「便利なスキルだがここは切っとくべきだったな」
そう二人のスキル「繋がりし者」は凄まじいスキルだが、感覚共有があることがネックだ
見えてるとは知らずに突っ込んできた愛花はスキルを切らなかった為、優花を巻き込んでしまった
簡単に言うなら学習をしないバカな妹達だ
これが最初という訳ではない
何回も同じ手で負けているのだ
(まぁ、心眼のスキルを説明してないからしょうがないか)
スキルは自分の武器である
そう簡単に内容を教えたりしない
しかし、バカ1号(愛花)、バカ2号(優花)は俺にペラペラ「繋がりし者」の内容を話してしまったのだ
(ホントバカだよなぁ……)
ずるずる優花を引きずって壁沿いに寝かせ最後の対戦者へ向かった
「よ、よ、よろしくお願いします」
ビクビクしながら一礼する護
「よろしくお願いします」
俺も一礼し構えた
護は弟妹達の中で一番苦手な相手だ
スキルを取るまでは一番ボコボコにされた相手だ
護は人に脅えてる訳ではない
自分の強さに脅えてるのだ
誰かを傷つけてしまうかもしれない、もしかしたら殺してしまうかもしれないと
護が持つユニークスキル「鬼の覚醒」
これはお袋も持っているが時と場合によっては諸刃の剣になってしまう
体の中で鬼を宿しているのだ
最強最悪の鬼が宿っている
これはお袋が「鬼神族」の出身だったのでそれをそのまま受け継いだのだ
しかし、この「鬼の覚醒」を持ってるのはお袋と護だけだ
一度お袋に聞いてみたが「盾護にはまだ早いからねぇ」と言われはぐらかせられた
(意味が分からん)
構えて待っていると護が「鬼の覚醒」を発動した
「ハァハァ……行くぞ!!!」
スキルを発動すると性格が少々荒くなるがこれは鬼の影響らしい
護は鬼を完璧制御できないらしく5割くらいが限界らしい
それ以上同調すると鬼に精神を乗っ取られるらしい
それでも5割の鬼の力を引き出せてる
目にも止まらぬ速さで距離を詰めて「剛擊」の右ラリアットが飛んできた
「しっ!!!」
「受け流し」を発動し下から上に流したが腕が痺れる
護の職業レベルは90と低いが「鬼の覚醒」を使う事で上乗せし590にまでなる
そう5割で500レベル上乗せできるのだ
あまり差が開き過ぎると「受け流し」が上手くいかないため多少ダメージが入るのだ
「らぁぁぁ!!!!」
流された腕をそのまま俺に叩きつけにきた護
(やっぱり流しきれなかったか)
即座に頭の上で腕をクロスし
「五の型、「金剛」!!!」
近衛流護身術五の型「金剛」は体を硬くする型だ
レベルに応じて硬さが変わるが、俺の場合はジュラルミン以上の硬さだ
護はお構いなしに拳を叩きつけた
ガギィィィ!!!!!
両者譲らず競り合ったが勝ったのは護だ
軽く吹き飛ばれたか痛みはそれほどなかった
護は鬼とあまり上手くいってないらしく制御が難しいらしい
その上近衛流護身術を使うのだ
かなりの集中力が必要だ
護曰く、右手でピアノを弾いて左手で料理を作ってる感じだとか
「ハァハァ……」
「鬼の覚醒」は上手く同調していないと体力の消耗が激しいとお袋が言っていた
なので護は常に短期決戦で勝負を決めてくる
(しかし、任務の時はそこまで消耗してなかった気がするが……)
明らかに組み手の時は消耗が激しいのだ
護を観察してると姿が一瞬で消えた
一瞬「隠密」かと思った
俺はゾクッと左後から死の危険を感じた
直感を信じて思いっきりしゃがんだ
チッ!!
