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ルーニィ

作者: 珪石

森の奥では 満月の夜にルーニィがうまれる


木の葉の裏で眠っていた白い卵に月の光が届くと

ルーニィたちはその殻を破って卵から孵る

卵から孵ったばかりのルーニィは まんまるなお腹をして

月の光と同じ色の ふわふわな羽毛に包まれた体で

元気にポンポンとび跳ねる


ルーニィには口がない


お腹がすくと まんまるだったお腹がだんだんへこんでくる

お腹がすいても ルーニィには口がないので食べものを食べられない

けれどもルーニィはお腹がぺちゃんこになるまで

森じゅうを跳ねまわっている


ルーニィのいる森は緑が豊かで水が澄んでいる

獣もよく仔を産んで 大きく育つ

豊かな森のふもとには豊かな畑と

収穫に困らない人間たちの村がある


ルーニィは人の目には見えないけれど

たまに小さな子どもの前にだけ姿をあらわして そのまわりをとび跳ねる



ルーニィはとび跳ねながら森じゅうをめぐる


年とった木の枝々を ポンポン蹴って

緑の葉を茂らせたり


けがをした獣の脚にとび乗って

折れた骨をつなげたり


枯れた泉の底を蹴って

新しい水を湧かせたり


生まれが早すぎた獣の仔には

柔らかい羽毛をすりつける

すると 弱っていた仔はルーニィと同じほど元気になって

親たちに叱られるまで飛び跳ねる


森は広く 獣も木々も星と同じほどたくさんあるので

ルーニィたちは忙しい


実の成りが遅い果樹があれば

ルーニィたちは輪になって とび跳ねながらぐるぐる回る


回りすぎて果実が大きく重くなって

枝が悲鳴を上げることもある

お腹を空かせた獣たちが

急いでその実を取ってたべる


ルーニィのいる森はとても豊かで 獣も人も飢えることがない



ルーニィたちは跳ねながら踊る

ふわふわした羽毛をクッションにして

ポンポン跳ねて 空中でくるりとまわる


森の一番高い木のてっぺんに 細い新月がひっかかったら

ルーニィはそこで踊るのをやめる


ポンポンと跳ねまわっていたルーニィたちは

背中とくっつきそうなほどぺちゃんこのお腹をして

新月がかかった木の根元に集まってくる


ルルル ホウホウ ルルルル


夜の鳥たちが彼らに歌を贈る

疲れきったルーニィたちは

その歌を聴きながら 木の根元にパタパタ倒れこむ


月光色をしていた羽毛は からまった小枝と森の土で茶色に染まっている

生まれてからずっととび跳ねて 踊っていたルーニィたち

お腹がすいて とても疲れて もう動けない


ルーニィの命はこの夜に終わる

それは必ず真夜中で 新月がかかる一番高い木の根元で

同時に生まれた兄弟たちとくっつきあって

しずかに しずかに 目を閉じる



夜の風が ルーニィたちの羽毛を少しずつ吹き飛ばしていく

ルーニィたちはどんどん小さくなっていく


やがて月が木の枝を離れ

星々とともに空の向こうに沈むころ

新しいお日様の光が反対側の空に顔を出す


ルーニィたちはもういない


小さくなったルーニィは 夜の間に消えて いなくなってしまう

吹き飛ばされた羽毛が草の上をころころと転がって

茶色く丸まっているばかり




お日様の光が木の根元に届くと

丸まった羽毛たちが小さくふるえだす


早起きの鳥が朝一番の歌を歌いだす前に

最初のルールーニィが羽毛の隙間から顔を出す


黒い大きな瞳のルールーニィ


ルールーニィたちは丸い羽毛の卵から次々に顔を出し

古い羽毛を脱ぎ捨てる

ルーニィたちはこうして大人のルールーニィになる


そして背中に持っている薄くて大きな翅を広げ

生まれたばかりの朝の空を ゆっくりと昇っていく


彼らは日差しに温められた空気の中を泳いで

新しい森を探しにいく



一人だけ もといた森に残ったルールーニィは

次の新月までに卵をいくつも用意する


そして次のルーニィたちが

その卵から孵って また元気にとび跳ねる

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