と髪の毛がなにかにかすった
それは護の横なぎ払いの手刀
背中に冷や汗を大量に流しながら即座に回避
近衛流護身術、六の型「迅雷」である
一瞬だけ人ならざるスピードを出せるのである
さながら雷の如く
(あっぶねぇ……)
最初は「隠密」と勘違いしてしまったがなんとか回避できた
「ハァハァ……ハァハァ…」
立ってるのがやっとぐらいの護
(やはり消耗が激しいな)
畳みかけるなら今しかない
「七の型、「幻灯」」
俺の隣が一瞬閃光し、もう一人の俺が出来た
近衛流護身術七の型「幻灯」はもう一人の自分を作り出す事ができる
しかし、本体の半分しか能力を発揮することしか出来ない
それでも俺の分身の近衛流護身術は250となる
「…………なら、俺だって七の型「幻灯」!!!」
護の隣が閃光し分身が現れたが様子がおかしい
「…………フッフッフッ、今回だけだぞ小僧」
そうそれは最強最悪の鬼だった
「兄上とは二回目ですな、この「滅鬼」、分身体ゆえ兄上と同じレベルだ」
護の姿なんだが声が違う
殺気の種類も違っていた
「今回はどうしても主が勝ちたいと言う事で我も手を貸そう」
「ハァハァ……滅鬼……あんまり派手にやらないでよ……」
「主に言われるまでもない、二回目の実体だ、楽しませてくれよ」
俺は滅鬼、護と俺の分身体のマッチバトルになった
護は鬼を体から出したとはいえ「鬼の覚醒」を維持している
半分は護の中に置いてきたみたいだ
「久しぶりだな滅鬼、あの時よりは強くなっているのか?」
「当たり前だ、主が強くなれば我も強くなる、そのため組み手の時はわざと同調しづらくしている」
やっと謎が解けた
滅鬼は護の修行をちゃんとしていたんだな
兄として少し嬉しくなったが今は組み手だ
「じゃぁやろうか」
「主の為に一肌脱ぐか」
一瞬にして二人の姿は消え
バン!!!!!!
少し離れたところで拳と拳がぶつかった
「滅鬼、なかなか強くなったな」
「主が強くなっただけだ」
俺は「剛擊」を込めた下段蹴り、滅鬼は「剛擊」を込めた正拳突き
「しっ!!!」
滅鬼下段蹴りは止めず、俺は右手で「受け流し」を発動
正拳突きを「受け流す」
「はっ!!!」
滅鬼は下段蹴りを「受け返し」弾かれた正拳突きに上乗せし手刀に変えて俺に切りかかる
(「受け返し」を習得してるとはな)
軽く驚いたが手刀の対象をしなければ
「組式「金剛擊」!!!」
俺は手刀に「金剛擊」を乗せて滅鬼の手刀にぶつけた
組式とは近衛流護身術の型を組み合わせて使う技である
弐の型「剛擊」、五の型「金剛」を組み合わせた物が「金剛擊」だ
これは単純なレベル足し算なので1000レベルの威力がある
滅鬼も「受け返し」と「剛擊」を足して1000レベルだ
ガッギィィィ!!!!!
お互い手刀を振り抜いたが相殺した
同じレベルだからなんとか相殺出来たがかなり体を酷使している
俺のレベル以上の技を使っているので体のあちらこちらで悲鳴があがっている
それは滅鬼も同じだった
しかも「幻灯」を使ったタイミングも悪かった
使った時の状態をコピーするのでだいぶ疲労した状態で登場
しかも1000レベルの技を使ったのでさらに体の負担が増してるはずだ
「ハァハァ……今度出て来るときは……最初から出してもらうとしよう」
最初は粋がってた滅鬼だがかなり追い詰められてる感じた
(てか、自分で同調しづらくしてたから自業自得だな)
弾かれた手を動かしとっとと決着をつけることにした
次は護を相手しなくてはならないからな
俺の「幻灯」はかなり追い詰められている
250レベルにしてはけっこういい勝負出来てたと思う
「滅鬼、こっちは次で決めようか」
「もとよりそのつもりだ」
互いにスッと構える
最初に動いたのは滅鬼
「迅雷」を使って俺の後ろに立った
しかし俺は「心眼」で見切っていた
「しっ!!!!」
滅鬼が全力の「剛撃」で正拳突きを放った
それでも俺はまだ動かない
かなり集中してるせいか時間がゆっくり進んでる気がした
(これならいける)
少しずつ滅鬼の拳が背中に迫ってくる
(まだだ……まだだ……)
わずか数センチに迫っても動かない
勝負は一瞬だ
拳が背中を突いた瞬間
「はっ!!!!」
「受け返し」を発動し、拳の威力を吸収
「迅雷」を使い滅鬼の後ろに立ち、背骨に「捕縛」と威力をかける
「組式、「流縛」」
壱の型「受け流し」と四の型「捕縛」を組合せたのが「流縛」
俺は護の方に歩みを進めた
バン!!!!!!!!!!!
後ろの方で滅鬼が壁まで降っとんでいった
スッと滅鬼の気配が消えた
護との最後の戦いに備えて拳を潰さないように「流縛」を使った
相手の威力をそのまま相手に返し、「捕縛」で相手の動きと返した威力を止める
しかし、滅鬼は追撃の為「捕縛」を解除する
威力を入れられてる事にも気がついていない滅鬼
「受け返し」た威力も解除され、内側で暴発してしまうのだ
「ハァハァ………兄さん……これで最後……だね」
もう虫の息の護
「あぁ、次の一撃で決める」
早めに護を休ませてやりたい
ここまで耐えられたのは初めてだ
正直、兄として嬉しい限りだ
その敬意を示さなくてはならない
(強くなったよ、だから全力で潰しにいく)
俺はお前より強い、また強くなってかかってこいと
そういう思いを込めて「剛撃」を発動
「ハァハァ……あれは……僕の物だ……」
護はぎこちなく構えた
そう今回、組手で最後まで立ってた物に景品が出るのだ
物欲の少ない俺もあれは欲しい
「来い!!!護!!!」
最後の一撃を放つ為、「剛撃」を構える
護の「鬼の覚醒」が切れかけている
しかし油断ならない
最後の一撃ほど怖いものはない
「ハァハァ……これは…使いたくなかった…けど……」
護もよろよろになりながらもしっかりと構えた
(奥の手でもあるのか?)
俺が覚えてる限りでは護にそんな手はなかったはず
「鬼の覚醒」もまともに制御できていない
近衛流護身術も本来の力を発揮できそうにない
(だが、何かあるに違いない)
慎重にかつ大胆に護との距離を縮めた
「しっ!!!!」
「剛撃」を込めた正拳突きを放った
スッと護の姿が消えた
最後の力を振り絞って「迅雷」を使ったのだろう
しかし気配が全く消えていなかった
俺の背後に移動したがなぜか行動していなかった
(もう終わらせてやろう)
俺は振り返り護に最後の一撃を放った
ブシャ!!!!!!
派手な血しぶきが舞い崩れ落ちた
勝者は片手を突き出し肩で息をしている
勝者、護
そう倒れているのは俺の方だった
近衛家リビング
兄妹全員お袋に「気孔治癒」をかけてもらい全快である
「えへへへ、美味しいなぁ」
護が上機嫌で優勝賞品を食べている
今回の優勝賞品はお袋の特製プリンだ
普通なら別に気にもしないのだが、お袋のスキルがヤバいのだ
スキル「料理」、これは主婦や料理人であれば誰でも持っているスキルである
お袋は小さい時から料理が好きだったらしく、暇があればお菓子やご飯を作っていたそうだ
なんでも生まれた時から「鬼の覚醒」を習得し、鬼との対話がすんでいたそうだ
本来行うはずだった鬼との対話、その修行を省いて体のみを鍛えたいた
余った時間は料理をしていたら習得スキルで「料理」を手に入れたそうだ
問題はお袋のセンスがずば抜けていたことだった
前にも話したが、習得スキルは使えば使うほど伸びていくスキルだ
使うほど伸びるスキルとずば抜けたセンス
なんとお袋は使い続けた事によりユニークスキル「食の女神」を出現させた
このスキルは料理をする時に発動できる、発動している間は食材がどんな料理が最適か、どのような加工が最適かなどの事が分かるらしい
もちろん、うちでは何かの祝い事の時にしかスキルを使ってくれないが、それでも「料理」のレベルが高すぎるのだ
「料理」700レベル
これは最高峰の料理人でもたどり着けないレベルである
うちの家族はお袋のおかげで舌が肥えている
今回、「食の女神」を使用して優勝賞品になったかというと
「最近、組手がマンネリ化してきているので母さんに頼んでみました」
と親父が言い出したのだ
確かに組手ではマンネリ化してきていた
朝練のスパイスを足してみたかったそうだ
俺たち兄妹が何かに釣られる物を探していたら
「お菓子なんてどうかなぁ?」
おっとりとしたお袋が提案してきたのだ
「今回の賞品は「食の女神」を使ったプリンでぇす」
爆弾発言だ
俺たちにとって一年に一回だけ食べれる
「食の女神」を使ってケーキやオードブルなど一人前だけ作り、他はいつも通り作る
誕生日の日だけ食べれるのだ
しかも食べれるのは誕生日を迎えた人だけ
俺もこれはとても楽しみにしている行事だ
それを組手の優勝賞品にしたのだ
組手前、俺たち兄妹はリビングで火花を散らしたのだ
まさに修羅場、殺気と威圧がひしめき合うリビング
「うんうん、これでマンネリ解消だな」
「あらあら、やりすぎちゃったかしら」
親父とお袋は高見の見物と俺らを見ていた
そうして始まった特製プリン争奪戦
見事に護が優勝し特製プリンを美味しく食べている
「護、美味しそうね」
うらやましそうに鏡花
「「いいなぁいいなぁ」」
ハモリながら愛花、優花
「……あんな勝ち方は反則だ」
ふてくされながら俺
「兄さん、僕はルール違反してないよ」
悔しいが護の言う通りだ
「最後まで立ってた人が優勝」というのが今回のルール
それ以外ルールはないのだ
護以外の俺たちは組手しか頭になかった
意表を突いた護の戦略勝ちである
「それにしてもまだ耐性ついてなかったのね、兄さん」
鏡花がにやりと俺に投げかけてきた
「うるせー、お前には関係ない」
そっぽを向いて誤魔化した
今回、護がどう勝ったかというと
最後の一撃を入れる為に振り返った俺だが、護は振り返った俺の目の前になにかを突き出していた
俺は関係なく拳を護に放とうとしたが本能がそれを許さなかった
集中してたのが仇となった
目の前にあった物、それはエロ本だった
アニメ系のエロ本だったが表紙がヤバかった
黒髪ロングの清楚系な子が発情しきった顔で上目遣いだった
服もはだけていて右手で胸を隠し、左手で股を隠していたが足には垂れてきたと思われる愛液がいやらしく描かれていた
その絵を見た俺はとてつもない興奮に耐えきれず鼻血を吹き出し気絶してしまった
そう俺の唯一の弱点は女だ
昔から修行ばかりしていた俺は女と言うものを知らなかった
テレビもほとんど見なかったし、見ても天気予報位だ
小、中学校ではイジメもありほとんど行ってな性教育を全く受けてないし、恋愛もしたこともなかった
実を言うとなんてことはないと思っていた
組手や修行が終わると家族で風呂に入っていたからだ
時間がもったいないのもあったし、別に家族だから何にも気にしなかった
女の体はこうなっているのかレベル
お袋、鏡花、愛花、優花の体も全部見たがなんとも思わなかった
しかし事件は起こった
数年前
近衛流を習得したての頃だった
お袋と俺で簡単な任務に付いた
一人暮らしの女性の護衛任務
まだ任務になれてない俺は普通の社員がやりそうな任務で慣れようとの事だった
内容はストーカー被害に悩んでるとの事だったので、出勤と帰宅と家にいる間の護衛になった
その日は出勤はなんともなかったのだが、帰宅中にストーカーが現れた
帽子を深くかぶり長いコート、走りやすそうなスニーカー、大きめのマスクをしていた
男女の区別が分からなかった
俺とお袋は依頼人から百メートル程後で尾行する形でいた
帰り道の途中、脇道から一人怪しい人物が依頼人を尾行し始めた
依頼人の後ろ50メートル後ろにストーカー、その後ろに俺たちがつける形になった
しかし、何をするわけでもなくただ尾行して依頼人がマンションに着くとストーカーはそのまま通り過ぎていった
お袋はストーカーを追って、俺は依頼人の護衛をすることになった
依頼人の家に上がり盗聴機がないか探したがなかった
依頼人に告げると安心し風呂に入るとの事だった
俺は脱衣場の入り口付近に立ち依頼人が風呂から上がるのを待っていた
風呂から上がり体を拭いてるような音が聞こえた時だった
「きゃぁぁぁぁ!!!!!!」
依頼人の悲鳴とともに依頼人が出てきた
全裸で
「む、虫がぁぁぁぁ!!!!!」
依頼人はひどく怯えていたが俺はそれどころではなかった
初めて見る家族以外の女性の裸
出るところは出ていて、ウエストはきゅっと引き締まり、太ももは少しむちっとしていた
初めての出来事に戸惑い思考停止した
そして頭が導き出した答えが
これがエロとゆう物なのか
と、正常に思考が働くと俺は酷く興奮した
心臓の音が聞こえる位鼓動し顔が沸騰したかの如く紅くなり
ブシャ!!!!!!!
血管の限界圧力を一瞬で超え鼻血を勢いよく吹き出し倒れた
「キャァァァァ!!!!」
と依頼人の悲鳴が上げたが俺は薄れゆく意識の中、頭の中がピンク色に染まっていた
その後、お袋に連絡がいき戻って来てくれた
ストーカーの犯人を捕まえて
「捕縛」で捕まえていたため動く事は出来ないみたいだった
お袋は依頼人から状況を聞き「あらあら」と困った顔をしていた
事情を聞いたお袋は依頼人に謝罪し俺の後始末をやってくれた
なんとか平常心を取り戻し依頼人に土下座しひたすら頭を床にこすりつけた
「いえ、なんというかこちらこそすいませんでした、お見苦しい物を見せてしまって……」
と言うが俺には効果抜群だった
依頼人の全裸を見てしまって、鼻血を吹き出すという失態を晒してしまった
「大変申し訳ありませんでした!!!!!!」
再び額を床にこすりつける俺
それしか謝罪方法がなかった
「なんといいますか………その……そんなに……興奮しちゃいました?」
俺の頭の中でフラッシュバックしてしまい土下座しながら鼻血を吹き出すという更なる失態を晒してしまった
床を自らの血で汚してしまう護衛がどこにいるのだ
しかも依頼人に興奮して
一旦、依頼人には離れてもらいお袋と俺は再び床を掃除し、次の行動に移る
ストーカーの尋問である
依頼人は怖いと思うが「捕縛」を使っているので全く問題ない
ストーカーが油断してる所を捕縛したので立ったままの状態から動けない
俺は気合いを入れ直し、尋問をすることにした
頭の中はあの修行でいっぱいにしフラッシュバックを吹き飛ばした
お袋も俺の顔を見て問題ないと思い尋問に同行させた
帽子とマスクを取るとストーカーは女性だった
喉と口の「捕縛」を解いて話せるようにした
「あなたはなぜストーカーをしてたのですか」
尋問の練習で俺が聞き出している
「わ、私はストーカーなんてしていない!!!」
ここまできてまだしらを切るか
「お前の格好や行動は全て防犯カメラに記録されてある、後で警察に証拠として提出する」
これは半分本当で半分嘘だ
マンション入り口の防犯カメラにはバッチリ写ってると思うが、他の防犯カメラに写ってるかどうか定かではない
しかし、嘘は言ってない
これは典型的なストーカーに白状させる為の定型文だ
「そ、それは…………」
明らかに口ごもるストーカー
(まぁ、犯人確定だな)
後は警察にでも任せるか
そう思った矢先
「あの……あなた……いつもコンビニで会う店員さん?」
依頼人が後ろの方から声をかけてきた
「……………そうです」
あっさり白状してくれた
これで警察に連行すれば終わりだ
「その……何で私なんかを?」
「いや……その……」
言いづらそうにしているストーカー
「いつもコンビニでレジしてくれてましたよね、私にだけ声かけてくれましたよね、おはようとかお帰りなさいとか、あれのおかげで私仕事頑張れたに……どうして………」
なにやら顔見知りらしく重たい空気が流れる
「だって………好きになって……声をかけるだけで満足してたけど……なんか収まりがつかなくて……気がついてたらストーカーやってて……何度もやめようと思ったけど………やめられなくて……本当にごめんなさい」
俺にはよく分からんが同姓愛者でストーカーがやめられなくなったと、そうゆうことらしい
それにしても空気が重い
なんと言うか味わった事のない空気の重さにどうしていいかわからない
「あのぉ、そろそろ警察の方に連行して行きたいのですがぁ?」
流石にこれは俺でも分かる
お袋が空気を読まなさすぎる
「あの……警察には連れていかなくちゃダメですか?」
依頼人からの発言は俺には理解出来なかった
自分の身に危険を加えようとしたストーカーを許そうとの事だ
「その……なんて言うか……そこまで悪い人じゃないと思うんですよ」
ストーカーはボロボロ涙を流し申し訳なさそうな感じでいっぱいだ
「うーん、ちょっと待って下さいねぇ」
そうゆうとお袋はストーカーの頭に手を置いた
これはお袋の中にいる鬼がスキル「真実の天秤」を発動しているらしい
鬼の名は「鬼姫」
今のところ鬼神族最強の鬼らしい
善と悪を見極めるスキル「真実の天秤」
尋問にお袋がよく使うスキルだ
「…………そうですねぇ、悪には傾いていないので大丈夫だと思いますぅ」
お袋が大丈夫なら問題はない
「そうですか……あの二人で話したいので自由にさせてあげてもらえないですか?」
そうは言うものの流石に少し心配だ
「うーん、分かりましたぁ、ただしぃ歩けるようにはしませんからぁ」
「話せれば大丈夫です」
しかし俺は心配なので
「身体検査だけしますからお待ち下さい」
スッとストーカーのコートに手をかけ
「えっ!ちょっ!!まっ!!!」
俺はストーカーの言葉を聞かずにコートの前を開けた
いや、開けてしまったのだ
ブシャ!!!!!!
なぜかコートの中身全裸だった
一日に知らない女性の全裸を二度見た俺は精神的にも血液的にも限界だったので意識を手放してしまった
後日談なのだが、あの後は大変だったみたいだ
お袋は親父を呼び、状況説明し俺を病院へ担いでいってくれたそうだ
お袋は依頼人とストーカーの間に入り、仲裁したそうだ
帰ってこれたのは朝方だったらしいが
俺はと言うと気がつけば病院のベットで目を覚ました
親父が横で見ていてくれてたらしいが、目が合うなり半笑いしながらのお説教
何も怖くないし、途中で吹いていたのでお説教が終わり次第一発ぶん殴った
医者に診断してもらったがやはり半笑い
流石に一発殴れないので我慢した
やはり病名がなく輸血が終わり次第返された
後に家族に付けられた事件名は「盾護大量鼻血事件簿」だ
そして病名は「女性耐性免疫力不足症」と名付けられた
俺の最大の汚点だ
近衛家リビング
そんな事件を思い出しなが護を軽く睨む
「こ、克服してない兄さんが悪いんだからね」
少しキョドっている護、しっかりプリンを守っている
しかし護の言う通りだ
このおかしな病を治しきれてない俺が悪い
ただ治療法が見つからないのだ
顔に手をやりマスクに触れる
顔の半分以上を隠すマスクをしている
さながら忍者のようなマスクだ
これは親父の知り合いの発明家に作ってもらった物だ
この中で鼻血を吹き出しても吸収し皮膚から輸血する優れものだ
いちいち輸血する手間を省いたのでかなり役にたっている
「セルフ輸血装置」と言うものだ
前までは親父が俺に気を使って女性警護は俺に当てないようにしていたが
これをもらってからは女性警護も付くようになった
さっきの組手のように極限の不意討ちでなければ倒れなくなった
鼻血はマスクの下でドバドバ吹いているが貧血にはならないのでいくらでも動ける
これを成長と言うのかがわからないが
「てか、鏡花、何で本気でかかって来なかったんだ?」
話しをそらそうと鏡花に振った
「……私のスキルじゃ兄さんに勝てないのよ、かなり相性が悪い」
鏡花の持つユニークスキル「鷹の目」
これは数秒先の未来を見通せるスキルだ
未来に合わせて行動すれば避けたり反撃できる
正直言ってチート過ぎる
しかもこのスキルを進化させエクストラスキル「第三の目」にしとか
このスキルもチート過ぎる
当たり前か
チートが進化したらそれ以上のチートになるよな
この「第三の目」だが、詳細は詳しく教えてくれないが、ifの世界を見ることができるそうだ
もしこうだったらや、もしこう攻めたらなどの先読みができるみたいだ
チート過ぎて戦う気がしないがこれを組手で発動した時に異変が起きた
構えて数秒で鏡花が泡を吹いて倒れたのだ
彼女にはもうひとつユニークスキル「思考高速」の進化したエクストラスキル「思考音速」を持っている
鏡花は人の何万倍の速さで思考を巡らせることができる
鏡花は何を見たのか俺には分からなかった
「……あんなの見せられたら勝てる訳ないじゃない」
鏡花はその話しを決して口にはしなかった
俺も聞くに聞けなかった
その組手があって以降、俺にエクストラスキルを使ってこなかった
他の兄妹たちにはかなり使っているが問題はないそうだ
組手順位は俺、鏡花、護、愛花優花の順番である
鏡花が護より強いというのが意外と思うが鏡花いわく
「当たらなければ勝てるわよ」
だそうだ
それなら俺との組手と同じだと思うが何が違うんだろうか
さっぱり分からない
「「乱戦なら負けないんだけどなぁ」」
愛花と優花は言い訳のように言った
しかし誰も反応できない
なぜなら「繋がりし者」にはもうひとつの能力がある
他人と他人を繋げる事だ
これを聞いて疑問を思う人がいるが、これは乱戦に限ってはチートなのだ
簡単に言うと他の二人以上の人間を愛花優花の状態にするのだ
つまり、感覚を共有し、思考を共有し、体を共有するのだ
あいつらいわく
奥義「死の共鳴」
この双子は生まれてから今までスキルをほとんど切らなかった
それに対して他の人が食らうと本当に地獄だった
実際に俺と護が被害にあった
組手の時に2対2で対戦した事があった
結果、傷をつけれずに終わってしまった
「繋がりし者」を食らってわかった
愛花優花は常人の域を軽く超えていた
護と俺の意識が共有した瞬間、護は膝から崩れ落ち、俺は恐怖に体が支配された
護は俺の地獄の修行の追想体験で過酷さで心がやられ、俺は「滅鬼」の恐ろしさにビビった
そして双子は仲良く俺らに攻撃してくる
防御しようと腕をクロスした
俺ではなく護が腕をクロスしていた
俺の行動は護で護の行動は護になっていたのだ
護は俺の記憶で戦意喪失
無防備な俺と軽くガードしている護はボコボコにやられた
ダメージも二倍になるので決着はすぐについた
「「にっしっしっし、あたしら最強だね」」
こんな事があり組手の時は一人で双子を相手にすることになった
しかし、この技を食らっていない者がいた
鏡花だ
本人いわく
「例え兄妹でも記憶や思考を共有したくない、あんなの新手のセクハラよ」
そう言い切った
「しかし、盾護の体質はなんとかならんのか?」
新聞を読んでいた親父がまた話しを戻してきた
(いい加減にしてくれよ…………)
諦めて会話に乗ることにした
「……俺だってなんとかしたい、このまま一生鼻血を吹き出す訳にもいかないからな」
「うーん、彼女でも作ったら治るんじゃなぁい?」
お袋がいつも通りふわふわな感じで会話に入ってきた
「そもそもそんな怖い顔してたら女の子も寄り付かないわね」
とどめを指す鏡花
「俺はそんなに怖くない」
たぶん
「修行してた頃からかなりいかつくなったからなぁ」
親父はフォローすらしてくれない
「「兄ちゃん、もっと笑わないと」」
愛花、優花の指摘は確かにそうだ
「…………こうか?」
マスクを外しためしに笑ってみたが
「な、な、何で血に飢えた獣みたいな顔してるの?」
護がマジで引いてる
「兄さん、人は見かけじゃないわ」
何かを悟ったように鏡花が俺の肩を叩いた
「「なんかマゾの人には人気出そうな顔だね」」
俺は特定の性癖の人にしかモテないのか
「まぁ、気長にな」
なんか親父は諦めたみたいだ
「人が真剣に悩んでるのに……お前らは俺をなんだと思ってるんだよ……」
軽くいじけている俺
心が折れたのでマスクを着ける
「あらあら、でもぉ顔より鼻血をなんかしないとぉ」
珍しく話しを戻すお袋に感心したが、遠回しに顔は諦めろと言われてるみたいで複雑だ
「「鏡花ちゃん鏡花ちゃん、ちょっとちょっと」」
あいつらに引っ張り出されてどっかに行ってしまった妹達
なんか嫌な予感がするが無視だ
「に、兄さんは好きな人いないの?」
護も唐突だな
「いなかったら問題でもあるのかよ」
当然好きな人はいない
他の女は好きになる前にまずエロく見えてそれどころではない
マスク無しでは出血死になってしまう
ドタドタドタドタ!!!!!
騒がしい妹達が帰ってきて
「「見て見て、今年着る水着だよう」」
振り替えると水着姿の妹達がいた
鍛えてるだけあってなかなか引き締まってる
愛花と優花の水着はペアルックで水玉の幼さ残るかわいい系の水着だ
結構布面積が小さくて胸を強調していてる感じだ
下はヒモパンで尻と太ももを強調している感じだ
「な、な、何で私まで……」
いつもの事だが被害者鏡花
鏡花も水着姿だ
なんと言うかかなり攻めている水着だ
上下一体型で正面から見たらVみたいな感じでギリギリ胸と股を隠してる感じだ
「あらあら、まあまあ」
お袋はいつもの通りで
「き、鏡花、流石にやり過ぎではないか!?」
親父がなんか焦っている
「ね、姉さん、攻めすぎ……」
護がなんか顔を紅くしている
「で、お前達は何がしたいんだ?」
バキッ!!ボコッ!!!ドカッ!!
一瞬何があったか分からなかったが三人にボコボコにされた
「最低ね」
「「兄ちゃんやっぱりバカだね」」
なぜボコボコにされ罵られなければいけない
たまにこういう事がある
女はよくわからん
そして俺に治癒をかけてくれないのはなぜだろう
依頼までそんな日常が続いた